5歳から始まるデンマークの性教育
このところ、悲しい事件が続いています。
やはり気になったのはこの記事。
乳児遺棄容疑で母逮捕 相談受けた慈恵病院、警察に苦言
「女性保護すべきだ」
https://news.yahoo.co.jp/articles/7a6e25f794d5fd9bf330162f36a21563b3b01637
誰にも言えない、勇気を出して相談した、ただ、その後のセーフティーネットの網目が、大きすぎて網目から溢れてしまう人が出る日本。
妊娠・出産に対して、福祉大国デンマークはどのような教育としくみがあるのでしょうか。
1 望まない妊娠を考える
Sue:「産む」ということを考えると、一般的には子どもは一人ではできないわけです。望まない妊娠に対して、デンマークではセーフティーネットはどのように設計されているのですか?
Chiba:デンマークでは、まず一般的に、性、避妊、出産など、諸々の指導は家庭医、保健師、性指導教諭Sexolog(セクソロジー)などが行います。
そして、望まない妊娠には「自由堕胎」が法的に認められています。
子どもを「産む・産まないない」の決定は女性自身が決めます。
Sue:当事者の女性だけで決定するのですか?
Chiba:法的にはそうです。日本では昔「優生保護法」がありましたね、今は「母体保護法」ですか?
これで日本も法的に低年齢者や障がい者にも適用し、産む、産まないが決められているのではないですか?
Sue: うーん、現実的には最終判断は女性、とは思いますが、「育てられるかどうか」を考えた時に、堕胎に関しては、日本は基本自費です。ですから、若ければ若いほどに、望まない妊娠に対してどうすればいいのか、相談できない時はどうしたらいいのか、不安を一人で抱えるのだろうと思います。
Chiba: 自由堕胎は1973年から施行されており、堕胎にかかる医療費は無料です。18歳未満の者は両親あるいは後見人の同意を必要とします。ちなみに「産む・産まない」は夫婦間でも女性に決定権があるんですよ。
Sue:へぇ、夫婦間でも女性に決定権があるんですね。
Chiba:後述のBreakingNewsでも説明しますが、望まない妊娠においては、心も体も守るために、アフターピルなどのフォローが12歳くらいからあります。
2 5歳からはじまるデンマークの性教育
Sue:デンマークで研修をしている時、小学校1年生の男の子から、6(SEX)のつく週の国語のクラスで、国語の先生が性教育(生物学)を6−7歳から始めている、と聞きました。
Chiba: 青少年の性教育以前、即ち幼稚園児に対して絵本などで「赤ちゃんはどこから生まれるの?」等の質問にペタゴウや保育士が答えています。ですから、少しずつ、ゆっくりと、遅くとも5歳くらいからはじまっているということです。
Sue:えぇ?!幼稚園児にどんな教材で、どんな言葉で教えているのか興味が沸きました。何か資料かデータはありますか?ペタゴウはそこまでやってるんですね。
Chiba: 幼稚園児に対しては1948年に初版が出た有名な本がありますが、内容は非常に生物学的に本質をつたえていますよ。これですね。
参考図書:Hbordan,mor?
Sue:おぉ、リアル。
Chiba:小学校に進むと、国語の時間に限らず理科でも体育でも性に関係する言葉が出てくると教師はその言葉に関連して性教育をすることが出来ます。
未成年に対してのいわゆる性教育は8・9年生の高学年でおこなわれます。性病、経口避妊薬,避妊器具、妊娠出産等についても教育指導がなされます。
Sue: そういえば昔、フォルケホイスコーレで、産婦人科医の研修生が性教育を教えに来てくれた記憶があります。
Chiba:そうでしたね。性教育専門者をSEXOLOG(セクソロジー)と呼び、Sexologの教育の受講資格者の学歴はぺダゴウ、教師,ソーシャルワーカー、看護師、などで資格取得のための教育は約1年です。みんな仕事をもっていますので主に週末に長時間集中して授業が行われます。
Sue:専門の資格者がいるなんて、さすが資格大国ですね。
これも国家資格なのですか?
