ロジャー・スペリー
ロジャー・スペリーは、ノーベル賞を受賞した神経科学者で、とても影響力があったようです。スペリーは、1960年代から創発主義に影響され、還元主義や行動主義を批判する論文を書くようになりました。
スペリーの共同研究者の1人であるガザニガは分離脳患者の実験で有名ですが、「右脳と左脳を見つけた男-認知神経科学の父、脳と人生を語る」(ガザニガ著、小野木明恵訳)に、当時のことが記されています。とても興味深いのでここでまとめようと思います。
創発とは
所感
スペリーが創発主義を主張したころの周りの反応が面白いですね。ガザニガの本で以前読んで面白いと思ったのですが、どの本だったかなかなか思い出すことができませんでした。探して、やっと見つけました。「右脳と左脳を見つけた男」でした。
(スペリーの引用のところで、配位力という言葉がでてきますが、これは、おそらくConfigurational forceを訳したものと思われます。)
周りは懐疑的で、スペリーにこの話題をやめてほしいと思っていたと書いてあります。たしかに、スペリーの論文を読むと、一体、どうやって、高次レベルが低次レベルに対して自由になるなんてことがあるのだ、と言いたくなるでしょう。創発という言葉がそもそもよくないという気はしています。創発主義が言っていること自体はそれなりに筋が通っているのですが、創発という言葉は、何か未知の力によって、不可思議な現象が無から生じるようなイメージを与えてしまいます。なので、私は、創発主義には賛成ですが、創発という言葉はあまり使いたくないです。(スペリーも論文中では創発ということばをほとんど使っていないと思います。)
基本的には、このドイルの立場には共感できます。理由もなく、高次が低次を支配し、自由を得るなんてことがあったら、そんな薄気味の悪い理論には賛成することができません。私は、「創発」という単語が誤解を招いているのではないかと思います。私の立場は、創発主義によって主張されてきた「下向きの因果」は、設計し構築することができるもので、むしろ工学的な題材だと考えているのです。
この「右脳と左脳を見つけた男」という本は、ガザニガの伝記なのですが、スペリーだけでなく、ファインマンとか、ルドゥー、リゾラッティ、ラマチャンドランなど、いろんな有名な人がでてきて面白い本です。
この本を読むと、いかにスペリーが当時の神経科学において大物であったかわかります。そのスペリーが主張しても、多くの人が耳を貸さなかったのですから、創発理論を確立するということは並大抵のことではない、ということが想像できますね。でも、私は、スペリーが正しかったと思っているし、それを証明したいと思っています。
次回は、おそらくスペリーが初めて創発に関して記した1964年の論文をまとめたいと思います。