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『愛娘というモンスター』

第一子がお腹にいるとわかってから数ヶ月後、その子が女の子と判明した時のことを思い出す。

男兄弟で育ったため、男の子が産まれてくれたら自分がしてもらったように育てればいいかな、なんて漠然と考えていました。厳しさ優しさのバランスはこれくらいだろうな、というように軽めの想像もプランも多少ありましたが、女の子と聞いてから、そのプランは白紙。女の子の育て方なんて全く想像つきません、どう怒ればいいのか?どんなことを怒ればいいのか?そもそも怒れるのか?頭の中のペンは握れど新しいプランは一文字も書き込むことは出来ませんでした。


プラン白紙のまま、当然彼女は誕生し、おかげさまで元気にスクスク育ってくれました。オムツ交換に少しだけ苦労しましたが、慣れればなんのその。頭の中のペンが動き出さなかったことへの心配はいつしか忘れておりました。

ところが彼女が言葉を覚え始め、意思疎通ができ始めると、ノープランのままにしていたあの白紙が再び頭の中で姿を現しました。

今でもはっきり覚えています。

彼女が2歳になった頃、月一回の妻の自由時間『美容室の日』、毎月くるこの日は育児で疲れている妻を心身ともに解放するため、何日も前から僕の仕事のない日をキープし、美容室に行ってもらいます。1人ランチ、1人買い物、1人カフェ、とオプションもふんだんに付けて満喫してもらうリフレッシュの大事な日、ですので僕と彼女でお留守番。
赤ちゃんの頃は、僕と彼女も同伴で美容室にお邪魔しておりましたが、赤ちゃんではなくなったこのあたりのタイミングから、2人で過ごすのが恒例でした。

『じゃパパお願いねー!』

『はいよー』

玄関から聞こえる、月1の自由時間への期待からウキウキ感が抑えられないトーンの妻にリビングから返事。

可愛い彼女は玄関までお見送り。2人のやりとりが微笑ましい。

『じゃ行ってくるね!』

『うん』

『良い子にしててね!』

『うん』

『お土産買ってくるからね!』

『うん』

『もうお菓子食べちゃダメよ!』

『うん』

『行ってきます!ウ〜』

『うー』

妻のウ〜を合図に彼女も口を尖らし、行ってきますのチュウ。なんと幸せな光景だろうか。リビングから廊下の向こう、玄関に見える2人が暖色系のライトも相まって、優しい幸せの光を二人が発光しているように見える。

なんでもない日常の瞬間こそ、かけがえの無い史上の幸せの瞬間なのではなかろうか。

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