松山大耕さんに母娘で訊く~なぜ人を殺してはいけないのか?【序編】インタビューに至る背景
『東京は暖かいですか?京都は朝から雪なんです。』
2月の中旬、松山大耕さんとのZoomでの初対面の会話の始まりは、天気の話から始まった。
●●松山大耕さんプロフィール●●
1978 年京都市生まれ。2003年東京大学大学院 農学生命科学研究科修了。埼玉県新座市・平林寺にて3年半の修行生活を送った後、2007年より退蔵院副住職。日本文化の発信・交流が高く評価され、2009年観光庁Visit Japan大使に任命される。また、2011年より京都市「京都観光おもてなし大使」。2016年『日経ビジネス』誌の「次代を創る100人」に選出され、同年より「日米リーダーシッププログラム」フェローに就任。2018年より米・スタンフォード大客員講師。2019年文化庁長官表彰(文化庁)、重光賞(ボストン日本協会)受賞。2021年より(株)ブイキューブ社外監査役。
2011年には、日本の禅宗を代表してヴァチカンで前ローマ教皇に謁見、2014年には日本の若手宗教家を代表してダライ・ラマ14世と会談し、世界のさまざまな宗教家・リーダーと交流。また、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に出席するなど、世界各国で宗教の垣根を超えて活動中。
Newspicksが繋いでくれた松山大耕さんとの対談
松山大耕さんにインタビューをさせていただいたきっかけは、私が参加した講座での課題だった。その講座は、経済ニュースアプリのNewspicksが主催するNewswchoolで開講されたコンテンツプロデュース講座で、佐々木紀彦校長が直接指導するものだった。講座の中でチームに分かれてインタビュー記事を執筆する課題があり、私は希望していた松山さんのチームに入ることができた。
実は以前から松山さんの禅に関する著書を読んだり講演を聞く機会があり、私などにも分かりやすい言葉で禅を解説してくださる松山さんの話力と、何よりも松山さんの醸し出すジェントルな人柄に惹かれていた。
そんな遠くから見ているだけの方に直接お話を伺えるという機会を得られたことはこの上ない幸運であった。
しかし、インタビューは2月に京都の退蔵院で実施することになり、受験生を抱える親としては時期的にコロナ感染などのリスクを考えると京都への出張は難しいと判断せざるを得なかった。
そこで、松山さんに今回伺えないことのお詫びと、可能であれば是非オンライン上で娘と一緒に松山さんの上記の問いについてお話を聞かせていただきたい旨のメールを送った。
本来であれば自ら足を運んで伺うべきであり、そのチャンスを自ら断念しておきながら、このようなお願いをすることは本当に不躾であるにも関わらず、松山さんからはありがたいことに、ご快諾のお返事をいただいた。
そして2月の下旬にZoomでのインタビューが実現した。
きっかけは「鬼滅の刃」
今回私が松山さんに直接伺いたかったテーマは「親」目線のものであった。他メンバーは、Newspicksという経済ニュースメディアだけに、ビジネスをテーマとしたものが多いと想定された。それならば角度を変えて「親」としての問いも面白いのではないかと考えたことと、実際ビジネスシーンで活躍する方々の中にも「親」であるかたも多く、子育ての中で禅の導きも求めている人もいるのではないかと考えた。
実際自分自身が子供との対話の中で答えあぐねてしまうものを、松山さんならどのように導いてくれるのか。このテーマを決めるにあたり、大学2年生の娘と多く語り合った。
先ずは、最近気になっていることを気楽に娘に訊ねてみた。それは、映画のPG12についてである。
私は話題になっていた「鬼滅の刃」のアニメを、コロナ禍でステイホームになった2020年4月に一気に見てみた。最初は流行をつかむためであったがすっかり魅了され、遂にはその年の秋には映画も見にいった。すると「鬼滅の刃」にPG12という表記があることに気付いた。
調べるとPG12とは、「12歳以下の方が視聴する際、保護者の助言・指導が必要になる」という条件付きで見て良い映画と言うことだった。ふと自分に置き換えた時に、こんな問いが自分の中に生まれた。もし我が子がまだ小学生だったら「鬼滅の刃」の視聴に対してどのように助言・指導するのだろうか?実際世の中の対象者の親たちは、どのように助言・指導して映画館に連れて行っているのだろうか?
