あンまり役に立たない浅草ガイド①
一子さん、どうして浅草に住み始めたのですかと何度も何度も尋ねられる。
亡くなった夫の愛した浅草だから、その夫が晩年病で歩けなくなり、麻布のだだっ広い家ではつかまり歩きが出来ずほどほどの広さの浅草のマンションが丁度良かったから、主なかかりつけの築地のがんセンターにタクシーで直ぐに通えたから、その夫が、縁もゆかりもない場所で逝きたくない僕は僕の家で死にたいんだと言い張ったから…
そして、彼を実際にこの腕の中で看取ったのがこの浅草の部屋であり、そこから離れるのは悲しすぎて無理だったから…
尋ねられて説明しようとすればするほど、悲しさが増していく。
浅草に、色川という地元の人に愛される古くからある小体なうなぎ屋がある。
夫と浅草で夜遊びをした明け方、色川がある路地裏を歩いていたら、かなり酔っぱらって自転車に乗りふらふらしている70近い店主にばったり出くわしたことがある。
「こんなに朝早く、どちらに行かれるんですか?」と尋ねたら、「アコムに金借りに行くんだよっ!」と赤い顔で答えながら過ぎ去っていき、あのときの色川のご主人すごく面白かったねと、後々、夫と二人で笑い合っていたのだが、どうやら真面目に築地の河岸に行く途中だったらしい。
その店主も、私の夫も今はもうこの世にいない。
答え飽きた、何十回目かの、どうして浅草に住んでいるんですか?の質問に答えようとしたとき、色川のご主人の顔が浮かんできた。
「港区に住むお金が無くなったので、浅草に住んでいるんですよ」
そう答えたら、気まずそうな顔でそれ以上誰も立ち入ったことを言わなくなることに味を占めた私は、それからずっとそう答えている。
そんな浅草初心者の浅草案内なので、あまり当てにはならないのだが、たまに麻布の家に荷物を取りに帰っていたりするけれど、実際に浅草に住んでいるし、飲食店の重要処はばっちり押さえているので、なかなか楽しい浅草ガイドになるのではないかなと勝手に思っている。
浅草は浅草村なので、地元民にはじき出されると居ずらい街だけれど、亡くなった夫の信頼が厚かったこともあり、浅草ライフはとても楽しい。
毎日浅草のどこかのバーに通っている私であるが、会員制のバーも多い。観光客が異常に多い街なので、8席や10席の地元のカウンターバーはそうして自衛しなければあっという間に外国人やバーのマナーの悪い観光客に占領されてしまう。
そして、彼らは、カクテル一杯、ウイスキー一杯で、大声で異国の言葉で延々とお喋りしながらなかなか帰らない。
そして、トイレも汚す。
そういう訳で、入ってみたい素敵なバーに限って会員制が多い。
浅草に、スナック美奈子を開業しようとしている私には、バー通いも一種の勉強であると言い訳しながら飲み歩いている。
先日、浅草のオーセンティックバーで飲んでいたら、黒塗りのセダンの高級車に黒のスーツ姿、坊主頭で眼光鋭い、港区ではヤクザと認識される男性たちが入って来た。
浅草、ヤクザ多いもんなー、かかわりたくないしそろそろ帰るかとお会計を頼んだら、察したバーテンダーが、「そっちの方ではないです、浅草寺の方です」と小声で伝えてきた。
そーかー、坊主かー、まー、あんまり変わんないもんね、似たようなもんだよね!と私も小声で答えると、バーテンダーが聞こえないふりをして酒を作り始めた。
大事なことなので、もう一度書きます。
Repeat after me
浅草では、ヤクザと坊主の区別がつきにくい。
一子の浅草バーライフはそんな感じです。
さて、あンまり役に立たない浅草ガイドであるが、シリーズ化していくつもりです。
今日のnoteには、浅草バー巡りの大切な心得を書いておく。
浅草の重鎮か、浅草セレブにはじめは連れて行ってもらえ、そして、最初は、ちゃんとお金を落として覚えめでたくなること、その後一人でそのバーへ行っても楽しくお酒が飲めます。
次号を待て!
きっと役に立つ日が来る!