「2025年の崖」の当年、ベトナムでも深刻な「高給と充実した福利厚生を準備しても IT 人材を採用できない」理由と解決の手がかり
2025.1.16付け日経クロステック記事は、七年前に予測された「2025年の崖」の当年、予測どおりの情報技術(IT)人材不足により(当時は230万人不足すると考えられ、今も80万人不足すると考えられている)、中高年 IT 技術者の転職がより容易になると推測する。
人材不足が日本ほど顕著でない米国やカナダでは、2022~23年上半期は IT 産業全体でレイオフや採用止めが見られたが、不足が深刻な日本でも、そして日本などに IT 人材を送り込んでいるベトナムにおいても、IT 技術者の就職、企業による IT 人材確保は容易ではない。人工知能(AI)技術者であっても、引く手あまたという売り手市場(seller's market)ではない。現状は、企業側から見れば、IT 人材が足りているのではなく、適切な IT 人材を見つけることができない状態、依然不足している状態であるということができるだろう。2024.7.22ごろ公開された韓国系ベトナム IT人材リクルートプラットフォーム運営企業「トップデブ」HPに、IT 人材不足の解決に関する記事が掲載された。内容としては新奇なものはないが、人材獲得にあたり考慮すべきこと、なすべき基本が簡潔にまとめられていて参考になる。以下、訳出する:
高給と充実した福利厚生を準備しても IT 人材を採用できない理由
TOPDEV
はじめに:IT 技術者の採用はなぜ難しいのか
情報技術の急速な発展と第四次産業革命(Industry 4.0)の影響下、IT人材の需要は依然高い。毎年、何千何万もの IT 技術者がこの潜在的な雇用市場に参入している。しかし、企業は依然として適切な IT 人材を見つけることができていないという逆理(パラドックス)がある。IT 技術者の採用はなぜ難しいのか。問題解決の手掛かりがあるとすれば、それは何か、本稿で考察する。
毎年15万人から19万5千人の IT 人材が不足しているベトナム
過去、IT 業界における人材需要が冷え込んだことはなかった。TopDevの2022年のベトナム IT 市場レポートによれば、現行の成長率では、2024年には市場には80万人のプログラマーが必要になると予測されていたが、ベトナムでは、依然として毎年15万人から19万5千人のプログラマー(立程員)・技術者が不足している。この不足は、企業にとっては、自社に必要な人材を見つける過程での好ましくない圧力になる。毎年 50,000 人を超える IT 専攻及び非 IT 専攻の新卒者がIT 労働市場に参入する。しかし、質と量の両方の要件を満たす候補者群を見つけるのは困難である。この困難の原因は求職側と求人側の両方にある。
求職者がかかえる問題
1. 質の問題
企業が必要とする IT 人材を得られないのは、企業の要求を満たす質の高い IT 人材が不足しているからである。多くの企業は、①深い技術的知識、②高度な技術的能力(スキル)、③実践的な経験を兼ね備えた人材を求めている。しかし、特に IT 人材が限られている分野などでは、そのような人材を得るのは困難である。
2. 転職率の高さ
IT 専業労働者は、一般的に、経歴向上(キャリアアップ)のために新たな機会を求める傾向がある。ある企業で働いているとき、別企業から魅力的な条件を示されると、そのオファーを受けてしまう。そのため、企業は常に新しい人材を採用し訓練し直すという問題に直面し、(IT 人材を活用した)ビジネスの安定性と発展を維持することが困難になる。
3. IT 自体の職務の多様性
IT 分野の職務は非常に多様で、システム分析、ソフトウェア開発、ネットワーク管理など、さまざまな職種や役割が含まれる。企業は、その企業が求める特定の役割に適した IT 人材を探して選択しなければならない。これも、企業の IT 人材採用をより複雑にする。
4. 外国語能力の制限
外国語は IT 技術者当人にとって頭の痛い問題である。外国語ができる人材とできない人材の間の給与や機会の格差は非常に大きい。外国語スキルを持たない候補者は、特に企業において外国人のパートナーと協働する場合、企業が求めるすべての職務要件を満たすことが困難になる。
求人側が抱える問題
1. 条件競争
