ジョン・ローンがジョン・ローンであることを辞めた日

ジョン・ローンが好きだ。
これ以上に美しい顔をした東洋人の男を見たことが無い。
憂いのある吸い込まれそうな瞳、完璧な形をした鼻梁、酷薄そうな唇、滑らかな肌…

今はやりの韓国風イケメンなど足元にも及ばない、生粋の男前。

端正と色気と狂気が混在した30代のジョン・ローンをまた見ようとネットを開いたとき、ふと、今の彼はどうなっているのかなと検索したら、一見、彼とは判別できない禿げて太った71歳の老人がヒットした。
若い頃は東洋の血が濃く見えたが、年を重ねた彼は、混じる西洋の血が濃く表れた老人になっていた。
かなり驚いたが、40年前の彼の際立った美しさを否定すべきものではなく、ただ、ジョン・ローンは、いつからジョン・ローンであることを辞めたのかなと思った。
そして、ラストエンペラーやイヤー・オブ・ザ・ドラゴンを見直したが、
そこに映る彼は、間違いなく絶世の美男であった。

マドンナも好きだ。
66歳と少し年上であるが、同世代のDIVAが世界を制圧していく様をリアルタイムで見続けてきた。
そんなマドンナであるが、最近の彼女の容姿はちょっとイカンことになっている。容姿もだが、言動も歳に抗おうとしている姿がイカンことになっている。だけど、私はそんなマドンナもずっと好きだ。

ジョン・ローンはジョン・ローンであることを辞め表舞台から身を引き、マドンナはどんな姿でも私はマドンナよときっと一生舞台から降りることは無いのだろう。

有り余る名声と金がいくらあっても、イカンことになるときはイカンことになるという典型は、古今東西を問わず人間の業としか言いようがない。
マイケルジャクソンの才能と金があってすら、整形をほどよい所で止めることは出来なかったし、エルヴィスプレスリーも、命を損なう過食を止められずデブのまま死んだ。そして、老いていく自分に耐えられなかったレスリーチャンは、40代でホテルから飛び降りた。

家にはTVは無く、ネットもたまに見るくらいなので、去年のパリオリンピックの誹謗中傷問題は新聞の記事で読んだ。
その記事の第一印象は、一体誰が誹謗中傷してんの?というものだった。
そのスポーツ競技に子どもの頃から全人生を注ぎ込み、国の代表になるほど抜きんでた実力者が望むような結果が出せなかったからと言って、自分が誹謗中傷できる資格があると思い込んでいる凡人が不思議である。

自分は彼らの足元にも遠く及ばない人間であるという事実を、誹謗中傷する馬鹿は自分自身の中でどう折り合いをつけているのかが謎で仕方がない。

わたしたちは、ただ応援するだけであり、思うような結果が残せなかった選手に、頑張ったね、次のチャンスがあるといいね、これで競技を離れることがあってもセカンドキャリアこそ楽しんでくださいねと労いの言葉しか持たないはずである。

以前、週刊誌に取り上げられるような出来事を起こした名のある競技者の友人と酒を飲んだとき、俺は自分自身に失望したんじゃない、俺は人に失望されたことに失望したんだ…としみじみと言っていた。
自分の起こしたことなど他人にとやかく言われる筋合いはない、俺自身の問題だし解決するのも自分だった、そんなことはどうでもいい。だけど、そんなどうでもいいことで俺に失望したと人が見切りをつけ去って行く変わり身の早さ、見事な掌返しに驚いたと。
「あなたに元々その程度の興味しか持っていなかったんだよ、その人たちは。良かったじゃん、すっきりして…」と言うと、
「そうだな、一子は離れて行かなかった一人だもんな」と寂しそうに答えるので、面白かったよ、あなたがやらかしちゃってんのとからかった。

私は、女子校育ちなので女子の生態に詳しい。
女子は、簡単に素敵に思える先輩に憧れを抱き、鼻毛が出ていたくらいのことで嫌いになり、勝手に失望したと去って行く。

ネットでの人間模様を見ていると、男も女も、メンタルが女子高生ぐらいで成長していない人をよく見かける。
図体は大人として成長しているが、精神が幼く、幼稚である。人としての懐の深さ、器の大きさが異常に小さい。
なので、がんぜない子どもにありがちな癇癪と、世界の中心は自分であるという思い込みが他人への攻撃へと繋がる。

結論から言うと、昔すごかった人に、我々凡人がどうこう言う資格は持たないのである。

我々は、人生ですごかったことなど一度もない。

昔すごかった人たちに憧れ、その才能に圧倒され、耽り、そして今はいくばくかの悲しみをもって、すごかった人の全盛期を過ぎた憐れとささやかれる姿にさえ惹かれるのである。

それが、凡人の嗜みなのだ。

凡人が、凡人である分際を忘れ、人生の一時期でもすごかった人に物申すのは、自分の姿を鏡で見てからにしろとしか言いようがない。

そこには、どんな己の姿が映っているかと問うてみたい。














いいなと思ったら応援しよう!