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KIRINキャリア教育DAY1&2

近年、若者のビール離れが進んでいると耳にする。コロナウイルスが蔓延した2019年以降、リモートワークがワークスタイルの一つとして定着し始めたことを契機として会社での飲み会の減少や、不景気による嗜好品離れ、娯楽の多様化、さらにソバーキュリアスと呼ばれる、あえてお酒を飲まないライフスタイルの普及など、その要因はさまざまだ。
そして、ビール離れはデータ上でも既に可視化され、年々ビールの消費量は減少傾向にある。
しかし、ビールは、その長い歴史の中で常に愛され続けてきた魅力あふれる飲み物だ。発酵方法を変えるだけで、味や香りに大きな違いが生じ、スタイルは世界中で100種類以上存在し、各々が個性的だ。
私はビールが飲めるようになって以降、国内外のビールに惹かれ、週末などに友人と嗜んでいる。ビールの種類や原料について多少の知識はあったが、ホップの生産方法やビールの製造過程についてはほとんど知らなかった。
そのため、ホップの生産地に赴き、実際に栽培されているホップを観察できる他、醸造所でビール生産者の信念を目の当たりに出来るこのインターンシップに参加した。
ビールの魅力を世の中に伝えよう日々努力する人々の話を直接聞き、生業を目で見ることが出来たのは、人生の中でも有数の貴重な経験であったと実感している。
この投稿では、私が遠野で経験したホップ農家での体験や得られた知見を書き記す。

ホップ生産地

朝8時、新幹線と車で向かったのは、6年前から新規就農者として遠野市に移住した里見一彦氏の畑である。里見氏は「IBIKI」と「MURAKAMI SEVEN」の二種類のホップを栽培しており、一週間前までは形状すら知らなかったホップの栽培の様子を観察した。


雌雄異株であるホップは中心部を抑えて左右に開くと、ルプリン腺を持つ雌株の果穂の香りが広がった。レモングラスや柑橘系の香りが特徴的で、IPA(インディアンペールエール)を彷彿とさせる強い香りが鼻をくすぐった。MURAKAMI SEVENはIBIKIよりも植物系の香りが強く、ビールの苦みと香りを引き立てるのに適しているように感じた。
ホップ農家は、特に天候の影響を強く受ける。水不足によって実が成らない他、温暖化によって虫が増殖し、ルプリンのある内部を食い荒らされてしまうこともあり、虫対策に必要になっていると聞いた。さらには、病気の伝染のリスクもあり、生産量減少のリスクに晒されながらもビールにとって貴重な原料を生産するホップ農家の苦労と努力を知った。

ビールの里プロジェクト

農家見学後は道の駅で昼食を取った。遠野名物のわさび丼に惹かれ大盛を注文、遠野で採れた生のわさびは意外にも甘く、丼から締めのお茶漬けまで非常に満足出来た。遠野と言えば、遠野物語でもお馴染み、川から河童が出没してむやみやたらに相撲を挑んでくるといった伝承でこそ知っていたが、ホップやわさび、日本酒まで幅広く特産物を生産しており、予想以上に発展している市に驚かされえた。観光で訪れても魅力的な土地であることは間違いないだろう。


遠野市役所近く、住宅街を進んだ場所に位置するブルワリーでは「ビールの里プロジェクト」と称し、ビール生産を通じて遠野市の町おこしに取り組んでいる田村淳一氏の話を伺った。


ビール消費量と同様、ホップ農家は年々減少傾向にある。
少子高齢化や第三次産業の人気向上に起因し、農家は年々後継者不足に悩まされつつある。
新規就農者として遠野に移住しようにも、ノウハウを掴むまでは十分な収穫を得るの苦難する上、天候の影響の受けやすいホップ農家は収入が安定しづらいのだ。
こうした状況を打開するべく、田村氏は、ホップ産地として魅力のある土地の再活性化に貢献する意思とともに2018年に遠野に移住した。地元の人々の交流の場である遠野醸造の設立やクラフトビールブルワリーのBrewGoodの立ち上げ、ビールの里プロジェクトを中心としてビールを通じた地域の活性化に取り組んでいる。彼の推進するプロジェクトでは新規就農者を募集し、投資やノウハウ等のサポートを通じて独立農家の増大を目標としている他、ホップの加工技術の向上など、日本産ホップのポテンシャルを底上げしている。ビールのもたらす人同士のつながりやビールそのものの美味しさに惹かれ、日本の農業が抱える課題に、情熱をもって取り組む起業家の姿勢に感銘を受けた。。

クラフトビールの持つ可能性

最後に訪れた場所2018年に創業100年を迎えた 世嬉の一酒造(せきのいち)である。操業当時から生業としている清酒の醸造所であると同時に長年培った技術を応用して、いわて蔵ビールのブランド名を世界に轟かせるブルワリーである。
日本酒の酒造技術の大枠が江戸時代の製法から受け継がれ、大枠を変えずに技術を発展してい事には非常に驚かされた。
生命科学の知識もままならない時代に酵母やアルコール発酵、熟成などの概念を体系的に理解していたのである。江戸時代の人々の知恵の深さを改めて実感した。
この発酵技術をビールに応用したのが『いわて蔵ビール』の始まりで、その独自性に非常に魅了された。
発行時に酵母が比重で浮かび上がる上面発酵で発酵させたエールを生産しており、ベースであるヴァイツェン(白ビール)、ペールエール、レッドエール、スタウトの4種類をベースに世嬉の一酒造オリジナルのビールの開発をしている。これら4種はテイスティングする事でそれぞれの個性や特徴を捉える事が出来た。特に好みに合っていたのはレッドエールである。アールグレイのような風味と柑橘系オレンジ類に似た香りと甘味が引き立っており、上品な味わいが印象的だった。

会社内はイノベーションが起きやすい雰囲気であり、牡蠣エキスをスタウトに入れた牡蠣スタウトや山椒ビールなど個性の強い商品を次々と生み出している。更に驚きであったのがどちらとも海外で2位3位と受賞し、高く評価されており、受注数が多い事だ。試しに私も購入してみたが、特に山椒ビールは予想以上に爽快な味わいで、甘酸っぱさを感じた。個人的に気に入った飲み方はジンジャーエールと割ってシャンディガフとして飲む飲み方である。カフェなどでメニューにある、スパイスのよく効いたクラフトジンジャーエールのような飲みやすさがあり、是非ともオンライン等で再度購入したい。

まとめ

今回の研修では、ホップ農家と2つのブルワリーを訪問した。ビール製造に携わる多くの人々の手によって、クラフトビールの開発に挑む者やビールを通じて人々のつながりを再確認し、町おこしのプロジェクトに取り組む者、就農者としてビールに欠かせないホップの生産で試行錯誤を続ける者などビールに情熱をかける人々を目の当たりに出来た。
生産者の熱い信念を知って飲むビールはそうでないのと比べより美味しく
感じられるだろう。ビールの生産過程を直接製造者から学べた事もあり、今回の研修は非常に有意義であった。


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