AIが将棋界にもたらすもの
AIは将棋にどのような変革をもたらすか?
よく将棋とAIということで話題になるテーマについて、私が考えていることを書きたいと思います。
皆さんも普段指す将棋ウォーズで身近に棋神を使ったり、プロの将棋を観戦していると評価値のグラフが出たりしてAIについてそれとなく意識すると思います。一般的にコンピュータと人間の強さ比べという時代は10数年前には終わり、AIが人間より強いことを前提に、今やプロにとってAIは研究パートナーとしてなくてはならないものになっています。そのような一般に知られていること以外にAIによって変わることは何かを今日は考えたいと思います。
プロとアマの関係
まずは、プロとアマチュアの関係についてです。特に一部のトッププロとトップアマの実力差はAIの登場で逆に広がるのではないか?と思っています。
ご存じのように藤井8冠や渡辺9段、豊島9段のようにAIを積極的に研究に活用している棋士は100万以上するPCを自宅に設置して研究を行っています。
彼らは、もちろん将棋が本業であり勝てなければ稼ぐことができませんから惜しみなく資本を投じて独自の研究を深めていきます。対して、アマチュアの方はどうでしょうか?同じAIを活用する機会は与えられているもののそんなに大金を投じてまで将棋の研究をするメリット、モチベーションがあるかどうか、それを考えた時に、まあAI研究を行うアマチュアの方はたくさんいるでしょうが、使用するPCのスペックや活用度合いなどで差が出てきてしまうのは致し方がありません。
プロとアマの差は縮まり、また広がる?
もともと将棋というゲームは相撲と並んで、アマがプロに絶対勝てない分野の象徴として長い間言われてきました。それが、2000年前後にインターネットで無料で誰でも将棋が指せるようになり、アマチュアのトップがプロの公式戦でプロと互角の戦いを演じる大躍進の時代が来ました。プロ編入試験により数多くのアマチュアの方が年齢制限という壁を乗り越えてプロになったのは記憶に新しいことです。彼らに共通することは、皆が皆将棋倶楽部24を始めとしたネット将棋を活用して強くなったという事です。
ネット将棋を本気で取り組む強豪が減った?
しかし、今のネット将棋を見ると、もちろん一部のプロらしき人も指しているのを見かけますが、かつてのように積極的にプロを始めとした超強豪がこぞって指しているという感じではなくなっています。
むしろ、プロなどは将棋ウォーズのような超早指しの将棋を遊び感覚で指している印象すらあります。従って、ネット将棋は、一部のトップ層にとっては、かつてのように腕試しの場として機能が働かなくなってきているのではないか?というのが私の印象です。以上のAIの利活用とネット将棋の役割の変容によりこれからはアマとプロの実力差はむしろまた広がるのではないかというのが私の意見です。
AIによるアマチュアの恩恵
では、AIの登場でアマチュアの将棋指しはいいことがないのか?というとそうでもありません。私が思うAIの登場による将棋界の変革としてもう一つがアマチュアでも気軽に将棋の啓蒙が行えるようになったという事が挙げられます。代表的なものが、定跡書の執筆ですね。以前は、アマチュアが将棋の本を出版することは非常にまれなことでした。一部元奨励会3段など超強豪の方が、独自戦法を生み出したりした時にその戦型についての定跡書を執筆することはありましたが、本当にごくまれなことでした。
今は誰でも気軽に独自の研究が行える時代
それが最近は本当に普通のアマ5段レベルの人が定跡書を書いたりしています。AIによって指し手の評価が見られることで、記載内容の真正性が担保されるようになったことが大きいと思います。
ただ、実際に定跡書を読んでみて思ったことですが、あまり評価値を前面に押して書かれているのは、露骨すぎて複雑な気分になりました。つまり、AIを過信するのは分かるのですが、始めからAIありきで評価値さえよければよいのかと疑問をもったからです。やはり、人間が指す以上見た目の優勢感とか、それを人間が引き継いだとして果たして指しやすいと感じるのかということが軽視されているのではないか?という印象を持ったのです。
特にこれからのAIの時代で、将棋を解説する立場になった時は、そういったことに気を付ける必要もあるなと感じた次第です。
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