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あきたこまちRについて

あきたこまちRについて(本文3,830文字)
 
「あきたこまちR」は、秋田県で開発された新しい米の品種で、カドミウムの吸収を極めて低く抑える特性を持っています。生産者や消費者の、さらにはカドミウム基準が厳しい海外市場での展開も有望視されています。
いっぽう、「あきたこまちR」の開発技術などについて問題視し、懐疑的な意見を持っている人々もいます。
以下に、「あきたこまちR」についてご案内します。
 
 
<「あきたこまちR」とは>
「あきたこまちR」は、秋田県で開発された新しい品種の米です。この品種は、従来の「あきたこまち」と同じ味や品質を保ちながら、カドミウムの吸収を極めて低く抑える特性を持っています。秋田県農業試験場が中心となって開発を進め、特にカドミウムの基準が厳しい海外市場にも対応できるように設計されました。安全性と品質を兼ね備えた米として、国内外で注目されています。「あきたこまちR」は、秋田県のブランド米としての地位をさらに強固にすることを目指しています。この品種は、秋田県の農業の発展と地域経済の活性化にも寄与することが期待されています。
 
 
<開発経緯>
「あきたこまちR」の開発は、カドミウムの吸収を低減することを目的として行われました。秋田県農業試験場は、従来の「あきたこまち」と「コシヒカリ環1号」を交配し、さらに「あきたこまち」を7回戻し交配することでこの新品種を育成しました。「コシヒカリ環1号」は、放射線育種によってカドミウム低吸収性を持つ個体を選抜して育成された品種です。このようにして、「あきたこまちR」はカドミウムの吸収を極めて低く抑える特性を持つ新品種として誕生しました。
 
開発の過程では、何度も試行錯誤を繰り返し、最適な交配と選抜の方法を見つけ出しました。放射線育種技術を用いることで、自然界での突然変異を利用し、目的の特性を持つ個体を効率的に選抜することが可能となりました。具体的には、「コシヒカリ環1号」という品種に放射線を照射して突然変異を誘発し、カドミウムをほとんど吸収しない個体を選抜しました。その後、「コシヒカリ環1号」と「あきたこまち」を交配し、さらに7回戻し交配することで「あきたこまちR」が誕生しました。この技術により、カドミウムの吸収を極めて低く抑える特性を持つ米が開発されました。

図 あきたこまちRの育成系譜(秋田県庁HPから引用)
 
農林水産省は、「あきたこまちR」の安全性と有効性を認めています。放射線育種は50年以上にわたり多くの農作物の品種改良に使用されてきた一般的な手法であり、安全性が確認されています。また、「あきたこまちR」は有機栽培としても認められており、EUなどへの有機農産物としての輸出も可能です。農林水産省は、この品種が国内外での米の安全性と品質向上に寄与すると評価しています。
 
 
<特性とメリット>
「あきたこまちR」の最大の特性は、カドミウムの吸収を極めて低く抑えることです。従来の「あきたこまち」と同等の品質と味を持ちながら、カドミウム基準が厳しい海外市場にも対応できます。この特性により、生産者はカドミウム汚染のリスクを低減し、安全な米を提供することができます。また、消費者にとっても、安心して食べられる高品質な米を手に入れることができるというメリットがあります。秋田県農業試験場は、この品種が生産者と消費者の双方にとって大きなメリットをもたらすとしています。さらに、「あきたこまちR」は従来の栽培管理方法をそのまま適用できるため、生産者にとっても導入が容易です。これにより、農業経営の安定化や収益の向上が期待されます。
 
 
<今後の予定>
秋田県では、令和7年(2025年)から「あきたこまち」を全面的に「あきたこまちR」へ切り替える予定です。この切り替えにより、秋田県全体でより安全で高品質な米の生産が進められることになります。特に、カドミウム基準が厳しい海外市場への輸出を見据えた取り組みとして、「あきたこまちR」の導入が進められています。秋田県農業試験場は、この新しい品種が秋田県の米産業に大きな変革をもたらすと期待しています。今後は、消費者への周知活動や生産者への技術指導を強化し、「あきたこまちR」の普及を図る予定です。さらに、政府や関連機関との連携を強化し、国内外での認知度向上と市場拡大を目指します。
 
