創作小説『ルナの鍵人』#7目に見えないもの
次の日、私は朝からハヤリヤエに畑仕事を手伝わされた。
と思えば良い景色の見える丘へ連れて行かれたり。
新鮮な世界ばかりが私の目の前に広がる。
「綺麗な景色ですね」
「でしょー」
彼女と2人揃って伸びをした。
朝日が眩しい。
いいなぁ。
ずっとここにいたい。
「ルナはさ、家族と仲良いの?」
家族……。
真っ先に弟の顔が浮かんだ。
今何してるかな……サッカーボールで遊んでいるだろうか。
「最近、素直になれなくて……」
「!」
ハヤリヤエが目を輝かせる。
「思春期だっ!」
「っ」
そうだ、思春期だ。
恥ずかしくて、情けなくて私は頭を垂れた。
「なになに〜お母さんにも反抗しちゃったり〜??」
「いやっ、母にはないんです」
「へぇ、お父さんは?」
「あっ」
父はいない。
亡くなってしまった、中1の時に。
彼女はすぐに察した様子で微笑んだ。
「ごめん、聞き過ぎちゃった。ルナの家族がどんな人達なのか気になっちゃって」
「ああ、いやっ、大丈夫です」
私は首を横に振った。
「私もね、妹がいるの。でも、こっちに越してきたから離れ離れになっちゃって、今はたまに会うくらい」
なるほど。
だから面倒見が良いのか。
「どうしたの?」
「いやっ、だから面倒見が良い……優しいんだなぁと思って」
そう言うと彼女は笑った。でもその後、真面目な表情でこちらを見つめた。
「ルナ、多分こっちに来て不安なことも多いと思う。何故あなたがここに来たのかも、まだ守護霊に教えてもらってないし。」
そう言って私の手を握る。
「だからね、私達を頼ってほしいの。会ったばかりであれだけど、信じてほしい。」
信じる……。
守護霊の言葉が頭によぎった。
人を信じる覚悟。彼いわく私にはそれが足りないらしい。
私がハヤリヤエと目を合わすと、彼女は笑って私の手を引いた。
「来て!」
「えっ」
2人で丘の上を走る。
太陽がさっきよりも高い位置にきていた。
心地良い風が吹き、大自然の息の音がする。
(気持ちいい…)
「ここよ」
彼女は指差した。そこには綺麗な花が咲いていた。
「花?」
「うん、花の横に何かいるんだけど、見える?」
私はしゃがんで花に顔を近づけた。
何も見えない。茎しか見えない。
私が首を傾げると彼女はうんうんと頷いた。
「まぁ、そうだよね。ここにね、妖精がいるの。」
「えっ」
私は彼女の顔を見た。
「あっ、信じてないでしょ〜」
「いや」
花の方をもう一度みる。
そよそよと可愛らしく揺れていた。
その近くに小さい蝶も舞っている。
その美しい花を見つめながら私は微笑んだ。
「いいえ、信じますよ」
そこで彼女がおっ、と言う。
同時にふふっと笑って空を見上げた。
「大人ってね〜見えないものを信じるのが、怖くて出来なくなるの」
彼女が柔らかいロングヘアを風になびかせて言った。
空を見つめながら何度か瞬きをして、こちらを見る。
「ルナは、ピュアだね」
にししっと笑った後、彼女は立ち上がった。
その時一瞬、青く輝く鯨が見えた。
幼い日に見た、鯨だった。