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3分小説『檸檬色の君』
少年は手の平に集まる眩しい光を飲み込んで体の中にいれた。
ドクンドクンと心臓が鳴る。
やがてそれは檸檬になった。
檸檬の木は彼の口から出て上へ上へと伸びていく。
彼が倒れそうになったその瞬間、木が折れた。
彼はそれを慌てて起こし地面に植える。
土をさっとかけ、手で押さえた。
「すごい、この木、ドクドクいってる」
少年は木に耳を当てそう言った。
この木は生きている。
彼はそう思った。
その時、上からすっぱい液が落ちた。
「なんだっ」
上を見上げると黒い鳥が檸檬を突いていた。
やめろ、何するんだ。
少年は叫んだ。
だが、鳥はにやりと笑い彼に言った。
「もっとデカい檸檬の木があるぞ?」
その瞬間風が吹き、少年は鳥と共に空高く舞い上がった。
下を見下ろすとすごく高くて彼は身震いした。
しかしその後、雲の上にある巨大な檸檬の木が目に入った。
「うまそうだろう?」
鳥の言葉に彼はよだれを垂らして思わず頷く。
「俺、あれが食べたい」
彼がそういうと鳥はじゃあ取ってきてやろうと言って翼を広げ、遠くまで飛んで行った。
やがて少年と共に森の中の小屋でその大きな大きな檸檬をナイフで半分に切り、果汁をすすった。
「ま、まずい…」
少年は思わず口を押さえた。
「は?」と鳥はいう。
「お前、このうまさが分からないなんて」
鳥は首を横に振った。
彼は慌てて手を振る。
「いや、違うんだ。でも…なんか」
彼はポケットのなかに入れた自分の小さな小さな檸檬を取り出した。
鼻を近づけ匂いをかぎ、ゆっくりとかじった。
うん、やっぱり。
これがうまいんだ。
僕にとっては、どんなに立派な木で育った檸檬より、自分の木の輝くこの小さな小さな檸檬がうまいんだ。
彼は感動して涙が出た。
「ありがとう!!」
「え、ちょっ」
彼はそう言って駆け走った。
そして自分の檸檬の木の横に立ち、幹を優しく撫でた。
「おまえ、最高にうまいよ」
少年はそう言って微笑んだ。
檸檬の香りが大地に広がる。
空が、金色に染まった瞬間だった。
「すっぱっ!」