高校のグループに専用通貨と経済が生まれた話
はじまりはいつものサーバーにて起こる。
いつものDiscordサーバー。
そこには暇を持て余した高校同期が集まり、ボイスチャットを繋いで夜な夜な、日本の未来をどう変えようか話したり、世界を変えてしまうような言説を生み出そうとしたり、まあ大体はゲームをしたりしている。
サーバーの名は「結束」。
ある程度の年月が経ってもこうして繋がれている、ありふれた関係をいつまでも、という意味を込めてつけたわけではなく、当時見ていたアニメから適当につけた。
結束では、対戦ゲームをすることが多い。盛り上がる日には、それを観戦するだけのギャラリーもいたりする。
2,3人がゲームをしていて、もう何人かがそれを見ている、そんないつも通りの日常を過ごしていたあるとき、ギャラリーからとある声があがる。
正にいま、一匹の蝶が羽ばたいたのである。
専用通貨【kell】は、かくして生まれる。
もちろんこの日本国では、円を用いた賭けは違法である。
先の発言をよくあるありふれた一言として、流される。
ただし、たった一人、その発言を本気にした馬鹿がいた。
私である。
賭けの本質とは、お金を得る失うではない。
賭けることによって、ただの観戦者が当事者へと変わり、その場のあらゆる人を巻き込んで生まれる熱狂こそ、賭けの本質である。
だからこそ、掛けるものは円である必要はない。
実物である必要もない。
必要なのは、信頼性のある通貨管理システムと、それを用いる人だけなのだ。
仮想通貨のシステム自体は自分で作ることも考えたが、その経済に参加するメンバーが作ったシステムでは、信頼性に欠ける。もしかしたら作成者が自分の通貨だけこっそり増やすかもしれない。
当然そんなことはしないが、それができる余地がある時点で通貨の信頼性が損なわれるのである。
結論として、Virtual Cryptoと呼ばれるDiscord Botを用いることにした。
仮想通貨のシステムを構築するBotは何種類かあるが、このBotを選んだ理由は以下の通り。
機能が、通貨の発行と取引のみのシンプルなものであること
通貨の新規発行に制限があること(1日当たり総発行数の0.5%)
APIが公開されているので、拡張性があること
こうして結束ドル、略してkellがこの世に生を受けたのであった。
経済と法律が生まれることは、自然のことであった。
信頼性の高い通貨が出来たことで、そこに経済が生まれるのは自然のことであった。
この画像は、kellが生まれてから30分程度で出来上がった、「ショップ」の様子である。
大前提のルールとして、kellは現実との通貨との兌換性を持たないこと、というものがある。
当初は3000kellでピザ1枚配達、のような商品も並べられていたが、現実の通貨に換算できてしまうと、倫理的に良くない、kellの存在価値が現実に蓋をされてしまうということで禁止になった。
このような「法律」が生まれることもまた自然なことであった。
そのほか、生じた議論には以下のようなものがあった。
通貨を管理する政府は必要か
新しいルール(=法律)を作る、改定する場合にはどのような手順を踏むか
通貨の新規発行分は、どのようにして配布するか
インフレ対策をどうするか
通貨の信頼性とはなにか
これら以外にも様々な議論があり自分らなりの解答を得たが、その議論自体がとても面白いものであったので、ここにはその結末を記さない。
もし皆さんにも通貨を作る機会があれば、互いの制度の違いや成り立ちを比較するのもとても面白いことだと思う。
そして、私はショップで商品を売るのではなく、とある方法でkellを稼ぐことにした。
そう、賭けの支配人になることである。
勝者になるためには、先行者にならなければならない。
私は現実世界において常々、「この世は早い者勝ちである」と考えている。
銀行であったり、クレジットカードなどの決済システムであったり、そういったシステムを誰よりも先に築くことが、経済における勝者だと思う。
もちろん現実世界では、それらのシステムには既に先駆者がいるし、それらに今から参戦しようとしても到底不可能である。
しかしながら、kellにおいてはそれらが可能なのだ。
kellにおいては、システムを提供する側になることができる。
通貨の取引自体は、既にBotの機能で十分である。
そこで、kellが生まれた理由が「賭けをしたい」であったことを思い出し、賭けのシステムを構築し、その手数料を取ることが最善だと考えた。
私はエンジニアではない。
そんな賭け(しかも皆が納得する信頼性を持った)のシステムを構築するほどの技術はない。
せいぜいPythonが多少書ける程度である。
しかも結束には、LINEやAppleのエンジニアインターンにいっているようなライバルもいるのだ。
しかし、その時の私は燃えていた。
先行者にならなければならない。
そうして私がやる気だけで作ったシステムが、結束botである。
誰でも予想を主催でき、誰でも自由にkellを掛けることが出来て、正解の選択肢に予想していたひとが全取り、そんな単純な賭けである。
しかし、勝者が受け取るkellからは5%の手数料が私のもとに入る。
意識したポイントは、
機能はシンプルだが、透明性のある信頼できるシステムであること
エンジニアからしたら、もちろん作れるけど絶妙に作るのが面倒くさい完成度に仕上げること
である。
こうして見事、私は先行者となれた。
もともと、20,000 kell が全員に配られたが、これらのシステムにより私の現在の所持kellはご覧のとおりである。
私自身、めちゃんこ賭けに負けたのだ。
終わり。
おまけ
各々から参加kellを回収し、1位には10,000 kellもの優勝賞金を設けた大会なども開かれた。
チンチロなども作った。