THE YELLOW MONKEY「天国旅行」
THE YELLOW MONKEYボーカル兼作詞作曲を務めている吉井和哉は天才だと思う。特に歌詞は文学の域に達している。
私は「天国旅行」「ホテルニュートリノ」「HEARTS(これはソロ名義)」などが好きなのだが、際立って凄まじいのは「天国旅行」だ。
まず出だしから凄い。
「泣きたくなるほどノスタルジックになりたい」
これを聞いた時背後から煉瓦で殴られたような心持ちがした。
「ノスタルジックな気分になって泣きたくなった」
という陳腐な歌詞ではないのだ。
あくまで「なりたい」のであって、泣いてはいない。生と死を歌っているのにも関わらず、主役は正気のままなのだ。
泣けない辛さ。それは私もよく知っている。そして「ノスタルジックになりたい」。これは思うがままノスタルジックになれないことも示している。八方塞がりの感覚を出だしから味合わせられるのだ。
また、少し大人向けの話になるが、一番は自慰行為に関する話をしているのだと思う。これはライブ盤のギターの弾き方で判る。ある種の陶酔、擦るような手の動き。自慰行為を生と死に分けた歌詞は他に類を見ない。自慰行為とは生、性に紐づいている。だが二番では死について語っているのである。
二番では恐らく自殺について歌われているのだが、その前に死の直前の生について言及している。自殺とはそういうものなのかもしれない。
「潮騒の音 快晴の彼方 そこに吹く風 その時の匂い」に関しては、泉鏡花の「龍瓢譚」の「その日一天うららかに空の色も水の色も青く澄みて、軟風おもむろに小波わたる淵の上には、塵一葉の浮べるあらで、白き鳥の翼広きがゆたかに藍碧なる水面を横ぎりて舞えり。」の一文を彷彿とさせる。吉井和哉がそれを知っているかは分からないし、ここからインスピレーションを得たなんてとてもじゃないが確信は持てないが、私はそう感じた。それ程までに美しい。
またそこから「苦しさを越え 喜びになる」からの「身体バラバラ 溶けてダラダラ 天国が好き 僕は幸せ」は急に理知的な歌詞から知能の低下を感じられる。それ程死が迫っているのだろう。それを言葉に出さず表現できることは凄い。
今度は音楽的な話になるが、一番から二番にかけての間奏部分でピアノの美しい調べが流れる。それは「けしの花びら さえずりひばり」の情景とリンクする。だがその後ギターの歪んだ音が流れのだ。これは美と醜が交互に現れていると解釈した。得てして面白いと感じるものは美醜の折り重なりにあると思う。それを音楽で表現しているのは素晴らしい。
長々と自己解釈を述べたが、とにかく「天国旅行」は是非とも聴いて頂きたい。文学だから。
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