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ベトナムの地方行政再編:人員不足だった1976年の大合併と、余剰人員を切る2025年の再編

進むベトナム地方行政単位の合併計画
2024年2月28日付越字紙(ベトナム勧学会機関紙)「ザンチー/民智報」記事「ハノイ52坊社(町村級行政単位)合併計画」が、ベトナム地方行政単位再編の一環としての、ハノイにおける行政単位再編計画の概要を報道した。これに先立ち、ザンチー紙2021.7.18付記事「ベトナム地方各省の合併と再分割の沿革」は、過去の合併と再分割を回顧したのち、大規模な再合併に向けた展望として、それが2025~2026年に予定されていると書く。トー・ラム党書記長が指揮を執る「行政システム機構再編」は、地方行政再編に関して言えば、故グエン・フー・チョン党書記長時代から、党と内務省により、着実に進められていた。

バリア・ブンタウ省における行政単位再編についても、2024年12月24日付越字紙「ベトナム共産党電子報」記事「バリア・ブンタウ省の各地方、合併の準備良好」が報道し、その概要が明らかになった。

以下、ザンチー報2021.7.18付記事「ベトナム地方各省の合併と再分割の沿革」と、ベトナム共産党電子報2024.12.24付記事「バリア・ブンタウ省の各地方、合併の準備良好」を訳出する。

ベトナム地方各省の合併と再分割の沿革
https://dantri.com.vn/xa-hoi/nhung-lan-chia-tach-sap-nhap-tinh-o-viet-nam-20210718163704754.htm

1976年、ベトナム省級行政単位の再編の始まり
ベトナムは、南北統一(1975年4月)(訳者注:ここでいう統一は、サイゴン/西貢城舗、ザディン/嘉定省のホーチミンシティー/胡志明城舗への改称、国政指導政党の統一:南方解放民族戦線を主導した人民革命党の解散と、その労働党への合流を指すか。ベトナム南方共和国とベトナム民主共和国の合同、ベトナム社会主義共和国への改称は1976年7月の第6期国会第1回会合においてであり、またベトナム労働党のベトナム共産党への改称は1976年12月の第4回党大会においてである)以降、地方行政単位の成立(設立)、解体、合併、分割、境界調整などの、多くの段階を経てきた。

大合併
数年前に作成された「各級行政単位の境界管理に関する内務省の手引き」(Thông tin tổng hợp của Bộ Nội vụ về quản lý địa giới đơn vị hành chính các cấp-関於各級行政単位地界管理内務部総合通信)によれば、南北統一(1975年4月)の時点で、北方(Miền Bắc)25省市、南方(Miền Nam)47省市、全国72省市があった。第5期国会は1975年12月までに北部及び北中部における区級(cấp khu、いまのcấp quậnか)の罷去(廃止)、自治区(Khu Tự trị)の解体、行政単位の合一化、各省の合併を決議した。1976 年初め以降、北部・北中部から西南部(メコンデルタ)及び西原(タイグエン、中部高原)に至るまで、大規模な合併が進行した。1976 年の時点で全国の省市は36になった。

再分割
1978年、第6期国会はハノイ/河内の市域を拡張し、さらに5つの県をハノイへ合併することを承認したが、同時に、東北部のカオラン省が元のカオバン/高平省とランソン/諒山省の2つに再分割された。この時点で全国の省市は38になった。1979 年、東南部に省級行政区であるブンタウ・コンダオ/淎艚-崑島特区などが設立され、全国の省市は40になった。1989年、北中部のビンチーティエン省はクアンビン/広平省、クアンチー/広治省、トゥアティエン・フエ/承天-化省の3省に再分割された。南中部のギアビン省はクアンガイ/広義省とビンディン/平定省に再分割され、フーカイン省はフーイエン/富安省とカインホア/慶和省に再分割された(訳者注:中部南端のトゥアンハイ/順海省もこのときニントゥアン/寧順省とビントゥアン/平順省に再分割された)。この時点で全国の省市は40省、3市(3城舗)、1特区の44省市になった。1991年にも、北部のハソンビン省がハタイ/河西省とホアビン/和平省に再分割されるなど、以前に合併した各省の再分割が続いた。北部のハナムニン省はナムハ/南河省とニンビン/寧平省に再分割された。北中部のゲティン省はゲアン/乂安省とハティン/河静省に再分割された。東南部のドンナイ/同狔省から3つの県が分離され、ブンタウ・コンダオ特区と合併し、バリア・ブンタウ/婆地-淎艚省になった。この時点で全国の省市は53になった。1997 年にも一部の省が分割されて、全国の省市は61になった。具体的には、東北部のバクタイ省がバッカン/北件省とタイグエン/太原省に、北部のハバク省がバクザン/北江省とバクニン/北寧省に、ナムハ省がハナム/河南省とナムディン/南定省に、ハイフン省はハイズオン/海陽省とフンイエン/興安省に再分割された。

