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『ムッツリ娘とクロールと』

忘れられない味ってあると思う。
僕にとってそれは間違いなく奈良にある天理スタミナラーメン。もっと言うと天理の屋台で食べる天理スタミナラーメン。


高校生の頃、部活でやってた空手に夢中になりました、練習も厳しく年間の休みなんてほとんどなかった。そのおかげで奈良代表でインターハイにも出場できました。本当に頑張って良かったと思うし、今でも空手部のメンバーに会うと瞬間でタイムスリップして昨日のことのように部活の思い出を話します。
中でもキツくて辛かったけど、全員の思い出に残っているのは夏の合宿。天理大学の道場を借りで早朝からランニングに始まり、午前、午後の3部練。それを数日間、泊まりで行うわけです。しかも、その期間のどこかのタイミングで大学生も練習に混ざって(当時は、来んな来んな来んなキツいキツいキツい!と思ってました)くれるんです。


そんなこんなで長くハードな合宿期間の最終日の夜、毎年恒例の晩御飯がありまして(これを楽しみに頑張ったような気もする)、それが天理のとある駐車場に出店している屋台の『天理スタミナラーメン』。これを顧問の先生がポケットマネーでご馳走してくれるんです。ニンニクの効いた醤油鶏ガラの香る熱々スープに、白菜ニラ、豚肉の具材にちぢれた卵麺、それにプラスしてすりおろしニンニクをコレでもかというほど追加して、夏の夜に思いっきりすする!
汗を掻きながら食べた最高で最強の忘れられない味。
きっと忘れられない味って、舌とか脳で記憶してるんじゃなくて、心で記憶しているんだと思います。だって今、この文章書いててちょっと泣きそうなんですもの。


数日前のことです。我が家の長女(チビランド)がプールの進級テストに挑みました。内容はクロール25m。


0歳8ヶ月のころからベビースイミングでお世話になっているこのスクール。
最初は当然、親が一緒に入って抱っこして水に浸かる程度のことからスタート。浮かべたおもちゃで遊んだり、プール内を抱っこで仰向けにして浮かせてあげたり、妻と交代で参加しておりました。平日の午前中に僕が入れる時、若いママと赤ちゃんの中に1人のオジサンが赤ちゃん抱えて参加していてる空気は、コーチ含め全員が違和感を抱えていたと思います。あれから6年。少しづつ成長してきた長女。
2歳ごろかな、いよいよ1人で練習に参加するようになるとわかっての、最後の一緒のベビースイミングは親の方が寂しくなったのを覚えてる。ビート板を使ってバタ足、腰に浮き輪をつけてロケット(頭の上で手を伸ばし合わせて顔をつけてスタートする練習)、たくさんの練習とテストを繰り返し、6歳でクロール25メートルまで辿り着いた。
僕も小児喘息があったため、スイミングをやっていましたが、6歳でクロール25メートルなんて到底出来ませんでした。立派です。


テストは同じ段階の子たちにまとめられ、名前を呼び上げられた子から1人づつ、みんなの前で泳ぎます。次女の出産もあり、なかなか思うように練習に行けない日もありました、ですので月に1回のこのテストには、すでに何回も落ちています。諦めずに僕と2人で近くの温水プールまで行き練習したのもしょっちゅうです(彼女は大半遊びたがってちょこちょこしかクロール練習してません、これは妻には内緒)。
名前はいつ呼ばれるかわかりません。
それまではプールサイドで座って待機、緊張した面持ちかな?と夫婦で2階の見学スペースのガラス越しに覗いてみると、いつ出番が来るかわからないのに1人だけ、がっつりゴーグルをかけてスタンバイしている姿に2人で吹き出しました。
長女の課題は、水を掻く手が早すぎてフォームが崩れるのと、左手を背後から上げるときに肘が曲がってしまうこと、息継ぎの瞬間にキックが弱くなってしまうことの3つ。テストに向かう前に、この注意点を改めて伝えた時の真剣な眼差しは6歳の女の子ながら気迫を感じるものでした。
いつ呼ばれるかと本人以上に緊張して見守る僕と妻。プールサイドでゴーグルをつけたまま、こちらに気付き手を振った後に変顔してくる長女。空気を読んでベビーカーでスヤスヤ眠る次女。
5人目で名前が呼ばれました。スッと立ち上がり入水、コーチの号令と共にスタート。緊張感MAX!

水を掻くタイミング、バッチリ!

肘のまがりは? 伸びてる!!

息継ぎの時のキックは、強い!!!

がんばれ!!!!

25メートル完泳。

心の底から応援しました。

全員のテストが終わって、シャワーを浴びてから1人1人コーチに呼ばれ合否の発表。見学スペースからはコーチとのやりとりは聞こえません。ですが、合格していたらスイムキャップに貼り付けるワッペンがコーチから渡されます。10人くらいの子供が同じテストを受けていました。合否発表に向かうコーチの手元が僕のところから見えました。ワッペンを4つほど持っているように見えました。

合格してワッペンもらって笑顔で親元に戻る子。不合格で注意点を聞き、少し肩を落とし親元に戻る子。長女は、まだ呼ばれない。
見てる限りワッペンはもう3枚ほど渡されている。
あのラスト1枚、長女のか??

男の子が呼ばれる。
あの子の手に渡るのか?コーチの手元から目が離せない!

息を呑む僕と妻。

バスタオルにくるまって変顔してくる長女。

、、、、ラスト1枚は持ち越した!

変顔が真顔になった!

呼ばれた!

コーチが何やら長女に話してる。

2人に笑顔はない。

ダメか???

あんなに上手に泳いだのに、ダメなのか???

2人で行った温水プールで、遊びたい願望の強い長女に負けて練習も程々に、一緒にワーワー遊んだ自分を憎む!

そう思った瞬間だった。

ラスト1枚のワッペンが長女の手に渡った!!

他にもギャラリーがたくさんいるので押し殺した声で大騒ぎする僕と妻。

はにかんだようにチラッとコチラを見た長女。

『なんだよ!もっと喜べは良いのに!!笑』と妻。

たしかに僕に似て少しムッツリなところがある。

6歳でクロール25メートル合格。大したもんです。

洋服に着替えて、ワッペンをコチラに見せながらサムズアップして登場。

本当におめでとう。

次から、新しい泳ぎ方になります。この成功体験が今後の彼女の頑張りにつながりますように。

テストに合格すると決まって彼女が食べるのが自販機にある17アイスクリーム。

取り出し口から引っ張り出し、ソーダ味にかぶりつく。

まだまだ小さい口元が、なんとも可愛い。

彼女が大人になったとき、誰かに聞かれたら
『忘れられない味は17ティーンアイスのソーダ味』と答えてくれたら嬉しい。

おめでとう!

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