第9回:『カエルのために鐘は鳴る』 産まれたタイミングに恵まれた名作
先日、Nintendo Switchオンラインのゲームボーイにて、「カエルのために鐘は鳴る」が配信された。発売当時から根強いファンが多いものの、シリーズ化はしていないので新規でプレイする機会の少ない作品だ。またとない機会なので、今回はこのタイトルを語っていきたいと思う。
1.「少年向け」という言葉がピッタリの作風
物語は主人公とライバルの王子2人の決闘シーンから始まる。画面中央で動くデフォルメの砂煙。決着が付いたのか倒れている王子と立っている王子。そして次の瞬間表示される文章がコレである。
4倍角フォントと言われ、この作品では頻繁に使われる。ゲームを始めて最初のテキストがこの4倍角高笑いなのだ。パッケージやタイトル画面の童話的な雰囲気はどこへやら、ギャグ漫画じみた空気が漂いはじめる。
これこそが今作の作風であり、以降も、一緒に船に乗ろうとして突き飛ばされる、別の船を買うために大金を見せたら船員が仰天してすっ飛んでいく…といった具合に、コロコロコミックでも読んでいるかのような展開が終始続いていく。
また、児童漫画的な雰囲気は地名にも反映されている。最初こそ「サブレ王国」や「ミルフィーユ王国」といったメルヘンチックを装っているが、いざ地図を開くと「クロザ島」「フーリン火山」「ゲロベップ温泉」「娯楽の殿堂 ナンテンドウ」と、ダジャレのオンパレード。
中には、フーリン火山で出会う「カザンオールスターズ」(リーダーは「ケイスケ」)などという、明らかに大人向けのダジャレも。そもそも、ゲームタイトル自体がヘミングウェイの「誰がために鐘は鳴る」のパロディなのだから、そこは万人が楽しめるゲーム会社任天堂、といったところか。
メタ発言が当然のように飛び出すのもギャグの雰囲気に拍車をかける。これはゲームボーイの容量の都合上、チュートリアルを入れる余裕がないという理由もあるだろう。
ただ、作中のキャラ達は至って真剣だし、ストーリーも「攫われた姫を取り戻す」という王道を外さないので、陳腐な印象を抱くことはない。キメるところはキメる、これもまた児童漫画的展開のひとつだろう。
2.低難度のアドベンチャー
ゲームシステムは、言ってしまえばGBのゼルダに近いアドベンチャー系。バトルはシンボルエンカウント方式のオートバトルで、乱数はなく結果は完全固定。RPGやアクションゲーム的な要素はほぼなく、どちらかといえば謎解きやパズルでキーアイテムを入手して先に進むタイプ。
ただ、その謎解きもかなりわかりやすく、ゲームとしての難易度は易しい。
たとえば、倒せない敵がいたら何か強化アイテムが足りてないし、邪魔なオブジェクトがあればキーアイテムを入手し忘れている、高い崖や狭い道があるなら変身できるポイントを探す…といった具合だ。
手に入れたアイテムを切り替える必要はないし、変身をするのも消費アイテムで賄えてしまう。アクションらしいアクション要素もラスボス戦くらいのもので、それすらさほどシビアではない。「簡単」であることを徹底して作られている向きまである。
ボリューム的に見ても、ゲームに慣れた人であれば1日もあればクリアできる程度だろう。
3.「少年向け」だから良かった
低難度で低ボリュームであるこのゲームが、人気の作品になったのは何故なのか?それは当時のプレイヤー層と合致していたからだ。
発売当時の家庭用ゲーム機は子供の遊ぶオモチャであった。プレイヤーの腕前も、今よりはずっと練度が低かった。なのでアーケードゲームやファミコン初期のような、解けなくて詰まってしまうようなゲームは敬遠される傾向にあった。インターネットが普及しておらず、攻略情報をすぐ調べるという行為が一般的でなかったことも大きい。
テンポ良く進むストーリーが、漫画やアニメを見ているような感覚で楽しめた、ということなのだろう。やりごたえのあるゲーム性よりも、ストーリーや世界観を重視した「カジュアルゲー」としてヒットしたのだ。
先に「ゼルダに近い」と述べたが、ここにも注目すべきポイントがある。「ゼルダの伝説1」が発売された年、同じくディスクシステムにて「謎の村雨城」というソフトが発売された。(この作品もNintendo Switchオンラインのファミコンにて配信済み)
こちらもファミコンのゼルダに似たような作りになっているのだが、あまり人気が出ず、「ゼルダがなければ売れてたかもしれないソフト」などと言われたりもした。詳しい解説は省くが、一言でまとめると「難易度や作風で差別化できなかった」のが原因だった。
その点「カエル」の場合は、カジュアルでコミカルな部分が、ゼルダとは違った魅力を持っていた。そして「夢を見る島」よりも一年近く早く発売されたので「ゼルダ買えばいいよね」とはならなかったのだ。
結びに
この作品がヒットした理由は、そのままシリーズ化されない理由に当てはまる。綺麗に完結した漫画作品の続編を望む声は少ないと同じで、思い出の名作として記憶しておく…というのがこのゲームの楽しみ方なのかもしれない。
だからこそ今回のような機会があると、懐かしみながらプレイできるし、初見プレイヤーならば純粋に楽しめるという要素が、まさに古典的名作と呼ぶに相応しいのではないだろうか。