【コランダ地方】無いものねだり


太陽の写し身のような輝く貴女。
薄氷の翅を持つ私は、相性故にあまり関わったことはなかった。
けれど怪我を負いひとり月を見あげるその姿に、目が離せなくて。
気が付けば自然と声をかけてしまっていた。

「私の熱に溶かされない位置で頼むよ」

そう告げた貴女の顔が寂し気に見えたのは、気のせいではないのだと思う。
けれどそれを指摘するほどの度胸は、残念ながら私にはない。
マスターであれば、或いは彼の兄弟であるオセアンであれば、こういったときにふさわしい言葉を紡げるのだろう。ああ、年長者であるモジェもきっと気の利いたことを言えるのだろうか。
親しい、尊敬するものたちの言葉を思い返す。けれど、彼らの自然な仕草をまねたところで滑稽なだけだと、思考を閉じた。

「…では、お言葉に甘えさせていただきます」

ありきたりな言葉のみを溢して、私は彼女の隣に降り立つ。その間には幾ばくかの空白を置いて。
少し離れた位置に身を休めた私を見て、彼女は満足したように視線を再び夜空へと向けた。その横顔を眺めたまま、私も言葉を溢す。

「私は友たちの中で、最も戦いには向いておりません。優れた才を持つ貴女には、敵わないのでしょうね」
「では、先の話はなかったことにしよう」
「……いえ」

否定の言葉に、再び彼女が私へと視線を向けた。太陽の色に映える、空色の視線を。

「それでも、いつか挑ませてください。一度向けた言葉を無下にする失礼は、働きたくありません」
「そうか。…そのときは、遠慮なく」
「ええ、是非」

本来はもっとバトルに向いた能力をもった同胞たちが沢山いる。けれど、マスターはごくありふれた能力の私にも戦える術があることを教えてくれた。
だからこそ、生まれ持ったこの体と特性を疎ましく思ったことはない。
けれど。

「なので、今宵は愚痴を向ける壁だとでも思って下さいませ」

私の翅が、炎すら鎮める氷の鱗粉を持っていたなら。
私のこの体が氷でさえなければ。
寂しそうな、哀しそうな貴女に寄り添うことが出来たのに。そう思うのは、仕方のないことでしょう?

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