これはあくまで私の感想であるが、「鬼滅の刃」は残虐な殺しのシーンも多いのだが、キャラクターの愛くるしさもある。またアニメは色合いも美しく、時として残酷さが弱められてしまうことが危惧された。50歳を超えた私が見た時はリアルとフィクションの線引きが出来るが、まだ12年の人生経験で、それは現実にはないとの理解に至るのだろうか?
また、「復讐や目的があれば殺しが正当化されるか?」と子供に問われたら、どう答えるのか?この答えの正解が分からなくなった。
そこで娘に、「もしあなたが小学生だったら、鬼滅の刃を見るにあたっての助言・指導ってどんな風に言われたら納得する?」と聞いてみた。
すると娘が「今の年齢なら色々理解するけど、小学生の時に言われたら分からないな~。死生観ということなら、以前何かのTV番組で『なぜ人を殺してはいけないのか?』って高校生が聞いたら、大人たちが炎上したって話知っている?」と聞いてきた。
「これに答えられないと、結論がでないんじゃない?」との問いに、テーマが「なぜ人を殺してはいけないか」に移っていった。
母はどう答える?「なぜ人を殺してはいけないのか?」
私はその炎上(?)話は初耳だったので色々ネット検索をしたところ、ある情報特別番組で戦争をテーマに見識者や高校生が議論するという中での発言だと知った。
娘の質問の意図はこうだ。
「人を殺してはいけないの?という質問に対して大人はそういう質問をする=(イコール)あたかも殺人志願者?のような扱いをし、そんな質問はダメだと蓋をするけど、純粋な疑問としてなぜ人を殺してはいけないの?って当然な疑問だよねって思っている。」
子どもたちは純粋に質問に答えて欲しいのに、何か問題をすり替えてしまっている大人たちがいる。果たして私も大人として、そんなことをしていないと言えるのだろうか?と不安になった。
その後母娘で色々人を殺すことについて議論を重ね、話は、殺人から死刑制度、戦争、尊厳死と様々広がっていった。死に対する善悪や正義、そして心の中の思い。これらに答えていくなかで、私は「これまで培われた倫理観というものがあるから人を殺してはいけないという結論になる」と伝えた。
するとさらに娘は、
「生死に対する倫理観も宗教や育った国(場所・環境)によって変わるのんじゃないの?もし人を殺すことが正当化されうる倫理観がある国や文化があるとすれば、それは人を殺していいことになるの?」と投げかけられ、結局納得のいく答えは伝えられなかった。
その後「なぜ人を殺してはいけないのか?」についての本を何冊か買って読んでみたが、結局正解は各人の中にそれぞれあり、これだ!と言う答えには至らなかった。
松山大耕さんから感じるご配慮
母娘で答えが出せなかった「なぜ人を殺してはいけないのか?」を、松山さんに伺えることになった当日。
ご多用の松山さんの貴重なお時間を奪ってしまってはいけないと、始まりから無駄な時間は使わないようにと意気込んでいた。しかしそのことが通じたのか、
『東京は暖かいですか?京都は朝から雪なんです。』
と、冒頭の会話に戻る。
ゆったりと優しい笑顔で語りかけられた時、ふと窓の外の雲一つない青空を見る余裕が出来た。
「あ~、この空は京都までつながっているのに、あちらは雪ぐもなんだ」と、相手のいる場所に思いを馳せることができた。
何か、スピードだけを効率化と考えていた自分に、無駄なことは何一つないのだと感じさせてもらえる瞬間だった。そして今から伺える話は、きっと心も晴れやかにしてくれるものだろうと予感した。
インタビューの内容については是非「松山大耕さんに母娘で訊く~なぜ人を殺してはいけないのか?【本編】死生観について」をご覧ください。