旧行政単位の回復ではない、全く新しい省級行政単位の設立
2004 年には更に3 つの省を分割し、省級行政単位(省市)の数は64になった。中部高原の旧ダクラク省はダクノン省(旧南越期のクアンドゥク/広徳省)と新ダクラク/多楽省に再分割された。カントー省はハウザン/後江省とカントー市/芹苜城舗)に分割された。旧ライチャウ省は新ライチャウ/莱州省とディエンビエン/奠辺省に分割された(訳者注:かつて南部は南圻六省と呼ばれ、東南部2省―ビエンホア/辺和省、ザディン/嘉定省、西南部4省―ディントゥオン/定祥省、ヴィンロン/永隆省、アンザン/安江省、ハティエン/河仙省から成っていた。1976年の大合併は、1945年の日本軍政及びフランスからの独立後、特に南部でこまぎれにされて激増した省級行政単位数を大幅に整理したが、それは1945年以前、阮朝期~仏領期の単位数に戻した観があった。従って、その後の分割は、基本的に再分割による1945~1975時期の旧行政単位の回復という形をとった。一方、2004年に行われた分割は、旧行政単位の回復ではない、全く新しい省級行政単位の設立で、人口的にも自然面積的にも小さすぎる単位が省になっていた)。

阮朝聖祖 明命二十年(1841)の南圻六省:CC BY-SA 3.0, 2011.7.06.
https://vi.wikipedia.org/wiki/Nam_K%E1%BB%B3_L%E1%BB%A5c_t%E1%BB%89nh#/media/T%E1%BA%ADp_tin:NamKy1832-1841.jpg

2008年以降、現状
2008年半ばまでに、国会は旧ハタイ/河西省の全域と、ホアビン/和平省の4つの社、ヴィンフク/永福省のメーリン/麊泠県をハノイに合併する案を可決した。2008 年現在、ベトナムには58省と5中央直轄市(中央直属城舗)を含む 63省市がある。

1961-2008年の各時期ごとのハノイ/河内行政地界, Asean City, 2021.7.21.
https://www.youtube.com/watch?v=cxiwWoHk3p8

再合併の動き:合併対象となる省級単位の人口及び面積条件
最近(この記事は2021年時点のもの)、内務省による、自然面積が小さく人口密度が高く土地資源が不足している省を合併する提案(及びその公衆意見募集)が、世論の大きな注目と懸念を集めている。内務省が発表した省級行政単位の改編草案では、合併なしで存続可能な山間地域の省級単位の条件は、人口90万人、自然面積8,000km2以上であり、非山間地域の省級単位の条件は、人口140万人、自然面積5,000km2以上である。2019年人口センサス(国勢調査)の結果に基づくと、内務省が提案する人口基準を満たしていない、人口が最も少ない10省(人口が31万4千人~73万3千人しかいない)は、西北部ライチャウ、ディンビエン、東北部ラオカイ、バッカン、カオバン、北中部クアンチー、中部南端ニントゥアン、中部高原コンツム、ダクノン、西南部ハウザンである。また、内務省が提案する自然面積基準を満たしておらず、自然面積が小さく合併推奨対象となる10省市は、北部バクニン822.7km2、ハナム860.5 km2、フンイエン926 km2、ヴィンフク1,238.6 km2、ニンビン1,378.1 km2、タイビン1,570.5 km2、ナムディン1,652 km2、南中部ダナン1,285.4 km2、西南部カントー1,409 km2、ヴィンロン1,475 km2である。