 
<懐疑派の意見>
あきたこまちRについて、懐疑的な意見もあります。以下にその主張をまとめます。
 
ゲノム編集食品や種苗に対する懸念を持つ市民が立ち上げた共同プロジェクトのOKシードプロジェクトは、「あきたこまちR」に対していくつかの懸念を表明している。まず、重イオンビーム放射線育種技術を用いて遺伝子を改変した点が問題視されている。この技術は、遺伝子の二本鎖を一挙に破壊し、遺伝子を欠失させるものであり、自然の摂理を逸脱しているとされる。また、この技術を用いた品種が「有機JAS」認証を受けることに対しても強い反対がある。遺伝子操作技術を用いた品種は、有機農業の原則に反するため、「有機」として認証されるべきではないと主張している。
 
さらに、「あきたこまちR」はカドミウムだけでなくマンガンの吸収も低下させるため、マンガン含有濃度が低い水田ではマンガン含有資材の投入が必要となり、ゴマ葉枯病にかかりやすくなる。このため、殺菌剤の使用が増える可能性があると指摘している。また、出穂期に高温が続くと収量が2~3割減少する可能性があるとする論文もあり、これらの問題について農林水産省の見解を求めている。
 
「あきたこまちR」の全面的な導入に対しては、消費者の知る権利や選択の権利が侵害されるとの懸念もある。従来の「あきたこまち」と「あきたこまちR」が同じ銘柄名で表示されるため、消費者が品種を選べない状況が生じる。この点について、消費者庁に対して未然の措置を求める院内集会が開かれた。
 
また、秋田県が「あきたこまちR」を「自家採種禁止」としている点も問題視されている。農家が自家増殖をして次期作に種子を使うことが許可されず、特許料を支払う必要があるため、農家の負担が増える。このような状況が主食の米に適しているのか疑問が呈されている。
 
最後に、カドミウム低吸収性品種への切り替えが、カドミウム汚染土壌自体の低減にはつながらない点も指摘されている。秋田県は、輸出先の基準値が低いことや風評被害を避けるために「あきたこまちR」への切り替えを進めているが、根本的な解決にはならないとされる。
 
 
<懐疑派に対する反論>
消費者団体の「食のコミュニケーション円卓会議」代表である市川まりこ氏は、イオンビーム育種技術を用いて開発された「あきたこまちR」に対する懐疑派の懸念に対して、科学的根拠に基づいた反論を展開しています。
 
まず、カドミウムと無機ヒ素のリスクについて説明し、これらの物質が健康に与える影響を強調しています。また、イオンビーム育種技術を用いて開発された「コシヒカリ環1号」とその後代品種である「あきたこまちR」が、カドミウムと無機ヒ素の両方を低減することができる点を指摘しています。この技術は、自然界で起こる突然変異を利用しており、50年以上にわたり多くの農作物の品種改良に使用されてきた安全な手法であることを説明しています。放射線育種技術に対する誤解や不安がSNSなどで拡散されていることに対して懸念を示し、育種の専門家の意見を引用して、これまで食してきた作物で自然に起きた変異による新たなたんぱく質の危険性はほぼゼロであることも指摘しています。
 
さらに、日本における食品の安全性確保の手続きについても触れ、放射線育種による品種改良は特別な安全性の確認を必要としないことを強調しています。市川氏は、消費者が新しい技術に対して過大な不安を抱くことが政策決定に大きく影響する事例が過去にもあったと指摘し、新しい技術の恩恵が社会に届くためには、技術の正しい理解と意義の共有が不可欠であり、誤解を生まない、誤解を広げないことが重要であると訴えています。
 
市川氏は「あきたこまちR」の導入が秋田県の農業と地域経済に大きな恩恵をもたらすと期待しており、その技術の正しい理解と普及を促進するための活動を続けています。また秋田県が令和7年(2025年)から「あきたこまちR」へ全面的に切り替えることについて、「あきたこまちRの祝福された門出を願っています!」とコメントしています。
 
