待ち合わせ
行かないでおこうか迷ったけれど、彼が本当にずっと待っているような気がして、勇気を振り絞って向かうことにした。
改札がいくつもある大きな駅。
駅名しか決めなかったので、どの改札か分からない。
心配性の私は、20分以上も前に到着して、ベンチに腰掛けてみたり、お手洗いに行ったりして時間を潰した。気恥ずかしくて、さも時間ギリギリに到着した風を装ったけれど。
約束の数分前、メッセージが届いた。
北改札口にいるとのこと。誠実な彼らしく、服装まで書き添えてあった。
心臓がバクバクして、どうにかなりそうだった。ここまで来たのに、「帰る」という選択肢もよぎりつつ、物陰からそっと改札を覗いた。
私は驚いた。彼らしきその人は、スマホをいじるでもなく、ただただ姿勢正しく真っ直ぐに、構内に向かって立っていた。
何より、彼の表情はとても緊張に満ちていた。それを見たとき、私の覚悟は決まった。
改札口を出て、彼の元へ。
あ、あの…えっと、…ですよね。掛ける言葉を考えていなかった。恥ずかしくて、照れ隠しするのが精一杯だった。
彼は、目を合わせるより先に、少し下を向いて恥ずかしそうに微笑み、そして小さな声でこう言った。
「来てくださいましたね」
彼の表情、声、今でもはっきり覚えている。
やっと見つけた。そう思った。