幸せと不安の狭間で

彼とまた連絡を取るようになった。
相変わらず余裕はなかったけれど、大切な人と言葉を交わせるだけで幸せだった。

この一件から、私は彼とのことを真剣に考えるようになった。それまで適当に思っていたわけでは決してないけれど。

自分一人の面倒を見るのでさえ、倒れて入院、この有り様。今の状態で家庭を持つことなどできるだろうか。不安。不安。不安。

彼はどんな風に受け止めてくれるだろう。どんな風に勇気付けてくれるだろう。彼の強さ、想いを確かめたくなった。

私は、職場で「未来の幹部候補」と呼ばれている。独身のままならば、遠くない将来、東京行きの切符を手にするだろうと示唆されている。

けれど、正直、出世に興味はない。私は教員免許を持っているのだが、時々すべてを投げ出して、海が綺麗な南の島で、小学校教諭にでも転身したくなる。

これまで好意を抱いてくれた男性は皆、口を揃えて同じことを言った。大変な仕事を前向きに頑張る姿が素敵だと。

本当はそんな人間ではない。いつだって逃げることを考えている。そして、どうせ誰も本当の私を見てくれないのなら、誰をも選ぶことなく、仮の姿を生き、東京へ行く人生を歩むのがよいのかもしれないと思うのだった。

私は、東京行きか、南の島で教鞭を取るか、どちらかの人生を歩みたいと彼に告げた。貴方にはもっと素敵な人が見つかると思うと添えて。

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