イギリスでジャンクフードのテレビ広告を規制へ
イギリスでジャンクフードのテレビ広告を規制へ(本文2,855文字)
国立国会図書館は調査及び立法考査局は、令和6年12月23日付にて「外国の立法」No.302-1を発行し、イギリスにおける「ジャンクフード等のテレビ広告等の規制」について報告しました。
ジャンクフード等が健康に与える影響はかなり以前から懸念があるとされます。今後、日本国内でも同様の動きが進む可能性があります。
<はじめに>
イギリスでは、ジャンクフード等のテレビ広告等を規制するための法律の実施規則(2022 年4 月28 日に制定)が、2024年12月2日に改正法の制定を経て、2025年10月1日に施行されます。
イギリスでは、子供の肥満率が増加しており、健康への影響が懸念されています。政府の統計によれば、イギリスの5人に1人以上の子供が小学校に入学するまでに太りすぎや肥満になっており、これが小学校を卒業する頃には3人に1人以上になるとされています。このため、政府は子供たちがジャンクフードや不健康な飲料に触れる機会、特に子供たちの食習慣に与える影響が大きいとされるテレビ広告やオンライン広告を減らす取組を開始します。
ロンドンではすでに2019年から公共交通機関でのジャンクフード広告が禁止されています。ロンドン大学衛生熱帯医学大学院の研究によると、この広告規制により、ロンドン市民の世帯は高脂肪、高糖質、高塩分の食品、いわゆる「HFSS食品」から摂取するカロリーが1週間あたり約1,000カロリー減少したと報告されています。
<概要>
1. 背景と経緯
2022年保健医療法(Health and Care Act 2022)により、特定の食品および飲料の広告を規制するために2003年通信法が改正された。この改正により、テレビ番組、オンデマンド番組、オンラインメディアの有料スペースでのジャンクフード広告が、広告主が中小企業である場合を除き、2023年1月1日から規制される予定であったが、2025年10月1日まで延期された。労働党はこの規制を支持し、スターマー政権は2025年10月1日からの実施を確約した。
2. 規制の内容
(1)広告規制の対象となる食品及び飲料
広告規制の対象となるのは、HFSS食品および飲料である。具体的には、スナック菓子、ファストフード、炭酸飲料、キャンディーなどが含まれる。これらの食品は、栄養素を分析した結果、政府の採点システムで「健康的でない」と分類された場合や、政府が設定した13のカテゴリーに分類された場合に規制対象となる。
①加糖の清涼飲料(附則第2条~第5条)
②スナック菓子(savoury snacks)(同第6条)
③朝食シリアル(breakfast cereals)(同第7条)
④菓子類(confectionery)(同第8条)
⑤冷凍菓子(frozen products)(同第9条)
⑥ケーキ類(同第10条)
⑦甘いビスケット・バー(sweet biscuits and bars)(同第11条)
⑧朝食向けの甘いパン類(同第12条)
⑨小麦や卵を使ったデザートやプリン(同第13条)
⑩加糖のヨーグルトやフロマージュ・フレ(同第14条)
⑪ピザ(具が何も載っていないピザ生地(plain pizza bases)を除く。)(同第15条)
⑫ポテト食品(同第16条)
⑬調理済食品・ファストフード・レトルト食品等(同第17条)
上記13カテゴリーのうち、
a) 特別な医療目的(special medical purpose)用(同第1条第1項a号)
b) 乳児・幼児用の食品(同項b号)
c) 体重管理のためのダイエット完全食(total diet replacement for weight control)(同項c号)
の3 種類の食品に該当せず、かつ、「栄養プロファイリングモデル(nutrient profiling model)」を適用した場合のスコアが一定値以上8であるとき(実施規則第3条第1項)。
表 広告規制の対象となる食品及び飲料
(2) 広告規制の対象となる媒体
広告規制の対象となる媒体は、テレビ放送(第321A条第1項)、オンデマンド放送(第368FA条第1項)及びインターネット(第368Z14条第1項)である。また、屋外広告も規制の対象となる。特に、子供向けの番組やウェブサイト、アプリが重点的に規制される。ロンドンでは2019年から公共交通機関でのジャンクフード広告が禁止されており、これにより市民のカロリー摂取量が減少したことが報告されている。
(3) 広告が禁止される時間帯
テレビ広告については、子供が視聴する可能性が高いとされる午後5時から午後9時までの間でのHFSS食品の広告が禁止され、オンライン広告についても、子供向けのコンテンツやプラットフォームでの広告が制限となる。
(4) 規制から除外される広告
規制から除外される広告には、健康的な食品や飲料の広告、教育的な内容を含む広告、政府や公的機関による健康促進キャンペーンなどが含まれる。また、スポンサーシップやプロモーション活動も一定の条件下で許可される場合がある。
このように、イギリス政府は子供たちの健康を守るために、ジャンクフードや不健康な飲料の広告規制を強化しています。これにより、子供たちがより健康的な食生活を送ることが期待されています。
<効果と影響の考察>
(1) イギリス以外の国/地域での規制の状況
イギリス以外でも、ジャンクフード広告の規制が進んでいます。
スペインでは、2022年に子供向けのチョコレートやアイスクリームなどの広告が禁止されました。スペイン政府は、子供の肥満率が高いことを受けて、この規制を導入しました。スペインのガルソン消費問題相は、チョコレートやビスケット、アイスクリームなどの健康的でない食品や飲料の広告を禁止することを発表しています。
また、メキシコでは、肥満対策の一環として学校内でのジャンクフード販売が2025年3月から禁止される予定です。さらに、砂糖、ナトリウム、飽和脂肪を多く含むジャンクフードの製造者に対し、商品パッケージの前面に警告ラベルを加えることを義務付ける法案も可決されています。
(2) 日本での規制の動き
日本では、現在のところジャンクフードに関する法的な規制はありません。しかし、健康問題への関心が高まる中で、今後同様の規制が導入される可能性もあります。例えば、厚生労働省は「健康的で持続可能な食環境イニシアチブ」を推進しており、食品の栄養政策を急ピッチで議論しています。また、2025年3月にはパリ栄養サミットが開催される予定であり、日本でも栄養プロファイリング・モデル(NPM)の導入が検討されています。
このように、規制には期待される効果とともに、いくつかの課題も存在します。規制の効果を最大限に引き出すためには、継続的な監視と評価が必要です。また、規制の適用範囲や基準を明確にし、企業が規制を回避することを防ぐための対策も重要です。
※詳しくは<一次情報>ならびに<関連情報>からご確認ください。
<一次情報>
【イギリス】ジャンクフード等のテレビ広告等の規制
https://dl.ndl.go.jp/view/prepareDownload?itemId=info:ndljp/pid/13979505
<関連情報>
【BBC】Anti-obesity drive: Junk food TV adverts to be banned before 9pm
https://ideasforgood.jp/2021/07/08/uk-to-ban-junkfood-commercials/
【BBC】What counts as junk food in upcoming UK advert ban
https://www.bbc.com/news/articles/cp3d33l53r9o
【DHSC】栄養プロファイリングモデル(nutrient profiling model)
https://www.gov.uk/government/publications/the-nutrient-profiling-model
【London School of Hygiene & Tropical Medicine】Transport for London’s junk food advertising restrictions linked to reductions in high fat, salt and sugar product purchases
https://www.lshtm.ac.uk/newsevents/news/2022/transport-londons-junk-food-advertising-restrictions-linked-reductions-high
【UK Parliament】Implementation of advertising restrictions for less healthy food and drink on television and online
https://questions-statements.parliament.uk/written-statements/detail/2024-09-12/hcws93