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スパゲッティはパスタじゃない⁈

現在、約2年ぶりに一時帰国中やりたいことの中にイタリアでは会えない人に会うということも含まれます。
先日、茨城県古河に住んでいらっしゃる30年来の知人に会いにいきました。旅行業界の方でイタリアには何度もいらしたことがあり、イタリア中部のある町の名誉市民にもなっているいうイタリア大好き人間

10年ぶり位の再会で、奥様(初めましてでした)と二人で古河駅に車で迎えにきてくださり、近所で評判のイタリアンレストランに連れていっていただきました。

店内はオリーブの葉っぱがデザインされたイラストが施された内装。イタリアの雰囲気満載のイタリアンレストランのチェーン店のようです。

テーブルにつき、早速メニューを開くと、料理の写真が次から次へと目に飛び込んできます。日本では料理の写真付きメニューは割合よく見かけますが、イタリアではまずお目にかかれません。

前菜からパスタ、ピッツァ、肉料理、デザートまで実に豊富なお料理があることが一目でわかるメニューは確かに便利。

数ある料理の中でもパスタは日本の食材を使ったウニや明太子ソースからイカスミ、ミートソースのボロネーゼまで実に色々な種類のラインナップ。
イタリアに30年以上住む私も思わず目を奪われます。

そこで思わず私が一言。
「日本からいらっしゃる観光客の皆さんは、日頃、こういうメニューを目にしているから、イタリアにくるとメニューの品数が少なくてびっくりしてしまうんですよね。」

イタリア通の知人も
「ああ、そりゃそうだよね。」

そうなんです!
本場イタリアのレストランのメニュー
中でもパスタは10種類もあれば良い方かもしれません。

しかも、スパゲッティがメニューに無いということも充分にあり得ます。

イタリア料理と言えばパスタパスタと言えばイタリア料理と言っても過言ではないほど、イタリア料理とパスタは切っても切れない仲にある筈。

生パスタのご先祖と言われるローマ時代のラーガナや中世期にアラブ人がシチリアにもたらしたスパゲッティの前身である乾燥パスタ、そして、ジェノバやエミリアロマーニャなどで発展した詰め物の入ったトルテッリーニやラビオリなど色んな種類のパスタの母国と言っても過言ではない国がイタリアです。
パスタはイタリアの歴史と共に普及、進化していきました。

日本では幕末にパスタがいち早く持ち込まれたものの、広く普及するようになっていくのは、昭和30年代、本格的に工場生産が行われるようになって以降。

日本でのパスタはマカロニとスパゲッティが双璧なのだと思います。
元々、パスタを総称してマカロニと呼んでいたのですが、やがてショートパスタはマカロニ、そして、ロングパスタがスパゲッティに。

マカロニはもっぱら「マカロニサラダ」または、「マカロニグラタン」として普及していき、マカロニがメーンというよりは具としてのマカロニではないかというのが私の日本でのマカロニのイメージです。

一方、日本のスパゲッティは、時代と共に大きく進化。
イタリアオリジナルのトマトソース、ミートソース、ボンゴレ、イカスミは勿論のこと明太子などの和風、日本のキノコと合わせた生クリーム和えなどの和洋折衷まで、実に様々な具と味付けのソースが登場し、正にパスタの王様として色とりどりのソースで美しく美味しく着飾っている感じ。
本国イタリアでも考えられない展開。

私が未だ日本にいた1970年後半には、イタリアンレストランは勿論のこと、バリエーション豊かなソースで食べるスパゲッティ専門のレストランも登場していました。

冒頭で触れたチェーン店やファミレスでは今も実に色々な味付けでスパゲッティが提供されるのですから、スパゲッティは日本人にとってはもうすっかりお馴染みの食材となりました。

それなのに

本場イタリアで期待して入ったレストランのメニューにあるパスタの種類は少なく、しかも、パスタの王様スパゲッティ自体がメニューにないこともあるのです!

個人旅行ではメニューの読み方がわからなかったのかもしれません。本当は色んなスペゲッティがあったのに見つけられなかったのかも。お店の選択がよくなかったのかもと悩みかねません。

それなら、食事付きのツアーに参加された方はどうでしょう?
毎回パスタは出てきたもののペンネのようなショートパスタやラザーニャは食べたけど、あれ?スパゲッティを食べたっけ?という人は多いと思います。

ある時、私が観光案内を担当していたツアーの女性客がレストランに到着し、今日のメニューの説明を受けた途端にこう叫びました。

「もうパスタは充分です!私はスパゲッティが食べたいの!」

私は
お客様!スパゲッティもパスタの一種ですよ

と言いたかったのですが、喉まで出かかった言葉を飲み込みました。

そこで、はたと気付きました。

この方にとってイタリアを代表する料理は、日頃、日本のレストランで食べていた日本人が生み出した季節や土地、そして店毎に違うソースを身にまとった多彩なスパゲッティなのではないか?
本場イタリアで期待に反して散々食べさせられるペンネ(ショートパスタ)やフェットチーネ(平たいきしめん風生パスタ)などのパスタとは別物だったのではないか?

