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創作小説『ルナの鍵人』#12父

父が亡くなったのは、中学1年の時。 

まだダウンが必要なくらい寒い時期に、家族とトルコへ旅行に行った。 

その間に父と私と二人で海の近くにある町へ出かけていた。

ある店でランチを食べていたところ、
突然父が財布を落とした、と言って探しに出た。

嫌な予感がした。

そのあとしばらくして、一人の男性が私の元に駆けつけて日本語で言った。


「君!ルナ??パパが道で突然倒れたからさっき救急車を呼んだんだ」

私はその時頭が真っ白になったのを覚えている。

「たまたま通りかかった家族が付き添いで救急車に乗ったんだけど、娘がここにいるって聞いて」

その後私は彼と車で病院に向かったのだが、父はすでに亡くなっていた。

悲しくて、悲しくて、でも涙すら出ないまま、私は一人病院の外へ出た。

すると駐車場にいた先ほどの男性が、私に飲み物を渡してくれた。

それがとても温かくて、気づくと涙が出ていた。


その時初めて、涙を流すことができた。

そしてその時彼からもらったのが、あの鍵だったんだ。

「時が来たら、これで鍵を開けて?」

そう微笑んで首から外して手渡してくれた、鍵のペンダント。


私は訳もわからずそれをただ握りしめ、それを胸に、彼の帰りゆく後ろ姿を見つめた。


どこか懐かしく、切ない気持ちになった。

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