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創作小説『ルナの鍵人』#10青年

フクロウが遠くから飛んできた。

青年はフクロウが加えた手紙をとって、中身を開いた。

部下宛のものだ。

「ルナを探せ」と書かれている。

危ない危ない。

もしあいつら手にこれが渡っていたら彼女は死んでいただろう。

きっとあの男が勘づいたに違いない。

なんとしても彼女だけは守らなくては。

もう誰も、死なせたくない。

その時コンコンッと音が鳴った。

「アルベルトさま、◯◯さまがお呼びです」

彼は手紙を火の中に入れて、階段を降りた。

「ああアルベルト」

髭を生やした男が死んだような目でこちらを見つめている。

「最近ルナっていうオレンジの髪の女がこの街に来たらしいんだが…どこにいるか知ってるか?」

心臓がドクンッと鳴る。アルベルトは平静を装った。

「いいえ、知りません。」

そうか…と男は呟きあくびをした。

彼はいらっとした。

「用はそれだけですか」

男が青年を睨みつける。

「なんだその目は」

男が彼に近づく。

「俺に呼び出されて不満か?」

ちっ、と舌打ちをしてあらだたしく椅子に座った。


「西の国のことだ。お前にちょうどよい居場所が見つかった。そこへ逃げろ」

「だから…!」

青年はカッとなる。

「私は逃げません、言ったでしょう?この国を見捨てるようなことはしない。この村のものを救います」

「はっ、出来もしないことを」

◯◯は部下からもらった品物を放り投げた。

「まぁ時期に分かるさ、お前はまだ若いんだ。頭を冷やせ。いいか?洪水が起こるんだよ、大洪水。予言書にも書いてある。そんなのたまったもんじゃあない。だから偉いものだけ選別して、俺達は東の国へ逃げる。だがお前は西の国だ、足手まといだからな。」

何を言ってるんだコイツは。 

人をなんだと思ってる。

こういう血も涙もない、利益しか考えられない人間は大嫌いだ。
だがこれ以上反抗したらきっと俺まで殺される。

今まで殺されなかったのはきっとこの力があったから。

「…いいんですか?僕がいなかったら不死身じゃなくなりますよ」

彼はふんっと笑った。

「そんなものはいらん、第一、お前のその力は嘘だろう。不死なんてあり得ない。」

じゃあ今まで俺をそばに置いていたのは何故なんだ。
不死の力を手に入れたかったからだろう。
それがいらないということは、きっと何か別の手段が見つかったんだ。
彼が永遠の権力を手にする、別の方法が。

「それじゃあ東の国で、お前はまた愚かなことをするんだな」

そこで男の顔から笑みが消えた。

「いい加減にしろ。何が言いたい?」

青年は立ち上がった男の胸ぐらを掴んだ。

「あんたがこの国をめちゃくちゃにしたんだ。お前がっ」

その瞬間、猛烈な痛みが彼の腹に走った。

刃物だ。青年の腹を突き刺していた。

彼は血を吐き、その場に倒れた。

「お前は昔から、頭の悪い奴だ」

やれやれという感じで男が手下に彼の遺体を片付けさせた。

「まぁ、どうせお前は死なないんだよなぁ?不死身だから」

ははっと笑って彼は立ち去った。

青年は物置に閉じ込められ、そこで静かに息を引き取った。

また、生き帰るかもしれない。

そんな彼の予想は当たり、次に目を覚ました時にはルナの腕の中だった。

ずっと会いたかった人の、体温を感じた。

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