【コランダ地方】春の終わり、約束の先
はなやかで穏やかで、楽しかった祭りは終わりを迎える。
木々から散っていく花びらを眺めながら、メイジーは手元に収まった赤い花のブローチを指先で弄んでいた。
色々なことが起きた数日間だった。
ココ以外で初めて見た色違いのポケモンに会話の輪に入れてもらったり
自分とは住む世界が違うようなキラキラした人たちの隣に並んだり
ココに自分たち以外のお友達が出来たり
__…また会うためのお誘いを、してくれたり。
思い出すと自然と頬が熱くなるようで、メイジーは慌ててフードを深くかぶり直す。
旅に出る前は誰かと楽しく話すことなんて、自分にはないものだと思っていた。
「皆のお陰だね」
背中を押してくれたララや周りに分け隔てなく接することが出来るココ、そしてあの時メイジーの手を引いてくれた色違いのエルフーンに思いをはせる。
感謝の意を込めてココの頭を優しく撫でてやる。嬉しそうに笑うココの頭には、可愛らしい花がちょこんと飾られていた。
「あのアオガラスさんやアーマーガァさんにも、お礼を言わないと」
ココと一緒に祭りを楽しんでくれたことも、友達になってくれたことも、ココを見守るメイジーにとっては自分のことのように嬉しい。あの子たちも随分と人慣れていた様子ではあったことから、きっと誰かの手持ちポケモンなのだろう。いつかトレーナーの方にもお礼が言えたら、と今までの自分では思い浮かばなかったであろう選択肢が頭に浮かんで、少しばかり照れくさそうに少女は笑う。
この祭りはお世話になった人へ感謝を伝える風習から始まったと聞いた。
だというのに、逆に感謝をすることばかりが増えてしまった。
太陽色の羽をもつ子たちと、そのトレーナーにいつかお礼を言いたい。
それに色違いのエルフーン…ジュナミちゃんにもまた会いたい。そのうえで、改めてあの子ともお友達になりたい。
少しばかり勘違いをしてしまった、ニューラとそのトレーナーには謝罪をしないと。まだ彼らの名前だって聞いていないのだ。
「やりたいことがいっぱい増えちゃった」
でも、と。はにかんだまま、隠れた前髪の下で眉を下げる。彼女の手の中には、大切そうに赤いブローチが握られたままだ。
「まずは、約束守りに行かないとね」
丁寧にブローチを鞄にしまい込んで、メイジーはココが寄り添っていた卵を優しく抱き上げる。泥で汚れてしまっていたそれは今は丁寧に磨かれて、白と紫色の模様が顔をのぞかせていた。
会いに行くまでにこの子は生まれてきてくれるだろうか。もしもそうなってくれたら、紳士さんやリピスちゃんにも紹介してあげたい、とまたひとつ望みが思い浮かんだ。
淡い色の花弁が空に舞う、幻想的な春の終わりの景色。
それを見て少女は、あの魔法使いが見せてくれた花吹雪の方がすてきだったな、と考えてしまうのだ。
ダグシティへ向かう道を歩き出した背中を、兄代わりのキルリアは静かに見守る。彼女の得た温かい感情を、一歩の成長を、静かに噛み締めるように。
「ひとがおおすぎて会える気がしないよ………!」
少女がコンテスト会場に到着してあまりの盛況ぶりに怯えることになるのは、もう少し後の話。