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環境工学の専門家に教わった「地域の課題解決において“技術以上に必要なこと”」

富士通Japan徳島支社の濱上隆道です。2回目の投稿です。

先日、生態系工学、津波防災学、環境工学を専門領域として活躍されている徳島大学の上月康則教授 と地域課題について語り合う機会がありました。その中で、長年、地域課題に取り組んでこられた専門家ならではの貴重なアドバイスをいただきましたので、前後の対話を交えつつお伝えします。

上月康則(こうづきやすのり)
徳島大学教授(理工学部社会基盤デザインコース)。同大学 環境防災センター長。1990年、徳島大学工学修士、1994年、徳島大学博士(工学)。

「高度経済成長が残したツケをなんとかしたい」

濱上:上月先生とは、先生がずっと取り組んでおられる「絶滅危惧種になったルイスハンミョウが戻ってくるための巣作り活動」に参加させていただいて以来、いろんな活動でご一緒させていただきました。さらに十数回に渡って、徳島の魅力ある場所をご案内いただいてもいます。

上月:濱上さんと初めてお会いしたのは1年前のことでしたね。富士通Japanの徳島支社長として訪ねていらしたのに、少し自己紹介されただけで、仕事の話はあまりされなくて。「何しに来はったんやろ」と思っていたら、パーパスの話をいきなり始められました。あれを聞いて「パーパスはいいな」と思ったのを覚えています。 

濱上:富士通が企業としてのパーパスを発表したのが2020年。徳島支店(当時)はそれを受けて、支店のパーパスにあたるステートメントを策定して、地域課題解決のための取り組み「BIZAN PROJECT」を始めたんです。そこからまだ2年足らずですが、私たちもいろんな活動を通してその重要性を身をもって感じているところです。

上月:大学でやっているSDGsの講義での取り組みに似ていると感じました。学生全員が自分の名刺を作って、それぞれの活動目的をオモテ面に、結果をウラ面に書くようにしています。目的を宣言すると、学生自身がやるべきことを意識しやすいだけでなく、それをきっかけに周りの人たちと協力ができたり、つながりを持つことができたりします。勉強になりました。

津田方面から見た夕陽に映える眉山(2022年5月撮影)

濱上:先生のエネルギッシュなご活動には、いつも圧倒されるばかりなのですが、全国で水辺の環境改善活動にも力を入れていらっしゃいますよね。どうしてそんな活動に取り組もうと思われたのですか?

上月:学生の頃に水俣病に関心を持ったのがきっかけです。いわゆるバブル景気の頃で、当時、日本は世界から「ジャパン・アズ・ナンバー・ワン」などと言われてもいたのですが、その影には水俣病を引き起こすような公害もあって課題が山積みでした。高度経済成長が残したツケと言ってもいいかもしれませんが、それを何とかしたいと思ったんです。 

濱上:徳島でも、新町川の水辺の環境改善が盛んですね。

上月:新町川は魅力的な川です。桟橋からはクルーズ船に乗ることもできるし、とても開放的です。こんなに気持ちのいい場所はめったにありません。

濱上:今でこそそうですが、一時はすごく汚れていたと聞いています。

上月:「新町川を守る会」の会長をされている中村英雄さんに聞いた話ですが、昔は本当にきれいな川で子どもたちが泳いだりしていたそうなんです。でも、今から30年前に川底をさらってゴミを拾い上げてみたら、布団やバイク、自転車などが次々と出てきた。それを見た中村さんは「(川をきれいにするには)最低でも15年はかかる」と覚悟を決めて浄化に取り組むことにしたそうです。

まず大切なのは「地域の人たちからの信頼」

濱上:中村さんと同じく、上月先生もきれいな新町川を取り戻すための研究をしてきたとうかがっています。専門技術なども用いられたのですか?

上月:当初は、技術の力を使えば、効率よく川をきれいにできるのではないかと思っていたんです。でも、そう簡単にはいかないんですよね。どんな優れた技術があっても、使ってもらえなかったら意味がない。それには、何より自分自身を地域の人たちに認めてもらわけなくてはいけないし、技術以前に仲間に入れていただかなくてはいけない。

かちどき橋から撮影した新町川(2022年5月)

濱上:私達も地域課題解決に向けた取り組みを始めましたが、いろんな人たちと関われば関わるほど、じっくり向き合うことが大切なんだと痛感させられます。

上月:地域社会では、何をやるにしても地域の人たちからの信頼が必要なんですよ。地域の人と一緒に歩む覚悟が求められるんです。そのためにも、地域のいろんな場所に行って、いろんな人たちと対話する必要があります。

濱上:先生には、その対話のための機会を本当にたくさん作っていただいています。吉野川流域の視察をはじめ、高丸山の千年の森、佐那河内村での古民家での活動、江田の菜の花畑、上勝の棚田での田植え体験…など、いろんな場所を案内していただきました。

上月:地域との対話は、多くの企業がこれまであまり時間や手間をかけてやってこなかったことかもしれません。でも、ぜひともそこに挑戦して欲しいと思っているんです。そして、人口減少が続くなかで、以前と同じような発展モデル、成長モデルを描くのではなく、地域に住んでいる人達が、どうやったらハピネスを高めながら暮らしていけるのかを考えて欲しい。期待しています。

濱上:ありがとうございます。ちなみに先生ご自身は、今後、どんなことに取り組もうとされているのですか?

上月:生き物の住処づくりを事業として成り立たせたいと考えています。地域に生き物が戻ってきて、経済もちゃんと回っていく仕組みを作りたいんです。そして、人が互いに価値を見出して支え合っていけるような社会づくりにも貢献していきたいと思っています。

濱上:今日は本当にたくさんのご示唆をいただきました。貴重なお時間を頂戴し、ありがとうございました。 

上月:こちらこそ、対話のキャッチボールの中で、自分を振り返る機会をいただきました。

(インタビュアー:濱上隆道)

上勝町・橿原の棚田(2022年5月撮影)