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創作小説『ルナの鍵人』#6居場所はここにある

「君がルナか」

目の間に見知らぬ男が立っていた。

「え……」

ここはどこだ。

私は椅子に座っていて、何故だか体が動かなかった。指先が震えている。

徐々に男がこちらに近づいてくる。

やめて……来ないで……来ないで!!



「ルナ!!」
「っ」

目の前にハヤリヤエの顔があった。心配そうにこちらを見つめていた。
ふんわりと彼女の良い匂いがする。

「大丈夫?」

そう言って私の額を優しく撫でた。
ひんやりとして気持ちいい。

そうだ……私、あの後寝たんだった。
ここはハヤリヤエとタネルの家か。

「突然唸り声をあげたからびっくりしちゃって……何か嫌な夢でも見たの?」

「……夢というか…」

知らない記憶、みたいな。

そんなこと言ったら変なやつだと思われるだろうか。私は口をつぐんだ。

少し沈黙が続いた後、彼女は優しく微笑んだ。

「無理に言わなくてもいい。さ!ご飯食べよ!」

ほら、と私を手招きしたので、
私はぎこちなく彼女の後に続いた。

部屋を出ると、今でいうリビングのような広めの空間が広がっていた。

「……!」

「ふふっ、頑張っちゃった」

食卓には野菜スープやお肉、いろんな種類のパンが並んでいる。

(良い香り…)

「俺も手伝った!」

タネルが台所からひょっこり顔を出した。

ハヤリヤエがえー、と呆れ顔をする。

「野菜切っただけじゃない」

「いやいや、だけってなんだよ〜」

彼は分かりやすく拗ねた。

私は微笑む。

(仲良いんだなぁ…)

3人揃って椅子に座って祈りを捧げた後、夕食を食べた。

「このパン……!めちゃくちゃ美味しい!!」

私がそう言うとハヤリヤエは少し驚いた顔をして、笑った。

「えぇー!照れちゃう、ふふ。」

その後彼女は横目にタネルの方を見た。

「あなたも前までは美味しいって言ってくれたんだけどね〜」

タネルがぎくっという顔をした。

「美味しい!まじで美味しいよハニー」

「あははっ」

あれっ、これって……。

夫婦の会話じゃない?

「あの……お二人って結婚されてるんですか?」

二人が揃って私の方を見た。

「してるよ!もちろん!俺からプロポーズしたんだ。」

彼がにっと笑う。

ええ…なんか…それにしては初々しい……。
多分、結婚して間もないのだろう。


「ルナは結婚とか考えないの??」

「えっ、私っ?」

びっくりして口に含んだ野菜を少しこぼしてしまった。

それを見てタネルがきったねぇ〜と笑う。

私はすみません笑、と口を拭いた。

「まだ18ですよ?結婚なんて、そもそも付き合ってる人もいないし」

「え〜その年でも結婚してる人いるよ〜??それにルナ、絶対モテるじゃん」

私がっ、モテる??
本当にそれだけはない。
今まで学校で告白されたこともないし、噂だってされたこともない。

「そんな反応しなくても笑笑、それにほら、可愛いし」

「今の容姿と、あっちの世界での容姿は全然違いますよ」

確かに今の「ルナ」の容姿は整っている。先ほど窓ガラスに映った自分を見て驚いた。
猫っ毛のオレンジカラーのロングヘアに丸い目をした可愛らしい少女。


「ルナってさ、未来から来たんだっけ?」

タネルがスープを掬いながら聞いた。

「そう、です。未来から来ました。」

「なんで?」

「…さぁ、なんでだろう」

「えっ、分かんないの?笑笑」

分からない。結局守護霊も教えてくれなかった。

でも、この人たちはなんでこんなにもすんなりと未来から来た人間を受け入れているんだろう。

「多分、そういう物語の本をよく読んだことがあるからかな」

タネルがそう言った。

「俺のじいちゃんがさ、書物を扱う仕事してんだよ。あ、あんま周りには言うなよ?それで、そこにあった本をガキの頃から読んでたからいろいろ想像力豊かになったっていうか」

「妄想癖になったんだよね?」

「おいハヤリヤエ」

「笑笑」

書物を扱う仕事か……

そこで少しドキッとした。

何故動揺したのかは分からなかったが、私はその違和感を特に気にすることもないまま会話を続けた。

夕食後は体を洗って、私達は3人揃って寝床に横になった。

「ルナ、私の左側に来な。タネルの横だと蹴られちゃうよ、寝相悪いから」

「ちょっ、悪くねーよ!なぁルナ?」

「えっ、知らないですよ笑笑」

私は笑った。

するとハヤリヤエがこちらをじっと見つめた、気がした。

暗いのでよく分からない。

「じゃあみんな、良い夢見てね〜!」

彼女はそう言いながら、私のお腹にそっと、優しく手を置いた。

ああ、この人は。

私のことを心配してくれているんだ、さっきしんどそうだったから。

それに急に未来から来たってこともあって、気を遣ってくれているのかな……。

実際家族とは離れちゃったわけだし。

(優しいなぁ……)

窓からの月明かりに照らされる中、
私の頬に一筋の涙が流れた。

それはとても、温かかった。

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