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一句鑑賞:雪深き道外るるには決意要る/津田清子

 最近決意したことと言えば「退職」だろうか。半年以上の休職の末、職場から出された復帰条件を到底クリアできないと感じそのまま退職してしまった。「してしまった」と言うと後悔しているように聞こえるかもしれないがそうではない。復帰条件を要約すると「今まで通り働いてください」というものだったから、あれこれと面倒を抱える人間には物理的に不可能だった。ただ、一方で「がんばって続けられたのでは」と思わないでもないのだ。いずれにせよifの話なのだが。
 人生を長い目で見れば取るに足らないことだろうが、あのときのわたしには一大決心だった。そんなこともあり、この句が心に残った。

雪深き道外るるには決意要る /津田清子『礼拝』

 津田清子の句は、清子という名に負けない清々しさがある。この句もまさにその清々しさ、きっぱりとしたものを感じる。それは「決意要る」という言い切りで終わるところにあるし、雪の深い道を外れんとする心持にもある。
 何故わざわざ、とわたしなら思う。外れなくても、先を行く人たちが踏み固めてくれた道がある。雪道は足を取られやすい。歩き方ひとつで危険性が高まる。そんな場所をわざわざ。ただの雪でも危ないというのに「雪深き道」とは無謀ではないか。
 しかし、一方でこうも思う。誰も足を踏み入れていない雪のなんと美しいことか。ここへ一歩、足を踏み出してしまいたくなる気持ちもわからなくはない。決意が必要であるのは、伴う危険や不安によるものだろう。わざわざ道を外れるのだ。生半可な気持ちでは立ち行かない。
 強い決意がありながらも「る」のリフレインで流れるように諳んじることができるのは小気味よく、心地よい。
 わたしの決意も、この雪道のように美しい世界への第一歩だと思うのも悪くはないだろう。

 今回、五月ふみさんのすてきな企画に参加させていただきました。まだまだアドベントカレンダーは続きますので、クリスマス当日までぜひお楽しみくださいませ。
 最後までお付き合いいただきありがとうございました!

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相田 えぬ
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