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『令和のご近所付き合い』が生まれる場 [Footwork & Network vol.27]

長岡ゼミで活動する中で、私が関心を持ったテーマのひとつが『サードプレイス』でした。『b-lab』という中高生を支援する施設の運営に関わる中で、そうした家庭でも学校でもない"第三の居場所"を作ることに興味を持つようになりました。

かみいけ木賃文化ネットワーク

池袋駅からひと駅「北池袋駅」徒歩5分

上池袋の空き家問題


今回のF&Nは、少し変わった『居場所』のことを書きたいと思います。紹介するのは、上池袋にある1975年築の木造2階建の物件『くすのき荘』です。

この『くすのき荘』は元々は誰も住まなくなってしまった木造建築のひとつでした。

ここ周辺のエリアは、木造建築が密集している"木密地域”でこうした建物がたくさんあります。しかし昔懐かしい建築は、時間が経つにつれて空き家になってしまう場所が増えていました。

取り壊しになってしまうモノも出てくる中で、違うやり方でこの建物を活かせないかと考えたのが、山本 直さん・山田 絵美さんご夫妻でした。

空き家だった木造建築をアトリエに


「くすのき荘」はもともと運送会社の事務所・住居でした。

なので天井も高く、倉庫に使っていたような広い場所もありました。そんな特徴的な建物を活かして、お二人は、この場所を”アーティストたちのアトリエ”として改修しました。

2024年8月現在の利用者は、卒業制作に励む美大生や、藍染をするオランダ人の方、オンラインサイトで販売する模型づくりをする人まで様々です。サブスク費を払うことで、会員の方は個人ブースをひとつ借りることができます。

『くすのき荘』にあるのは個人ブースだけではありません。2Fの共同ラウンジではキッチンが使えます。そこで、みんなで晩御飯を食べることもあれば、ただゴロッと寝っ転がってみたり、みんなのリビングです。実際に、山本さんと山田さん(+猫のおこめ)が普段は暮らしています。

新たに広がるネットワーク


大幅な機能面での改修やリノベーションを施したわけではありません。昔ながらの雰囲気はそのままに、建物の特徴は活かしたまま、自分たちで新たな使い方を見出す。それが『かみいけ木賃文化ネットワーク』です。

これからは実際に自分がこのネットワークで体験したことをお話しします。そして、そんな体験からテーマであるサードプレイスについて考えていきたいと思います。

地域住民 x アーティスト

アトリエの隣にある喫茶メリー

アーティスト"以外"の利用者


私は木賃文化ネットワークの取り組みのひとつ、『喫茶売店メリー』を利用する客でした。アトリエスペースのとなりにOPENしたのですが、ここは会員だけではなく一般の人も利用できます。

家の近くにあるのでよく使っていたのですが、たまにアーティストの方が制作している場面に立ち会うことがありました。

すると山本さんが「この人面白いよ」とみんなに紹介してくれる。アーティストの方がお休みになったら、「何を作られてたんですか?」「いま美大の卒業制作に追われてて・・」と話せたりもする。

こんな風になかなか出会えないアーティストの方と出会って話すことができる。そこに面白さと居心地の良さを感じていました。

そうして喫茶売店で過ごす時間も長くなっていき、実は4月からは『くすのき荘』の会員になりました。私は作品を制作しているわけではありませんが、アーティストたちと同じようにこの場所で過ごしています。同じ空間で晩御飯を食べたり、作業をしたり。

アーティストが大半を占める会員ですが、僕みたいな利用者もいます。近くに住む人が居心地の良さから、コワーキングスペースとして使ったり、入り浸ってみたり。

地域に開かれた場所へ


そんな「くすのき荘」ではイベントも開かれることがあります。くすのき荘の会員が企画して、地域住民を呼んだり、隣の公園で遊んでる小学生を誘ったり。先日は藍染体験教室が開かれて、参加者はTシャツに色々な模様を染めていました。

6月には私もワークショップを開きました。この時はアーティストの方の力をお借りして、シルクスクリーンプリントをしてもらい、『IKEBUKURO LIVING LOOP』という街のマルシェで使う暖簾を作ってもらいました。

そんな風にしてアーティストの方にとっても、地域の方にとっても、馴染みのある場所になっていることを感じます。

令和のご近所づきあい

もはやアーティストだけの居場所ではない「くすのき荘」には、地域に開かれた"ゆるい繋がりのようなもの"が生まれています。そして木賃文化ネットワークのお二人は、それを「令和のご近所づきあい」と呼んでいます。

毎月7日は七輪の日らしい

みんなで食材を持ち寄る「七輪の会」


月に1回「七輪の会」が行われます。喫茶の営業終了後にはじまるのですが、会員の方も非会員の方もごった返しになって、持ち寄った食材を焼いては食べます。

山本さんは「前までは参加名簿をとっていたけど、今は誰でも参加していいようにしている」と言います。なのでアーティストの方も、地域住民の方も、喫茶店のお客さんとして来たら突然誘われたなんて人も。イベントというほど畏まってない、みんなでただ晩御飯を食べてるような日常感があります。

Slackでの「お裾分け文化」


「ご近所づきあい」というと、思い浮かべるのは”お裾分け”です。現代の東京にはない文化に思えますが、くすのき荘では頻繁に行われています。会員は全員Slackに入ってるのですが、この前はそこでガチャガチャの交換会がやりとりされてました。

お裾分け文化がデジタルを使って行われています。

どんな"居場所"なのだろう

それでは改めて、なぜ「くすのき荘」は人が集まりたくなるような居心地の良い空間になっているのでしょうか?

程よい距離感


ひとつ、自分の経験から考えたのは"程よい距離感”だと思いました。

確かに「くすのき荘」は場に人が集まって、居場所として過ごしていて、ご近所づきあいのようなコミュニケーションが生まれている。

ただ自分がこれまで考えていた「ご近所づきあい」って少し煩わしいものでした。地方や昔ながらのご近所付き合いって、関係を保つためには気を遣わなきゃいけないし、プライベートにも侵入されるイメージ。

だけど「くすのき荘」で行われているコミュニケーションには一切そういう感じがしないんです。

会員同士は繋がっていたり、定期的なイベントはあるものの、どれも参加が強制されるものではありません。また、完全にオープンな場というわけでもなく区切りもある。それでも、そうした付き合いが完全になくなると、それはそれで寂しい。

そんな「あちらが立てばこちらが立たず」みたいな要素が絶妙なバランスで成り立っており、それが居心地の良さの正体なのではないかと感じました。

程よい関係、程よい繋がり、程よいオープンさ。

それがこの場所を”居場所”たらしめているものだと考えました。そして、この程々さがお2人のいう「令和のご近所づきあい」になるのではないかと私は考えました。

他のサードプレイス


私が関わっている中高生の居場所も完全にパブリックではなく、利用者は限られていますし、インフォーマルとはいえ何をしても良いわけではありません。やっぱり絶妙なバランスで成り立たせています。完全に見知らぬ人との出会いがあるわけじゃない。

そう考えると、きっと他のサードプレイスもそうした絶妙なバランスで成り立っているはずだと思いました。なので、これからはただ過ごしてみるだけじゃなくて、そうした居場所の”ほどよさ”に注目していきたいなと思います。




最後に


「くすのき荘」はいつ行ってもいいし、いつ出てもいいのですが、山本さんは久しぶりでも「また顔出してきたな、お前!」と声をかけてくれますし、山田さんは「暑い中よく来たね」と世間話をしてくれます。

そんなお二人がいつでも待っている場所というのも、この居心地の良さには欠かせない要素だと思います。

改めて記事にご協力いただき、ありがとうございました!

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