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ゲノム編集技術応用食品について

ゲノム編集技術応用食品について(本文1,197文字)
 
フィリピン農業省植物産業局(Bureau of Plant Industry, Department of Agriculture;DA-BPI)は2024年6月21日、ゲノム編集技術によって作出した褐変化抑制バナナを非遺伝子組換え(NonGMO)と認定しました。ゲノム編集食品は、日本では2021年に初めて上市されています。
9月 GABA高蓄積トマト(シシリアンルージュハイギャバ)
10月 可食部増量マダイ(22世紀鯛)
11月 高成長トラフグ(22世紀ふぐ)
 
<ゲノム編集技術とは>
ゲノム編集技術は、標的のDNAを切断し変異を導入する技術です。狙った遺伝子をピンポイントで改変できる点が特長です。方法はいくつかありますが、九州大学の石野教授らが1987年に発見した配列をもとしている「CRISPR/Cas9(クリスパーキャスナイン)」が最も有名です。ゲノム編集技術は次の3タイプに分類されます。
【タイプ1】非相同末端結合による変異導入:自然突然変異と同様の変異が生じさせる。
【タイプ2】同相同組換えによるDNA導入:ドナーDNAと呼ばれる短いDNA断片を挿入する。
【タイプ3】同相同組換えによる遺伝子導入:ドナーDNAと呼ばれる長いDNA断片を挿入する。
いっぽう、組換えDNA技術(遺伝子組換え、GMO)は、細胞外で作成した組換えDNA分子を生細胞に移入し増殖させることで変異を生じさせます。 

図1 ゲノム編集技術とその応用食品等の取扱い
【食品安全委員会】第185回遺伝子組換え食品等専門調査会(2019年4月26日)
資料3:ゲノム編集技術とその応用食品等の取扱い
https://www.fsc.go.jp/fsciis/attachedFile/download?retrievalId=kai20190426id1&fileId=130

 
<ゲノム編集食品の取り扱いルール>
遺伝子組換え食品は、カルタヘナ法や食品衛生法、食品表示法などにより規制の対象とされていますが、ゲノム編集食品(遺伝子組換え生物に該当しないもの)は、カルタヘナ法などの対象ではありません。したがって、法的な規制の対象外となります。さらに、ゲノム編集技術による人為的な変異と同じ変異が従来の育種でも発生しうるため、安全性審査や環境影響評価、および表示義務もありません。さらに事実と異なる内容の申告をしても、それを取り締まる判別方法がありません。
しかし、開発者は厚生労働省、農林水産省に事前相談を行い、届出または情報提供を行うことが任意で求められています。また、表示ゲノム編集食品には表示義務がありません。行政は事業者による任意の表示を推奨しています。

図2 届出や表示は、任意か?義務か?
ゲノム編集食品のリスクコミュニケーション 小泉, 日本リスク学会第35回年次大会, 2022
https://www.nposfss.com/data/sraj2022_koizumi.pdf


<オフターゲットについて>
ゲノム編集技術は、DNA配列を切断する標的特異性に優れますが、想定外の箇所に変異が入る可能性を完全に否定することはできません。想定外の箇所の変異は「オフターゲット変異」と呼ばれます。このオフターゲット変異についても、届出や情報提供で情報提供することが求められています。
ただし、オフターゲット変異は従来の育種でも多く発生しています。交配させることで除去できているので、ゲノム編集によるオフターゲット変異を特別視する必要はないとされます。
 
 
 
<参考情報>
【厚生労働省】ゲノム編集技術応用食品等
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/bio/genomed/index_00012.html
【厚生労働省】ゲノム編集技術応用食品及び添加物の食品衛生上の取扱要領に基づき届出された食品及び添加物一覧
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/bio/genomed/newpage_00010.html
ゲノム編集食品の取り扱いに関するルール, 小泉ら,化学と生物, 60(3), pp. 150-153, 2022
https://katosei.jsbba.or.jp/view_html.php?aid=1542
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu/60/3/60_600205/_pdf
ゲノム編集食品のリスクコミュニケーション 小泉, 日本リスク学会第35回年次大会, 2022
https://www.nposfss.com/data/sraj2022_koizumi.pdf
【食品安全委員会】第185回遺伝子組換え食品等専門調査会(2019年4月26日), 資料3:ゲノム編集技術とその応用食品等の取扱い
https://www.fsc.go.jp/fsciis/attachedFile/download?retrievalId=kai20190426id1&fileId=130
食品安全委員会が行うリスクコミュニケーションに関する意識調査
https://www.fsc.go.jp/fsciis/survey/show/cho20210030001
 
<関連情報>
【海外情報】ゲノム編集バナナの生産・流通が認可されました
https://note.com/fir_institute/n/neb3ab5b838ce
 
 

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