そして、きっと多くの日本人にとってもスパゲッティの位置付けはこの女性のそれに近いのかもしれないなと妙に感心してしまいました。

また、別な方からは、余りにもスパゲッティが出ないイタリア旅行なので「イタリア人はスパゲッティを食べないのですか?」
と訊かれたこともありました。

いえいえ、そんなことは決してありませんよ!
イタリアのスーパーや食品店では様々なパスタが売られており、スパゲッティも1種類ではありません。色々なメーカーが製法や小麦粉の違いを謳ったスパゲッティが所狭しと並んでいます。

イタリアフード連盟(Unione Italiana Foodの拙訳) によると、パスタの種類は300を超えるということです。

確かに本場イタリアのレストランで無視されているかのようにさえ思えるスパゲッティ。色々な種類のパスタがあるためにイタリア人はパスタはスパゲッティだ!と拘っていないのかもしれない、スパゲッティは特別ではないのかもとも考えました。

ところが、最近、イタリアフード連盟が発表したイタリア人が好きなパスタベスト10を見て私の仮説はもろくも崩れさりました。

このイタリア人によるイタリア人が好きなパスタのランキングでは
なんと
というか当たり前のように

スパゲッティが堂々第一位!

イタリアフード連盟によるトップ10 (2021年)は以下の通りです。
1位 Spaghetti スパゲッティ (説明必要なし、パスタの代表格)
2位 Penne rigate ペンネリガーテ (マカロニの表面に筋が入っていて)
3位 Fusilli フジッリ (ねじれたパスタ)
4位 Rigatoni リガトーニ (ペンネリガーテより少し大きく厚い)
5位 Farfalle ファルファッレ (蝶々の形)
6位 Linguine リングイーネ  (スパゲッティを平たくしたようなロングパスタ)
7位 Lumachine  ルマキーネ (くるっと丸まったカタツムリの殻の形)
8位 Bucatini ブカティーニ (穴あきスパゲッティ)
9位 Mezze maniche メッツェマーニケ (リガトーニより短い)
10位 Lasagne ラザーニェ (幅広パスタ)

ここでは、イタリア語読みそのままの日本語表記を使いました。
日本で実際に知られている発音と少し違うものもあります。

複数形と単数形で発音が違ったりするといった面倒な事情の他、日本では商品化する際に日本人に馴染みやすい発音を考えて市場に出す場合が多いので、現地の発音と多少違ってきますが、個人的には日本風の発音も大いにアリと思います。

というわけでやっぱりイタリア人もスパゲッティは大好きなんですね。

でも、ロングパスタはスパゲッティ、6位リングイーネ、8位ブカティーニに加え、長いというか幅広パスタラザーニャが10位を占めているものの…
残りのランキングを閉めるのは6種類のショートパスタです。
やはり、ショートパスタも人気なのです。

ですから、スペゲッティしか食べたくないというあなた!

パスタの形自体も色々あり、イタリア人は多彩なパスタの世界をソースというよりパスタそのもので味わい、愉しんでいるのです。

日本人の飽くなきスパゲッティソースの開発も素晴らしいのですが
色々あるパスタそのものをシンプルに極めてみるというのは如何でしょうか?

色々なパスタを知ったところでパスタに合わせるソースの工夫が更に広がってくるかもしれません。

イタリア人はパスタの種類を同じソースで味わった時の味の違いの他、パスタの種類に合わせてソースの具や味付けを工夫しています。

実は、このベスト10、それぞれのパスタには味付けがセットになっています。

1位のスパゲッティはトマトソースとなっています。

やはりシンプルなのが一番というわけです。

そして、なるほどスパゲッティは美味しいけれど、パスタの間口はもっと広くて大きいのではとも考えます。
やはりパスタはイタリアを代表する食べ物という思いを新たにした日本でのイタリアンレストラン体験でした。

画像のパスタはイタリアを出る前に食べたポルチーニ茸がふんだんに入ったフェットチーネです。卵入りの生パスタはフィレンツェのDa Nicola(ダ・ニコーラ)というレストランでいただきました。

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