教員養成・人文学部再編論について①教員養成編
昨日、こちらのニュースを観ました。
財政に限界があるなか、どのように予算を配分するのかという議論は重要ですね。
アカデミックの世界でも、似たような議論が起こります。
上記のニュースは、下記の文部科学大臣が各国立大学に出した通知の内容を取り上げたものです。
特に、次の記載が話題となりました。
特に教員養成系学部・大学院、人文社会科学系学部・大学院については、18歳人口の減少や人材需要、教育研究水準の確保、国立大学としての役割等を踏まえた組織見直し計画を策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努めることとする。
今回は、国立大学の学部再編について書いていきます。
1.現状分析
そもそもの話として、純粋な人文系の学部を持つ国立大学がそんなに多いわけではありません。
「文学部」を持つ国立大学は、筑波大学や金沢大学といった、文学部に相当する学群・学類を持つ大学を含めても15校です。
「人文学部」という名称の学部を持つ国立大学も7校で、文学部を持つ国立大学と合わせて22校しかありません。
(ただし、三重大学は人文学部法律経済学科を組織しており、純粋な人文学だけでなく社会科学を包括している点から、「法文学部」や「人文社会学部」等の幅広い学問をカバーする学部に実体は近いものと推察します)
そして、これに加えて教員養成課程を持つ大学が約40校ほどあるという図式です。(P.5-6)
また、いわゆる「ゼロ免課程」と呼ばれる、教育大学に設置されているが教員免許の習得が義務付けられていない課程もあります。なお、旧帝大のような「教育学」の研究を主眼とする教育学部も、教員免許の取得は必須ではありませんが、「ゼロ免課程」とは一般的に呼びません。
2.議論の背景
このような通知が出た背景には、我が国の財政と少子化が絡んでいます。
日本は発展途上国でなく、「衰退途上国」だと筆者は考えています。無限に財源があるわけでもなく、いわば「選択と集中」によって、弱者ながらに世界の強者たちと渡り合っていかなければなりません。
また、少子化が進行するなか、教員の数もそれに伴って減らしていこうとする動きがあります。
ここでポイントになるのが、財務省の主張です。
財務省側は、文科省の主張が「教育効果に関する明確なエビデンスと、それに基づく必要な基礎・加配定数の配置を科学的に検証した結果を根拠とするものではない」(財政審建議)と強調。
財務省は、各省庁が提案(≒営業)してくる政策(≒商品)について、予算という国の財布を管理する立場として、適正に判断し予算配分するという使命があります。
この件では当時、財務省が叩かれましたが、文部科学省に非があったと思います。顧客(財務省)にとってメリットがあると説明できないセールスマン(文部科学省)に「買わない」と言ったら、買わないと断った顧客(財務省)が叩かれるという図式ができてしまっています。
文部科学省も、削減幅を何とか緩やかなものにしてもらう方向に舵をきったようです。結局、理屈では反論できないで、何とか力技で被害を最小限に食い止めようとする姿勢といえます。
さて、教員の需要が将来的に減少する以上、その供給源として存在する教員養成課程にメスが入るのも自然な流れです。
当時の下村文部科学大臣は、廃止対象は主に教員養成課程で、人文社会科学系の学部については廃止ではなく見直しを提案したという趣旨の会見をしておりました。(詳細はWikipedia「国立大学改革プラン」等をご覧ください)
なお、教育と財政をめぐる問題では頻繁に「教育は国の礎」であるから財政を積極的に出動させるべきだ、という論理が使われますが、政策的な議論において、強く響きません。「農は国の礎」という言葉もあったり、多岐にわたる他の領域にも予算をつけなければなりません。
限られた財源をどう配分するかという話であり、教育政策の重要性を財務官僚たちが無視しているわけではありません。
3.筆者の私見
教員養成系学部は、現在人気が低迷してい教職に就く若者を一定数・一定割合確保していることから、一定水準以上の質を持った教員を確保することにギリギリのところで貢献しています。
しかしながら、いち国民としての意見ですが、この学部学科が必要であるという「必然性」を見出すことは難しいと思います。大きな理由として、教員は医者等の専門職と異なり、教員養成系学部を出なくてもその職に就くことが可能だからです。つまり、必然性に乏しく代替可能性が高いといえます。
教員養成系学部を卒業した教員は、他の学部学科を卒業した教員にはない付加価値があるという客観的な証明できればよいのですが、おそらくそのようなエビデンスがないものと思われます。
また、そのようなものが仮にあったとすると、「教員養成系学部」に相対的に劣ることになる、他学部他学科出身の教員を生み出してしまう現行の制度に問題はないのかという議論に発展します。
加えて、教員の絶対数の確保は、社会的コストが小さい他の手段で十分に代替可能なものと考えます。これについては、また別の機会に言及できればと思います。
現行の制度を疑い、「本当にこれでよいのか」を突き詰める必要性が高い領域が「教員養成系学部」だと思われます。
教員養成系学部は、これまで多大な貢献を成しており、これからも優れた教員を輩出するものと思われます。一方で、その役割は少子化や情報化が進行する今後も変わらないのか、現在の規模が適正といえるのか、他に代替する手段はないのか等、様々な点を考慮する必要があると思われます。
次回は、文学部・人文学部について書きます。
最後まで読んで頂き、誠にありがとうございました。