7月18日(火):不正請求と情報の非対称性
先般には中古車販売のビッグモーターで自動車保険の不正請求に関する問題が明るみになりました。
外部の弁護士らによる特別調査委員会の調査報告書によれば、ゴルフボールを靴下に入れて振り回し車体をたたいてへこませたり、バンパーを力づくで押し込むなどしてフェンダーを傷つけたり、ヘッドライトカバーをわざと壊すなどして顧客の車を故意に壊し、修理費が余計にかかったことにする手口で保険金を損保各社に水増し請求していたものです。
保険金不正請求は5年以上前から行われていた可能性が高いこと、全国に33カ所ある板金塗装部門で同様な行為が行われていた点の報道もあり、これら一連の不正が組織的に行われてきたことを示唆しています。
本件の悪質性が非常に高いのはユーザーと保険会社というビッグモーターが取引する両サイドをともに欺いている点です。
長期にわたってそれが横行していたのは「中古車」と「保険」市場のどちらにも「情報の非対称性」がある点が挙げられるでしょう。
中古車は新車と違い、同じ車種でも走行距離や使用状況が1台ごとに異なり、その価値が掴みにくいものです。
とりわけ事故歴の有無や部品の損耗状況は買い手にとってブラックボックスになっており、売り手しかそれを知り得ない構図で、そこに情報の非対称性があります。
また保険においても加入者側だけが持っている私的情報があるし、保険の申請に際しては支払う側の保険会社も申請以前の車の状況と事故後の破損によるビフォー・アフターの詳細な情報を常にウォッチできるわけではありません。
そうした情報の非対称性をもとに抜け道を見つけながら手を尽くしたのが先の一連の不正だといえます。
今回のように私的情報を持つプレイヤーが虚偽表示によるインセンティブ(不正な利益)を得て、虚偽表示をするプレイヤーが市場に残りがちになることは情報の経済学で「アドバース・セレクション(逆淘汰・逆選択)」と呼ばれる現象でもあります。
いわゆる「悪貨が良貨を駆逐する」ケースです。
このようなものが横行すると買い手はもちろんのこと、その市場で真っ当に営業しているプレイヤーもマイナス影響を受けるので、業界として自浄作用が働くようにしていくことが求められるだろうと思います。