最後に笑えれば
「来週もここでサッカーが観たいなあ」
12月1日、FC東京に快勝した後にそんなことを話していた。鹿島のACL優勝で日程がずれた天皇杯決勝。残念ながらバースデー決勝とはいかなかったけど、来週この場で、もう1試合勝利が観たいと心の底から渇望した。
12月9日、舞台は先週も来た埼玉スタジアム。もう1試合観たいという望みを叶え、その先にある待ちわびた瞬間まであと5分と迫っていた。水曜日に鹿島に勝利した浦和レッズは見事決勝に進出。仙台を相手に1-0とリードしてロスタイムに突入していた。時刻は20時近くをまわり気温は常時1桁を保つ。5万人を超えるサポーターたちの1人として、目の前で行われている22人の攻防だけに集中していた。大声を出したながら選手に声援を送る。試合前に意識高くして行くと良い思い出がないからと、あくまでも平常心を保っていた。いつもの試合観戦と変わらない。そんな昂る気持ちを抑えるように埼スタへ向かう。しかし、歓喜まであと5分。自分を縛っていた縄はすでに解かれている。勝っている時のロスタイムほど長い時間はないといつも思う。気が急いている証拠だろう。落ち着けと自らを正しながら応援を続ける。
残り時間はあと3分。浦和の選手がコーナーフラッグ付近で時間を稼ごうとボールを運ぶ。こういうことを徹底してできるようになったのは、今年に入ってからかもしれない。最後まで攻撃に美学を追求していた昨年までは、攻めてボールを奪われてカウンターを食らっていた。それもそれで思い出だけど。それでも今年から監督になったオズワルド・オリヴェイラは、本当にすごい監督だと身をもって知った。自分で言うのもなんだが、前任監督が解任されたタイミングでオリヴェイラがフリーだと知り、ずっと彼に監督をやってほしいと声に出して言っていた。実現してほしいことは声に出して言ってみるものだなと思う。トントン拍子で話が進んで、本当に浦和レッズのオリヴェイラ監督が誕生した。とにかくこの指揮官は言葉選びが多彩だ。それは浦和へ就任した最初の一言で集約されていると言っていい。
「浦和は、サッカーが呼吸をする街」
人間は呼吸をしないと生きていけない。息を吸って吐いているから生活することができる。つまり、浦和という地でサッカーは生きていて生活に順応しているということだ。最初の就任会見でそんなことを言えてしまうオリヴェイラのワードセンスを勉強したい。また表現力が豊かなところも好きだ。得点が決まると、もうすぐ70歳を迎えるとは思えないほど喜ぶ。喜ぶというかはしゃいでいる。怒りをあらわにしてしまうところも人間味があって良い。サッカーという前提を抜きにしても、こういう上司についていきたいという理想が詰まっている。サッカーの考察ではないから戦術的なところを書くつもりはないけれど、それを含めても今季の監督人事は結果的に願ったり叶ったりになった。浦和に来てくれて本当にありがとうオリヴェイラ。
そんなことを考えていたらあと1分。何だろうかこの余裕な気持ちは。もちろん1点差だから失点すればすぐに同点だ。でも失点するような気がしない。思えば決勝には滅法弱かった。悔しい思いをたくさんしてきた。鹿島とかガンバならコアサポーター並みに優勝しているところを目の前で見届けた自信がある。勝てば優勝というシチュエーションで負けるのは浦和の様式美になっていた。3年間で勝てば優勝という状況を4回経験しているけど、この我慢強さは今日が一番な気がする。新しいチームに生まれ変わったということを改めて感じた瞬間だった。
そして浦和レッズの優勝を知らせる笛が鳴る。ラスト1分でのあの余裕はどこへ行ったと言わんばかりに喜びはしゃいでいた。共に観戦していた友人と抱き合い喜びを分かち合っていた。何回経験しても優勝は幸せだ。あの瞬間は飽きることないし、これのためにチームもサポーターも一緒に戦っている。スポーツの醍醐味ってこれだよな。今シーズンは開幕からネガティブなことがたくさんあったし、観ていて面白くない時期もあった。でもどんな過程があっても最後にこうやってみんなで笑うことができれば何だっていい。美しく散るより、泥臭くても幸せを掴みとりたい。サッカーも、人生も。そう思わせてくれる決勝だったし、そう思わせてくれたチームに感謝したい。