Chiba:国家資格というか、国家試験はありませんので国が認定している資格となります。
3 知的障がい者の性に向き合う「Baby Robot」の存在
Sue:日本よりいろんな意味でデンマークは性に対しておおらかなイメージ、同性婚や事実婚(同居)などが普通ですよね。
様々な家庭環境の子どもも多く、障がいをもっていても遅くとも20代には親元を離れて自立させる国なので、性的成長も早いイメージがあります。
例えば、自分の持つ障がい故に育てられない妊娠など、色々とあると思いますが、デンマークではどのようにその判断をしているんでしょうか。
Chiba:もちろん知的障がいなど、自己判断ができない場合は、対話とともに「Baby Robot(赤ちゃんロボット)」を使ってお世話ができるかどうかを経験させます。
赤ちゃんロボットは世界中で性教育の一環で活躍している。
(写真はイメージ)出典:https://www.reddit.com/r/nostalgia/comments/e6bkg1/these_fake_robotic_babies_you_take_care_of_over/
Sue:私も以前デンマークで知的障がいをもった女性の自宅に伺ったことがありました。ベビーベッドも置いてあったかな・・・。
Chiba:順序としては知的障がいを持った女性で、子どもを欲しいという人に子育てに関する10個ぐらいの質問が記されたパンフレットを配り回答してもらいます。
例えば、
①あなたは赤ちゃんが好きですか?
②あなたが好きなテレビを見ているとき赤ちゃんが泣いたらどうしますか?
③あなたは赤ちゃんが夜中に泣き出したら起きて世話をしますか?
などなど。
次に赤ちゃんロボットを1週間位貸し出します。
ロボットにはプログラムが入っており、①夜中に泣き出す、②おしっこをする、③ミルクを欲しがるなど、本当に赤ちゃんがするリズムを実態感させます。そして、どのように対処したかデーターが記録されます。
放置したら、死んでしまう、という結果も出るんです。
私が知ってる限りではこのテストに合格した人を知りません。
BUT!知的に障がいのある人がどうしても子どもを欲しい、産みたいと言えば何人もそれを拒否することはできません。拒否するどころか最大限その実現に向けて支援しなければならないのです。これがデンマーク。
Sue:最後の最後は、他人が決定して「諦めさせる」ではなく「支援する」んですね。
4 性教育は恥ずかしいもの?隠し続けられるもの?
Sue:人間が生きていく以上、必要な教育ですが、日本では一般的にはハードルが高いというか。隠しておきたいところだったりとか。多分内容的にもデンマークとはかなり差があるように思います。
Chiba:ハードルが高いです。って?性は人間の本能の問題です。
ハードルを高くしている人は人間性を否定しているのではありませんか?
日本では障がい者の性をも否定する人さえいますよね。
デンマークでは逆で障がい者の性を支援しようと社会省が通達を出していますよ。
私の師匠N.E.バンクミケルセンは「障がい者の性を否定してノーマリゼーションは語れない」と。「何故ならノーマリゼーションはヒューマニゼーションだからです。」と私に説いてくれました。
出典:社会省発行、成人障がい者に対する性支援ハンドブック
私が以前勤めていた知的障がい者の施設の職員会議でこんなやりとりがありました。
「A君はいつも女子職員に絡まってきて大変なんですが。」
「多分彼は性欲の解消の仕方を知らないのだろうね」
「自慰の仕方を教えなければならないじゃないかな」
「私がやります!」
ためらいながらも男性のペタゴウが手を上げました。
自慰の仕方を教わったA君はその後、女性職員に乱暴をしなくなくなりました。
Sue:人間の欲求はそれこそ平等にあるわけですよね。
人が成長していくにつれ、全て親がなんとかしなければならない、というよりは社会の支援の手があることでみんな自律・自立した生活が送れる一つの例ですよね。
Chiba:全くその通りで社会福祉国家は自律・自立のある・なしにかかわらずあらゆるカテゴリーの個人が集まって生活している集団であるともいえる訳です。
<次回に続く>
Breaking News
アフターピルの処方箋なし販売、産科婦人科学会トップが慎重姿勢 海外では90カ国で販売
Sue:・・・日本って、こういう遅々として進まない、進めない問題が山積みのような気がします。そもそも人は信用できないものだ、という現れかな。と。
Chiba:さあ~て、以下のデンマークからの回答は到底日本の社会では受け入れられないことではないでしょうか?
デンマークでは15歳から経口避妊薬を購入使用することが出来ます。親に許可を得る必要はなく自分の家庭医に相談(診察あり)し、家庭医から処方箋を入手し薬局で購入できます。
別の角度から見ると15歳の未成年の女の子に、社会が、「親」ではなく、「家庭医」の判断で経口避妊薬を与えられるということになります。
もし15歳以下の場合は家庭医は親に通報する義務があります。
12−15歳から経口避妊薬を使用することが出来ます。
さらには「しまった= Fortrydelses (Pille)」という事態があった時に72時間以内に服用すれば効果があるピル。男性用ピルなども出回り始めています。
Sue:心と体を傷つける前にも、セーフティーネットがデンマークにはすでにあるんですね。日本もきっとたくさんあるのでしょうが、親には知られたくない、という気持ちもあるだろうし、体が傷つくのは女性ですからね。
<次回に続く>