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妊娠3ヶ月 │ においづわり │ 産前産後の〇〇は一生

妊娠が発覚してから、夫は前にも増して優しくしてくれた。
どこかで見かけた「産前産後の恨みは一生」という言葉が響いていると言っていたけど、本来優しい人だからきっと自然な形だったと思う。

私は「産前産後の恨みは一生」は、妻側にも当てはまるんじゃないかと、なるべく機嫌よく過ごすことを心がけていた。言葉の端々や態度に「自分だけ大変」みたいな欠片がないか、少しだけ気をつかうことにした。いたわってくれる夫も大変に決まっているから、お互い様精神で協力していこうと、夫の優しい気持ちに触れたからこそ思えたと思う。

そんなことを考えるほど余裕があり、妊娠初期症状はほぼないように思えたのもつかのまだった。
何故か、「紙の匂い」に敏感になり、つわりは十人十色ということを知ることになる。

妊娠3ヶ月に入る頃から食事に手をつけられなくなった。食事の匂いが今までにない、成分レベルまで細分化されたような感じたことのない匂いに変化して感じるようになった。台所に行くのも、冷蔵庫を開けるのも、スーパーに行くのも、徐々に辛くなっていた。

そんな私を見て夫は色々と調べてくれていて、ある日は「妊婦はマックのポテトを食べたくなるらしい!」と、好意でマクドナルドに連れて行ってくれた。
ポテトは好きだ。
ドライブスルーで受け取った瞬間、車の中にハンバーガーでもない、ポテトでもない、商品の入った紙の匂いが広がり、その匂いに一気に吐き気をもよおされた。さっきまで食べられるかもと思っていたのに全く食欲がなくなってしまった。
食事の匂いというより、あの茶色い紙の袋の匂いが私の消化器官の動きを鈍くさせているように感じた。

紙の匂いに敏感、というのは私の周りには経験者はいなかった。マクドナルドの匂い、モスバーガーの匂い、同じハンバーガー屋さんでも違ったし、新聞紙の匂い、広告の匂い、雑誌の匂いも違う。パンフレット類の匂いも種類によって全く違って、紙を見て何かを選ぶことが難しかった。

特別紙の匂いが苦手にはなったが、紙以外の何もかもの匂いが妊娠前と変わってしまった。夫の匂いも変化した。あんなに安心していた匂いだったのに、違和感を感じることもあった。家の匂いも鼻についてしまい、空気清浄機をかけて無臭にしている部屋にしか安心して居られなくなってしまった。
唯一変わらなかったのが、飼っているうさぎの匂いだった。何故だかわからないけど彼(うさぎ)の匂いだけは前と同じで、感覚を取り戻したかったり、匂いにとらわれてしまった時はもふもふに鼻をうずめさせてもらった。

3ヶ月から5ヶ月くらいまでこの症状は続き、加えて何故か口の中がいつも「美味しくない」状態だった。何かを食べて「美味しい」と感じても、すぐに口の中の「美味しくない」が勝ってしまい、食べることが大好きな私は辛かった。人生で初めて、本物の食欲不振を経験したように思う。

だんだん、台所に行くと色々な匂いが混ざりあって鼻に絡みついてくるようになったので食事を作れなくなり、台所の家事を夫がしてくれるようになった。
きっと食べれるだろうと作ってくれたものをひと口も食べられずに残すこともあったけど、めげずに毎日考えてくれていた。私は、目の前に美味しそうな料理があるのに口に運べず、持った箸を何度も置いては悲しい気持ちになって謝った。
でも、夫に申し訳ない気持ちはありつつも、とにかく精神を削らないように注意していた。心が折れてしまえば何もできなくなるので、無理しない、食べられる時に食べよう、もうダメな時は病院を頼ろうで、あまり自分を追い詰めないように気持ちを保っていた。「今はたくさん食べられなくても大丈夫、赤ちゃんは自分で栄養を持っているからね。」と言ってくれた主治医の言葉も私を安心させてくれた。
まだ小さいと言うにも小さすぎるのに、自分のごはん(栄養)を自分で持ってきているということに生命の不思議を感じつつ、お腹の中の生命が力強く「大丈夫だよ!」と言ってくれているように思えてとにかく私は生命を包んで毎日生きることを頑張った。

元々、嘔吐恐怖症に近い嘔吐嫌いで、妊娠と聞いた時にまず「つわりで吐く」という行為が怖いと思っていたけど、体調が悪すぎる時は何が嫌ということも考えられなくなり「もうどうにでもなれ!」という気概になっていた。
嘔吐はなく過ごすことができているが、上手く吐くことができたら楽になれたのかもしれないということも何度もあった。(嘔吐することも、嘔吐できないのもどちらも苦しいと思う。)

つわり真っ只中の時は「終わりがない」と思っていた。でも少しずつ症状は落ち着いた。
私の周りには出産間近までつわりが続いた人もいるし、今おさまっている私もまた再発するかもしれないし、その時はほかの症状が出るかもしれない。
でも、「大丈夫、終わるからね!」と、あの時の私、そして夫に言ってあげたい。

「産前産後の恨みは一生」は本当だと思うし、「産前最後の感謝は一生」もあると思う。私はあの時期に支えてくれた夫への感謝をこれから先もずっと忘れないと思う。本当にこの人と結婚してよかった、妊娠してよかったと苦しみながらも何度も思った。

そしてあの時一緒に頑張ったという同じ感覚を夫婦で共有できているからこそ、その後も今のところ、夫婦で協力しながら赤ちゃんを守ることができている。

これはもちろん今落ち着いているから言えることだけど、つわりも、夫婦の絆を強くしてくれる出来事だった。自分達が思っていた以上に、お腹の中の生命は私達を成長させてくれているように思う。

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