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創作小説『ルナの鍵人』#8ルナが来た意味

「さっき、鯨が見えただろう。あれが君達の芯となる部分だ」

私の芯…?どういうことだ。

守護霊が机の反対側に座って手を合わせていた。隣にはタネルもいる。

ここはタネルのおじいさんの家だ。おじいさんは持病を悪化させて、今は村から離れた町の病院に入院していた。
そこにはずらりと本棚が並び、いろんな種類の書物が置かれていた。

「かつてこの世界には真実の鯨というものがいた。それは人々が人生に迷った時に真の道を示す助けをしていたんだ。平和はこの鯨によって守られていた。けれどある男が自分が権力を持てないからといって、鯨を本に閉じ込めたんだ」

守護霊は髭の生えた男の姿の幻を手のひらに出現させた。

この男は…青年と一緒に壇上に立っていた男の一人だ。おそらく高い階級の人物なのだろうと考えられる。

守護霊は続けて言った。

「それから人々は愚かになった。真実が見えず、自分勝手で欲張りな、愛のない行動をしだしたんだ。」

「…」

「実はあの青い髪の青年が、その本の中から鯨を取り出して人間のもとへ返そうとした。けど、出来なかった。本には呪いがかかっている。封印の呪いだ。」

タネルが「アイツが⁈」と驚いた表情を見せる。

そして彼はおじいさんから先日もらったという本に視線を落として、私に手渡し、守護霊の方を向いた。守護霊はうなづく。

「ああ、まさにその本だよ。その本に鯨が眠っている。君だけがそこから鯨を取り出せるんだ。」

「えっ、私?なんで??」
「なんで??」

タネルも身を乗り出す。

守護霊はまぁまぁ順番に言うから聞いてよ、と言いタネルの方を向いた。


「タネル、自分の祖父は書物を扱っていると言っていただろう。そう、君の祖父がその本を持っていたんだよ。」

「どうして…」

彼は眉をひそめた。

「保管するよう命令されたんだ、この◯◯に」

彼は幻を指差す。

「でも保管してあった本も鯨も全部偽物だ。その男はずっと前から知らなかったんだ。タネルの祖父が、本当の本の在処を隠してるってことに。ルナの持ってるその本が本物だよ。」

守護霊が私の周りを泳ぐ鯨を撫でて言った。

「これは鯨のほんの一部。本当の真実の鯨はもっと大きく、偉大だ。タネルの祖父は…いつかその本をルナに渡そうと思っていたんだ。」

私に…渡す?

「彼は未来から君が来ることを予知していた。そして、君だったら真実の鯨を取り出せるかもしれないと思ったんだ。」

私は首を傾げた。
だから、何故私にそんなことが出来るんだ。

「君は、見えないものやもう今はないもの、何かを引き出す力がとても強いんだよ。」

彼が微笑む。

タネルが横でああ…と納得した感じで声を漏らした。

「だから君なら鯨を蘇らせるかもしれないって思ったんだ。」

…それって、でも、とても危険なことじゃないのか。だって…

「…それで実は…男も鯨をとり出す鍵が君だと勘付き初めている。」

私は唾を飲んだ。
急に私たちの間に緊張感が走る。
守護霊は低い声で言った。

「気をつけろ。命を狙われてるって意味だ。」

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