ベトナム内務省の提案における地方行政再編事業のタイムスケジュール
内務省の代表者は、各報道機関に対し、2022年から2025年までの間に、省級行政単位再編のための制度的枠組みを完成させ、所管官庁に提出するよう努めていると述べた。省級単位の合併は2026年から2030年にかけて実施される予定である。内務省はまた、上記の指摘を受けた各省について、個別に検討し、党中央執行委員会、党政治局、国会に提出すると確認した。省級行政単位再編草案は、つい最近内務省によって発表され、公衆意見募集中であるが、内務省はまた、2021年9月にも、「2022年から2025年までの県級・社級行政単位再編と2030年までの展望」をまとめ、政府首相に提出する予定である。2021年の第4四半期に、内務省は、党中央執行委員会と政治局にこの地方行政再編事業の検討と承認を求めるため、政府党幹事班にはかる。事業が党中央執行委員会で承認された後、(党の指導の下)政府は事業の実施に関する決議を作成し、その審議と公布を国会と国会常務委員会に求める。(早ければ)2022 年の第 1 四半期から、提案された計画と路程表(ロードマップ)に基づいて、県級・社級行政単位の再編が始まる(記事はココマデ)。

人員不足だった1976年の大合併と、余剰人員を切る2025年の再編
記事中では明言されていないが、ベトナムの1976年の大合併は、1975年の南北統一の際、旧南方政権の公務員・軍人が避難民として大挙出国したこと(合法的出国ができなかった人々はボートピープル=ベトナム難民になった)、また南方接収のために旧北方の公務員(1954年に南方から北方へ避難した「集結民」など)が大量に南方へ帰還・移動したことによる、究極の人手不足によるものだった可能性がある。この時期は、省があまりにも大きいため、実際の公共・行政役務の担い手は、省をとばして県になっていたといわれる。一方、ベトナム共産党の指導の下、ベトナム内務省が2021年から主導していたベトナム地方行政再編事業は、ベトナムが直面する若年労働人口の都市への流出(正確な数字はないが、地方農村には統計上の人口の2/3ぐらいしか実際には住んでいない印象を受ける)や、まもなく直面することになる人口減少・少子高齢化等の社会経済情勢の変化へ対応可能な、地方行政役務を担う基礎行政単位にふさわしい行政及び財政基盤の確立を目的とするものと考えられる。日本において平成十一年(1999)以来推進されてきた、いわゆる平成の大合併もまた、基本的には同じ目的で実行された。平成の大合併の結果、日本の市町村数は3,232(1999)から1,730(2009)となった。当時の与党・自由民主党と公明党の目標であった1000市町村には及ばないものの、市町村の平均人口は36,387人から68,947人に増え、自然面積も114.8 km2から215,0 m2へほぼ倍増した。日本と異なるのは、2025年現在ベトナムで進行中の行政再編では、人口と自然面積がしっかりある行政単位の確立を目指して、市町村級(ベトナムの県級及び坊社級)だけでなく、都道府県級(省級)単位についても再編を検討中の点だろう。続いてベトナム共産党電子報2024.12.24付記事を訳出する。本記事は、世界中どこでも極めて敏感な問題である、合併に伴う余剰人員の整理解雇にも踏み込んでいて、興味深い。
https://www.soumu.go.jp/gapei/pdf/100311_1.pdf

バリア・ブンタウ省の各地方、合併の準備良好
https://dangcongsan.vn/xa-hoi/cac-dia-phuong-tai-ba-ria-vung-tau-san-sang-sap-nhap-687331.html

