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日英同時開示の課題

東証による同時開示の義務化

東京証券取引所(以下、東証)では、海外投資家の投資を呼び込む等の目的から、2025年4月1日以降に開示する決算情報および適時開示情報から、日本語と英語の同時開示をプライム市場の上場企業に義務付けています。

出典:2024年2月26日公表の東証資料
「プライム市場における英文開示の拡充に向けた上場制度の整備の概要」より抜粋

ただ、現実は、当該資料について日本語版と英語版の両方を開示してきた企業の多くが、日本語版を開示の後、数日遅れで英語版を開示している、という対応だと思われます。

では、「同時開示」の実現に向けては、どのような方法が考えられるのでしょうか?


悩める企業のIR担当者

当社も同時開示について、すでにいくつかの企業様からご相談いただいています。そのうちの1件は、以前から下記の決算説明会資料の英語版の制作(翻訳+パワーポイント入力)をご依頼いただいている企業様からです。

(日本語版仕様)
ファイル形式:パワーポイント
第1および第3四半期:各20~30ページ
第2四半期および期末:各35~45ページ

(実際の作業)
①    日本語版開示の前日ぐらいに原稿をご提供
②    翻訳者に作業依頼
③    翻訳英文が出てくるまでの間(3~5営業日)、
  数表等の入力作業を済ませる
④    納品された英文をチェック後、パワーポイント入力
⑤    全体レイアウト調整・最終確認
⑥    納品
⑦    納品版を企業様が確認
⑧    HPにて開示
※①⑦⑧は企業様にて作業

②~⑥(当社作業)でだいたい7~10営業日を要します。企業様の確認日数を加えると、日本語版開示から約2週間後に英語版を開示する流れになります。

この2週間の差を0日にするのが、「同時開示」の意味するところです。改めてその事実を認識された企業のIR担当者の方はしばらく沈黙してしまいました。

制作会社の努力だけでは実現しない

(以下、決算説明会資料についてお話しします)
制作会社による翻訳や入力作業は、どんなに急いでも物理的に数日は必要です。「同時開示」する(「同時」に限りなく近づける)には、企業様のご協力が欠かせません。

1.日本語版の原稿提供を早める
前述のケースでは、7~10営業日ほど原稿提供を早めれば、同時開示が実現するかもしれません。しかし、日本語版自体、開示の直前まで制作されているのが企業様の実態だと思います。それでも、それを数日でも早めるのが、同時開示実現の大きな後押しになります。

2.社内のマンパワーを活用する
翻訳技術を必要としない数表等のコンテンツは、財務データ等を入手次第、社内で作業を完了させ、制作会社が担当する作業量を極力、減らすことも効果的です。

3.開示スタイルを変える
東証は、「英文開示は日本語での開示の一部又は概要の開示でも足りるものとする」と表明しています。これにより作業量を軽減できます。そして企業様が希望すれば、後日、全文を開示するスタイルをとることも選択肢の一つです。また、表やグラフを億円単位で作成すると、英文では十億円や百万円の単位による表示へ変更する必要が生じてしまいます。

4.機械翻訳で納得する
東証は、「英文開示は日本語の参考訳という位置づけでかまわない」と表明しています。ですから、割り切って機械翻訳と社内のマンパワーの活用で、限りなく同時に近い開示が可能となるかもしれません。ただし、英文の校閲責任はすべて企業様が負うことになります。

5.早く制作体制を整える
従来通りのやり方では同時開示は実現しないことは、IR担当者の方は十分に認識されていると思います。資料作成に関わる社内の各部署への協力依頼、制作会社の確保等、同時開示に向けた体制は早めに確立しておきましょう(2025年2月開示の決算資料で試験運用してみる、という企業様もいらっしゃいました)。

「同時開示」は、制作会社サイドの努力だけでは実現が難しいというのが、悩ましいところです。実際にご依頼を受けたら、果たしてどこまで「同時開示」に近づけられるのか、制作会社も悩みながら2025年の決算シーズンを迎えることになりそうです。


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