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起業ファイナンスの基礎知識(中編)
皆さんこんにちは!Fivot人事部です。
前回に引き続き、ITエンジニア向けメディアの「Think IT」に、全5回にわたって寄稿をさせていただいた「ITエンジニア向けの起業ファイナンス」の要点紹介の中編となります。起業に興味がある方に役立つ情報となりますので、是非ご一読ください!
「ITエンジニア向けの起業ファイナンス」サマリー版(中編)
~資金調達戦略と成長段階別のアプローチ~
資金調達戦略における基礎知識と成長段階に応じたアプローチ
事業を拡大し、競争力を高めるためには適切な資金調達戦略が不可欠です。
本稿では、資金調達に関する基本的な知識と、成長段階ごとの具体的なアプローチを詳しく解説します。
目指したい将来像に応じた資金調達手段の選択
会社の将来像を描く
起業に際してやるべきことの一つには、会社の将来像を具体的にイメージするということがあります。具体的に言うと、以下の3つの選択肢の中から方向性を決めておきます。
会社を大きく成長させて株式市場に上場する道。
会社の価値を高めて、大手企業などに売却する方法。
安定した経営を続け、長期的に自分でコントロールする選択。
例えば、短期間での急成長を目指す場合は大規模な資金調達が必要になるかもしれません。
一方で、着実な成長を目指す場合は、中長期的視点に立ったより綿密な資金計画が求められます。
予め具体的な会社の将来像をじっくり検討し、明確化することができれば、資金調達手段としてデットファイナンス(融資)とエクイティファイナンス(出資)のどちらを中心に据えるべきかがおおよそ決まってきます。
資金調達の種類とその特徴
資金調達手段として大別されるデットファイナンスとエクイティファイナンスは、それぞれに独自のメリットとデメリットがあり、企業の成長戦略に応じて最適な方法を選択する必要があります。
デットファイナンスは、銀行融資や社債発行など負債を増やすことで資金を調達する手法です。エクイティ対比長期的に見るとコストが低く、株式の希薄化を避けられる等のメリットがある一方、返済義務と金利負担により、当座の資金繰りや財務内容を悪化させる可能性もあります。
一方、エクイティファイナンスは、株式資本を増やすことで資金調達をする手法で、株式を発行・譲渡することで資金を調達します。デットと違い返済義務がなく、将来性が評価されれば赤字や債務超過でも資金調達ができる可能性があることがメリットである一方、株式の希薄化により経営の自由度が制約されたり、経営権を失ったりする可能性があるほか、投資家の期待リターンが高いため、デット対比資金調達の実質コストは割高になります。
これらを踏まえ、目指したい会社の将来像とそれに合わせた資金調達戦略を分類すると以下の通りとなります。
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IPO(上場)は長期的な成長と独立経営の維持を志向した将来像であるため、スタートアップ企業の成長を支援するノウハウやネットワークを持っているベンチャーキャピタルを中心に資金調達候補先を選んでいくことをお薦めします。
M&Aは企業価値を高めて魅力的な買収対象となることを志向した将来像であるため、自社の技術や製品にシナジーや関心を持つ大手企業や業界関係者を資金調達先として検討する価値があります。
エクイティファイナンスは投資家へのリターンの還元(=IROやM&AによるExit)が必要となるため、長期安定経営を重視する企業は可能な限りエクイティファイナンスを控え、銀行融資などのデットファイナンスで調達し、経営権を維持することがお薦めです。
ステージに合わせた調達手段の検討
まずは公的融資で資金調達を
創業前後の資金調達には、まず公的融資、特に日本政策金融公庫の創業融資を活用することがおすすめです。
この制度は、実績がなくても融資を受けられる可能性があり、初期段階のリスクを軽減しながら事業の基盤を築く助けとなります。
また、無担保・無保証で利用可能で、金利も低めに設定されており、返済期間も長く据置期間も設定できるため、創業期に適しています。
融資の審査に際しては、早期に売上が計上され黒字転換が見通せる現実的かつ具体的な創業計画書が求められます。例えば、ITエンジニアであれば受託業務による収益確保を計画に盛り込むと説得力が高まります。
