デンマークのペダゴウはどうやって国の宝「子ども」を教育するのか?
Sue:前回ペダゴウ(社会生活担任)の話を少しだけしました。
ペダゴウは幼児・低学年の社会生活担任として、教育現場の毎日の生活の中で、必ず民主主義(Democracy)について体感・体験させて教えている場面が多々があると伺いました。
千葉さんがおっしゃる「生活の中の民主主義」って例えばどんな場面で普通にでてくるのでしょうか?
生まれた子どもを一人の人間として尊重する
Chiba:そうですね、シンプルに言えば、生まれた子どもを一人の人間として尊重することが民主主義の出発点。
言葉がない乳幼児は泣くことによって自分を訴えてきますので、乳幼児の自己決定・自己主張は何かを体の動きを見て理解してあげることだと思います。
Sue:育児、の前に、一人の人間として尊重すること、なのですね。確かに乳幼児とのコミュニケーションは言葉を使う場面では最初は一方通行ですからね。
Chiba:ははは、赤ちゃんは赤ちゃんなりに訴えているんですけどねえ~!保育児も幼稚園に入ってくる3歳頃にはかなり自己表示する子も多くなってきますので、その自己表示だけを受け入れるのではなく、自己表示・自己主張どうしを協力・連帯させ社会性を身につけさせるようにします。
Sue:日本でも園生活をする子どもたちは、お友達同士で協力したり、一緒に何かに挑戦する、ということはいろいろありますが、デンマークではどのような場面があるのですか?
Chiba:そうですね、例えば「お片付け」について話してみましょうか。
みんなで教室で工作をして遊んでいたとします。
「お昼が近くなったので、教室の中をみんなで片付けましょう!」と先生が伝えます。
お片付けの視点
実は、この「みんな」の意味がとても大切です。
行為は「ものを片付ける」のですが、
視点は「みんなで共有している場をみんなで片付ける」にあります。
例えば、「僕はこのハサミは使っていないから、僕は片付けないよ!」という子がいたとします。
その場合、ペダゴウは「片付けたくない」理由をきちんと聞きます。
聞いた上で「あのハサミをつかってない」といっても
「みんなで使った場をみんなで片付けよう」という考え方を説きます。
ハサミ一つの話ではなく共有の場としてです。
これで共生・連帯を教えると同時に自己責任を教えられる訳です。
子どもの言い分は徹底的に聞いたうえで、その意見に対して子どもが納得できるような説明をしましょう。
Sue:思いやり、という言葉がありますが、社会生活で本当に基本的にな考え方ですよね。
Chiba:そうですよ。みんなで生活する場はみんなで整えるのです。
次に、この共生・連帯を伝えたとしても、自己主張を通したらどうなるか、私のケースでお話ししますね。
ペダゴウは社会性を話して聞かせる
ペダゴウがこのように伝えました。
「さあ~もうじきお昼ですよ。
みんなでおもちゃや机、椅子をかたずけて、
お皿やコップを机に並べましょう!
みんなで手伝いましょうね。」
その時「私はやらない!だってやりたくないもの!」という子がいました。
(もちろんやり方は個々人によって違いますが)
そんなときペダゴウは、
手伝わなかった子どもに対して、
責任を果たさなかったことを伝え、
お昼ご飯を皆と同席することはさせず、
別のところで食べさせることをします。
Sue:えー!罰みたいですけれど!?
Chiba:いえいえ、決して罰則ではないのです。
Sue:そういう時はどういう場所で食べるのですか?
Chiba:自分が好きなところで食べなさい。と伝えますね。
Sue:ちょっとびっくりです。そんな状況を見て、他の子どもも
「じゃあ、私も好きなところで!」とは、ならないですか?
Chiba:
ここが大切なのです。
「手伝った人は、ここで一緒に食べましょうという話でしたでしょ。
でも、一緒は嫌だ、と、自分の意見を通そうとすると、自分で仲間外れになっちゃうよ?」とペタゴウは社会性を説きます。
Sue:なるほど・・・もう少し聞かせてください
Chiba:
「お昼を食べ終わったら、机や椅子を元の遊び場まで戻しましょう。
一人では重くて持てないからみんなで手伝ってね。
終わったら遊びましょう。」
さて、ここでも手伝わなかった子どもがいたとします。
その場合は次の遊び場では他の子供達がやっていることを、邪魔をさせないようにさせます。周りでみているのはもちろんいいのですがね。
仲間に入らなかったことも、その場を壊さないようにすれば、社会性として認めていきます。
もし、責任を果たさず、僕も入れて!これがいい!あれがいい!と始まると、これは自分勝手、利己主義です。
場を壊すようなことがあると、落ち着いてから戻りなさい、と別の場を指示します。
すなわち、自己責任【自分がやった行動によって生じた事態に責任を取らせる】で持って、決めていきます。
Sue:結構厳しい感じを受けますね。
Chiba:そうですか?個々人の理由を聞くことがない場面だってありますよ。教室、園は社会性を学ぶところでもあり、みんなで生活をする場でもあります。
子どもの言い分は徹底的に聞いたうえで、その意見に対して子どもが納得できるような説明をすることが肝要です。
結果、片付けなかった子供は自己責任を取らされるわけです。
Sue:さきほど、ペダゴウには様々なタイプがいるとおっしゃっていましたが、以前ゆきおさんに、とにかくミニクラス(注1) は知識を入れるのではなく、まずは「遊ぶことが大切」、と教えてもらいました。
「遊びの中に知る(学ぶ)喜びがある」「遊びで社会を感じる」ことを大切にしているのだと思うのですが、解釈はあっていますか?
Chiba :幸夫さん?ああ~、加藤幸夫さんのことですね。
日本人で多分最初にデンマークのぺダゴウの資格を取った人です。
現在は国民学校低学年生のペダゴウ(社会生活担任)として勤務していますよ。
Sueの確認のとおり、デンマークで幼児に物事を教えるときに決まって言われることは遊びを通して教えなさい、です。
私が、最初にデンマークに来た当時は幼稚園では原則として、読み書きそろばんを教えてはいけない、とさえ言ってました。
裏を返せば自由に思いのままにあそび放題遊ばせながら、社会で大切な民主主義のルールを言葉ではなく体験・実践して教えていたのです。
Sue:民主主義、ですね。やはり何度も出てきますが、日本では日常的にはあまり会話に出てこないかもしれません。
Chiba:この言葉にもつイメージも私とSueでは違いがありそうですよ。
それでは次回に、私のいう「民主主義」について掘り下げて対話してみましょう。
注1)ミニクラス(SFOminiと呼ぶ人もいます)というのは幼稚園から0学年生に上がる3~4か月前に行く学級のことです。0学年生は義務教育なので、このミニクラスが正式な就学前準備教育に当たります。
ミニクラスや0学年生の教室は小中学校の低学年部門に配置されています。デンマークは小中学校の区別がありませんが、学校内で低学年部(0~3年生)、中学年部(4~6年生)、高学年部(7~10年生)と仕切っています。なお、10年生は義務ではありません。