バリア・ブンタウ省では1県5坊社が減る
2025年1月1日からバリア・ブンタウ/婆地淎艚省は7県市77坊社に移行する。以前と比較して1県5坊社が減る。ロンディエン/隆田県とダッドー/坦赭県が合併して新ロンダット県になる(訳者注:以前にもこの両県は合併してロンダット県だった時期がある)。現時点までに、関連する地域の合併の準備はすべて良好である。合併に伴い、ロンディエン県のアンニュット/安一、アンガイ/安義、タムフオク/三福の3社が合併し、タムアン/三安社となる。ロンディエン県の住民と当局は、行政単位の合併の日に向けて、着々と準備を進めてきた。合併の準備として、ロンディエン県人民委員会はまた、坊社の配置に関する国会常任委員会決議第1256号(1256/NQ-UBTVQH15)の実施の組織化について、2023年から2025年までのロンディエン県内行政単位再編に関する2024年12月6日付ロンディエン県人民委員会計画第15057号(15057/KH-UBND)を発出済みである。この計画第15057号に基づいて、ロンディエン県(1月1日からは新ロンダット県)人民委員会は、2023年から2025年までの期間、ロンディエン県アンニュット、アンガイ、タムフオクの3社をロンダット県の新タムアン社として再配置するための17の特定の任務を実施する。

2024.12.31までのバリア・ブンタウ省ロンディエとダッドー県(新ロンダット県)
https://sodl.baria-vungtau.gov.vn/article?item=a2849d46ac54a5779c85b66e8b4baae7

印鑑登録の取消・再登録へのサポート
行政単位の統合に際し、同省内の機関、部門やほかの行政単位の専門的業務に影響や混乱を与えないよう、また安定化を図るために、各公務員は、2025年1月1日から新本部となるオフィスで、12月26日から31日まで、前倒し勤務を開始する。県のワンストップ部門については、2024 年 12 月 31 日まで引き続き書類と行政手続きを受け取り、処理する。県人民委員会は、県専門部門や機関、地区の公共役務部門、坊級・社級人民委員会に対し、取消・再登録が必要な印鑑登録名簿の作成を早急に完成させるよう指示した。これらの印鑑の印影は厳重に封印され、省警察の指示に従い、12月11日に(新ロンダット)県人民委員会に送付された。

素行や住民世論を考慮しつつ余剰人員を切る(労務管理的に適切な整理解雇・配置転換をはかる)
アンニュット、アンガイ、タムフオクの旧3社は、新タムアン社としての行政単位への配置後、庁舎および公共資産の配置および管理、統計、目録、記録と文書の作成、新旧行政単位間の引き継ぎと受け取りを実施する。(新ロンダット)県人民委員会はまた、ロンダ​​ット県及び新タムアン社への移行後、県級・社級での勤務場所移転計画草案を作成した。具体的には、12月20日から25日にかけて、既存のダッドー県庁舎を新ロンダット県行政センター庁舎とし、既存のタムフオク社庁舎は新タムアン社庁舎とするための、移転作業を実施する。ロンディエン県人民委員会によれば、タムアン社の新しい政治システム機構では機構組織の健全編成(訳者注:リストラ)がなされ、社職員 2 名と社非常勤職員 2 名の編制精簡(整理解雇)が行われ、また社非常勤職員4 名の他社への転過(配置転換)が行われる。これらの隊伍(人員整理の対象となる職員たち)について、県人民委員会は主動的に(彼らの)思想(素行)と(彼らに対する)世論を把握し、また(ほかの)機関、組織、単位の職員に対する余剰の制度・政策の解決に努めている。

地域の組織及び住民のための各種書類の変更や取得サポート
新ロンダット県人民員会と、アンニュット、アンガイ、タムフオクの旧3社人民委員会は、関連する機関、単位、組織と主動的に調整して、(合併と移転にかかわる)組織及び個人のための各種書類の変更手続きに関する宣伝計画を策定し、また変更手続きを展開している。変更手続きにあたっては、組織及び個人の便を図るために、(行政単位の合併・改称という)規定に基づく変更を実施する場合に、料金及び手数料を徴収しない(không thu phí, lệ phí)。以上。


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