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スペリーの創発主義2

Sperry, "Brain Bisection and Mechanisms of Consciousness", 1965. 
スペリーの古い文献の紹介。スペリーは、分離脳といって、右脳と左脳が分かれた動物、人間の研究を行ったノーベル賞受賞者。

この論文は、スペリーが意識に関して論じた初期の論文。


自由意志

スペリーは、共同研究者のガザニガとともに、2名の人間の分離能患者の研究を行った。そのような患者の中で、ときに、右と左が異なる自由意志を持っているような振る舞いを見せることがあった。
たとえば、左でズボンをはこうとしているときに、右ではズボンを下げようとするなど。

以前、右でボタンをとめているのに、左ではボタンを外してしまう、という記述も見たことがある。

スペリーは、このような症例を観察することで、右脳と左脳に異なる自由意志が存在すると想像した。

一方で、不思議なのは、こういった例では、右と左とで逆の行動をする記述が多いことだ。右と左は、独立ではなく、制約されているのではないか、と疑いたくなる。

いずれにせよ、スペリーにとって、自由意志は重要な位置付けにあったと思われる。

行動主義と自由意志

心とは異なり、意識や本能、自由意志は、近年の行動科学で扱われていない。ほとんどの行動科学者は脳機能に自由意志が存在すると考えることを拒否する。すべての行動科学の発展は、自由意志は幻想に過ぎないという古い迷信を強化するだけのように見える。脳や行動を研究するほどに、より決定的で、法則的、因果的に見受けられる。
私はこのような思想を心地よいとは思わない。

Sperry, Brain Bisection and Mechanisms of Consciousness

単純な電子、分子、細胞のちからは、より高次のメカニズムの配位力(configurational force)によって打ち負かされる。
人の脳では、最上位は認識、記憶、合理性、判断などで、内部の化学力と同等あるいはそれ以上の因果的効力を持つ。

Sperry, Brain Bisection and Mechanisms of Consciousness

観察によれば、脳の損傷は対応する認知機能の不可逆的で永続的な欠損を導く。このような証拠は、意識は、脳機能と適切に結びついていることを示唆する。意識はある特定の脳回路によって生じる創発的な特徴であるという見方と矛盾しない。

Sperry, Brain Bisection and Mechanisms of Consciousness

スペリーは、自由意志は意識プロセスによって与えられると考えたようである。

Free wil is one of its the most treasured features of the conscious process.
自由意志は、意識プロセスの最も大事な特徴の1つである。

Sperry, Brain Bisection and Mechanisms of Consciousness

所感

科学において、自由意志はまったく手におえていない。研究できないと考えている人も多いが、スペリーは自由意志を意識によって生まれる大事な特徴であると考えていたようです。

スペリーの創発主義は、科学者の間では人気がなく、主に哲学に影響を与えたようです。デイビッドソンの「行為と出来事」。キムの「物理世界の中の心」など。でもこれらの書籍は1980年代以降なので、スペリーが意識の話を仕出した1960年代から、大分経っています。クリックとコッホが意識研究の開始を宣言した1990年よりもさらに昔です。

行動主義でも、工学でも、入力によって出力が決まるというモデルが扱いやすく、多くの研究者がその枠組で研究を行っている。逆に、入力によって決まらない、「自由」な意思というのを想像することができない。
人間の限られた知性で、「想像できない」からといって「存在しない」ことにはならない。人間にはまだ解明できていない未知の科学領域が広く存在しているということだと考えたほうがよい。地球外生命の発見と、意識メカニズムの理解、どちらが先に達成されるのだろう。。。

次回は、スペリーの創発主義を批判している哲学者の論文。


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