 
<まとめ>
「あきたこまちR」は、秋田県で開発された新しい米の品種で、カドミウムの吸収を極めて低く抑える特性を持っています。生産者や消費者、さらにはカドミウム基準が厳しい海外市場での展開も有望視されています。一方で、開発技術に対する懐疑的な意見も存在します。OKシードプロジェクトは、遺伝子改変技術や有機JAS認証に対する懸念を表明し、消費者の知る権利や選択の権利が侵害される可能性を指摘しています。これに対し、食のコミュニケーション円卓会議は科学的根拠に基づき、技術の安全性と有効性を強調し、正しい理解と意義の共有が重要であると訴えています。
 
秋田県では令和7年(2025年)から「あきたこまちR」への全面的な切り替えを予定しています。これにより、より安全で高品質な米の生産が進められ、国内外での市場拡大が期待されています。消費者への周知活動や生産者への技術指導を強化し、政府や関連機関との連携を深めることで、技術の正しい理解や普及も望まれます。
 
 
 
<一次情報>
水稲新品種「あきたこまちR」を紹介します! - 秋田県
https://www.pref.akita.lg.jp/pages/archive/73119
[稲作農家のみなさんへ]「あきたこまち」は令和7年から「あきたこまちR」へ切り替わります!
https://www.pref.akita.lg.jp/uploads/public/archive_0000073119_00/%E7%94%9F%E7%94%A3%E8%80%85%E5%90%91%E3%81%91%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%95%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%88.pdf
[消費者のみなさんへ]秋田県の「あきたこまち」は、令和7年から「あきたこまちR」へ切り替わります!
https://www.pref.akita.lg.jp/uploads/public/archive_0000073119_00/%E6%B6%88%E8%B2%BB%E8%80%85%E5%90%91%E3%81%91%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%95%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%88.pdf
よくある質問(Q&A):放射線育種について
https://www.affrc.maff.go.jp/docs/mutationbreed/mutationbreedqa.html
国内産農産物銘柄設定等に係る意見聴取の議事録
https://www.maff.go.jp/tohoku/seisan/kensa/meigara/attach/pdf/kekka-10.pdf
「あきたこまちR」って何??(一問一答) - こまちチャンネル
https://www.e-komachi.jp/page-12209/
「あきたこまちR」って何??(一問一答集) 追記 - 秋田県
https://www.pref.akita.lg.jp/uploads/public/archive_0000073119_00/%EF%BC%88HP%E6%8E%B2%E8%BC%89%EF%BC%89%E3%81%82%E3%81%8D%E3%81%9F%E3%81%93%E3%81%BE%E3%81%A1%EF%BC%B2%EF%BC%88%E4%B8%80%E5%95%8F%E4%B8%80%E7%AD%94%E9%9B%86%EF%BC%89%E8%BF%BD%E8%A8%98%20(1).pdf
 
~懐疑派~
【OKシードプロジェクト】「あきたこまちR」問題に関するプレスリリース
https://v3.okseed.jp/news/5365
240920_あきたこまちR問題プレスリリース
https://v3.okseed.jp/wp-content/uploads/2024/09/240920_%E3%81%82%E3%81%8D%E3%81%9F%E3%81%93%E3%81%BE%E3%81%A1R%E5%95%8F%E9%A1%8C.pdf
「『あきたこまちR』 重イオンビーム放射線育種 なにが問題?」チラシ
https://v3.okseed.jp/wp-content/uploads/2024/09/%E3%81%93%E3%81%BE%E3%81%A1R%E5%95%8F%E9%A1%8C%E7%82%B9%E3%83%81%E3%83%A9%E3%82%B7%E5%AE%8C%E6%88%90%E7%89%88.pdf
 
~懐疑派への反証~
カドミウム低吸収米のような新技術の恩恵が社会に届くためには
https://www.jstage.jst.go.jp/article/happyokai/4/0/4_9/_article/-char/ja
イオンビーム育種で生まれた、めちゃすごい「お米」
https://www.ett.gr.jp/think/ichikawa5.html
イオンビーム育種で生まれたカドミウム低吸収米について事実を知ろう
https://food-entaku.org/koukaikoza.html#spb-column-28
 
 

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