
織姫の。
賢い人が好き。
聡い人が好き。
語彙の多い人が好き。
読書が趣味なら超最高。
読書が趣味じゃなくても最高。
一緒にいても無言が平気で、時々微笑があればいい。
不完全を温めあえて、欠点は時々優しい言葉ですくい上げてくれるくらいでいい。
そんなひとと友だちになれた。
織姫という名の女性。
織姫はモデルのようなスタイル。
初めて会った時織姫は妊娠中だったけど「妊娠中でもこんな綺麗な人おるんや」と心底思った。
肌が白くて、歯が白くて、ウェーブのかかったロングヘアが似合う。
きゅっと長い鼻先に引っ張られた唇は小さい卵型の輪郭の一番いい場所にツンとおさまる。笑った時に左右均等に拡がる口角の完璧な角度はまるで広げた翼のようで、織り姫が笑うと話の内容を忘れてつい見とれてしまう。
寝不足の時とチョコを食べ過ぎた時の肌荒れは好物のネギを食べてるからか三日も経てば元通り。
織姫の家は芸術品で溢れている。
大きい下駄箱が備えられている玄関には親戚一同が介したかのような数の靴が並ぶ。進行方向がそれぞれ異なる靴たちはまるで探偵を欺くために犯人がわざとつけていった足跡のよう。
ソファの上には取り込んだ洗濯物がそびえ立つ。
洗面所に所狭しと並べられた物物たちはまるで都会のビル群のよう。まさかこんな田舎で見られるとは!
突然遊びに行くと彼女は「散らかっててごめん!」とスラリとのびた足を曲げて片付け始めるけど、床に落ちた子どもたちのアウターもレゴブロックも、生きてる人間を感じられるから、好き。
片付けなくてああ、どうかそのままで、、、!
と心の中で叫ぶ。
ある日織姫の家の玄関を開けたら、ふわりと洗濯物のいい香りがした。よく見ると、A4サイズに収まるほどの小さな肌着がずらりと干されている。
あのスラリと伸びた長い指でこんな小さなものを一枚一枚干したのかと思うと、キッチンにたっている織姫を急に愛おしく感じた。
頬杖をついてリビングから彼女を見る。
料理がうまい、人付き合いもうまい、時々声をあげて子供を叱ってしまったと落ち込んでいるけど、あなたが思うよりずっとあなたの子どもたちは優しく育ってるよ。
キリリとした雰囲気とは対照的に普段はポカンと口をあけていることが多い彼女が
熱いから!
と言って淹れてくれたこのお茶は地獄の釜から湯を汲んできたのかと思うほど本当に熱かった。
そういうところも、愛おしい。
織姫は自分の話はあまりしない。どちらかと聞き上手でわたしの話がノッてくるのに合わせて話し出す。
そんな織姫が一度だけ彼女自身の話をしてくれたことがある。
きっと、一生忘れない話を。
そんな話をするときでさえも、ポツポツ話しだした織姫の言葉にどう応えるべきが一瞬悩んだわたしを見透かして彼女は
「ただ聞いてくれるだけでいいよ、ありがとう」
とわたしのちっぽけな気遣いをおおきな思いやりで包んでくれる。
そんな織姫の話を、したかった。