一方、前例のない新規事業は審査が通りづらくなる可能性があります。
次に信用保証協会の保証付き融資を検討
その後の選択肢として信用保証協会の保証付き融資(マル保融資)を検討すると良いでしょう。
この融資制度は、公的機関である信用保証協会の付保により信用補完を行うことで、民間金融機関による中小企業向け融資を活性化させるものであり、創業間もない企業でも利用できる可能性があります。
また、近年では経営者保証が不要なプランも存在します(東京都信用保証協会の「創業経保」は経営者保証なしで3,500万円まで融資が可能です(2025年2月現在))。
急成長を目指すならエクイティファイナンスを検討
急成長を目指す場合は、大規模な投資が不可欠であり、エクイティファイナンスを検討する必要があります。
この手法では、エンジェル投資家やベンチャーキャピタルが企業の将来性を評価し資金を提供します。ただし、株式の希薄化や経営権の譲渡といった課題もあるため、慎重な判断が求められます。
投資家向けの事業計画では、大きな市場での急成長の可能性や競合との差別化を明確に示し、将来的な上場やM&Aを見据えた長期的なビジョンを提示することが重要です。
ベンチャーデットという選択肢
ベンチャーデットは、成長中の企業にとって資本の希薄化を抑えつつ必要な資金を調達するための有効な選択肢です。ベンチャーデットは、特に以下の点でユニークな特徴を持っています。
借入期間が比較的短い:通常、数ヶ月から数年の間で返済が求められる
返済方法:一括または分割払い。分割払いの場合には、据え置き期間が設定されることもある
利息が高め:銀行融資と比べて利息が高く設定されるが、株式の希薄化を避けられるためエクイティと比較すると低コストと見ることもできる
新株予約権:一般的に、借り手企業は貸し手に新株予約権を付与するが、新株予約権を条件としないベンチャーデットもある
企業の成長ステージに適応:黒字化など収益が安定する前のステージにある企業にとっても選択肢となる
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弊社では、特にスタートアップ企業の成長初期から成長加速期において重要な資金提供を行う「Flex Capital」というサービスを行っています。これまで、250社以上の企業に対して80億円を超える融資を実行してきました。同サービスを活用し、成長を加速させると同時に財務の健全性を保つことに成功しています。
資金調達の成功事例と学び
B2Bのソフトウェア企業A社は、シードラウンドが終わったタイミングであり、ランウェイは確保されていましたが、PMF(プロダクトマーケットフィット)検証の実施が必要とされるフェーズでした。追加の調達が必要でしたが、少額の資金調達においては株式の希薄化は避けたいとのニーズがあり、そのニーズに合致するベンチャーデット(新株予約権の付与なし)を選択しました。調達資金は主に人件費やPMFの仮説検証のためのコストに充当。早い段階での資金確保により、計画的な事業運営を実現しました。
B2Bのテック企業B社は、事業がグロース期に入っており、ランウェイも確保され、資金繰りに問題はない状況でしたが、外部のエクイティ調達環境の悪化が懸念されたことから、ベンチャーデットを活用。新たな調達でランウェイを伸ばし、次回のエクイティファイナンスのタイミングをある程度自社でコントロールできるような状態を作ることに成功しました。
これらの事例から学べることは、ベンチャーデットによる資金調達を事業目標達成のために活用し、自由度を確保したうえで対応することの重要性です。
まとめ
資金調達は単なる手段であり、目的ではありません。
企業は成長目標やビジョンを明確にし、それに基づいた戦略を立案する必要があります。
資金調達の成功は、企業の価値を高め、社会に貢献する事業を実現する道筋を築くことに他なりません。
特に、急速に変化する市場環境においては、柔軟かつ計画的な資金調達が競争優位性を維持する鍵となります。
持続可能な発展を目指し、資金調達戦略を進化させていくことが重要です。
いかがだったでしょうか?サマリー版なのでもっと詳しく知りたいという方はこちらのリンクより全文をご確認ください。
第二回「多彩な資金調達手段と適切な選び方【前編】」
第三回「多彩な資金調達手段と適切な選び方【後編】」
第四回「ベンチャーデット」という資金調達手段
次回の後編では様々な成長戦略と創業後のファイナンスについて詳しくご説明します。