IT サービス産業のような急速に成長している業界では、企業は優秀な IT 人材を引き付け、維持するために互いに競争する。大手・有名技術企業は、魅力的な採用条件で優秀な人材を引き付けることがよくある。こうした競争により、中小企業や新興企業は採用が困難になる。
2. 不適切な採用方法
企業が煩雑な採用過程を人材に要求する場合、複雑な手順と処理の遅さが生じる。これにより、潜在的な候補者は忍耐力を失い、より柔軟な採用過程を持つ他の場所での求職活動に目を向けてしまう可能性がある。採用方法を改善することで、採用効率を高め、より優秀な候補者を引き付けることが可能になる。
3. EB(雇用ブランド構築)
企業の EB: Employer Branding(雇用ブランド構築)もまた考慮すべき要素である。その企業が IT 分野であまり知られていなかったり、評判が良くなかったりすると、優秀な人材を引き付けることが難しくなる。この問題を解決するには、広告に投資し、優れたブランドを構築し、IT コミュニティと良好な関係を築き、潜在的な候補者を引き付ける必要がある。
効果的な IT 人材採用のためにできること
IT 人材の採用における困難を克服していくうえで、企業は、企業にとって適切な候補者を見つけるために、同時に複数の方法を適用する必要がある。以下は、その方法の一端である。
1-雇用ブランド構築の実行
EB(雇用ブランド構築)を強力に実行することは、IT 人材を引き付ける上で重要な役割を果たす。その方法として、専門・専業的かつ魅力的な採用ウェブサイトの開発が挙げられる。Facebook や LinkedIn などのソーシャル メディア チャンネルを使用することも、EB実行の効果的な手段である。企業は、採用広告の掲載、求人情報の共有、企業業績の強調など、これらのソーシャル ネットワークの機能を活用することで、人材を引き付けることができる。
2-IT コミュニティにおける共有文化の創造
IT 業界は変化が激しい。3 ~ 6 か月ごとに新技術が登場する。開発者たちは常に新技術を学習して更新し、技術開発路程表(ロードマップ)に注意を払う必要がある。このような IT 人材が企業に求めるのは、「この企業はわたしにふさわしいスタックをもっているか」、「この技術チームは新技術を自分にも開放してくれるか」、「この企業で人々と協働することで、わたしは何を開発できるようになるか」ということである。そう考える、いま現在積極的に仕事を探していない優秀な潜在的候補者を引っ張るための方法の一つが、IT コミュニティにおける共有文化の創造である。ミートアップに企業から社員を話題提供者として派遣したり、企業としてコミュニティにおいて定期的に知識を共有できるよう社員にブログを書かせたり、ハッカソン(合宿)、コンテスト(競技会)、アワード(表彰)を企画したり、コミュニティの技術イベントに企業として参加したり、技術ニュース サイトのインタビューに参加し、潜在的な候補者からの質問に企業として答えたりすることは、すべて好ましい活動である。毎月1回のように定期的に、規模の大小を問わずイベント・活動を実施することで、求職者が転職する必要が生じたときに、求人広告を掲載しなくても、その企業が求職の第一候補になり得る。
3. ニッチに焦点を絞った雇用ブランド構築の実行
企業には、アウトソーシングを行うもの、SaaS を行うもの、AI、ビッグデータ、ブロックチェーンを行うものなど、独自の特徴がある。企業が必要とする、テクノロジー・アーキテクチャの中で採用が最も難しいニッチに焦点を当てる戦術もありえる。たとえば、PHP Webインターフェースを備えたeコマース用のSaasを利用している中で、経験値を向上させ、成果率率を最適化するために人工知能(AI)/機械学習(ML)ビッグデータ・アプリケーションを使用している企業であれば、AI/ML ニッチでのEB実行に焦点を当てる。これによりウェブ上の候補者らは自動的にその企業を認識するようになる。
4-採用過程への技術の応用
採用過程の中に応募者管理ソフトウェア、採用ウェブサイト、人工知能 (AI) などの技術工具とシステムを応用し、候補者の発掘と評価過程における時間を節約し、精度を高める。技術の応用は採用過程の多くの段階を自動化するのに役立つ。
おわりに
本稿では、IT 技術者の採用が難しい理由と、その解決の手がかりについて考察した。企業は、人材獲得に関する適切な解決策を構築することで、優秀な IT 人材を引きつけ、将来の課題や機会に立ち向かう強力なチームを形づくることが可能になる。以上。