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新刊作成中&『カム』vol.20の反響まとめ

新緑さわやかな五月となりましたね。
現在、『カム』では新刊vol.21を鋭意作成中です。

その作業のなかで、前号vol.20の反響(同人誌評への取り上げ)をまとめましたので、こちらでもご紹介しておきます。

 『三田文学』2023年冬季号 新同人雑誌評
 (評者・加藤有佳織氏)

 早高叶「鳥玉響」(『カム』vol.20)の上井章子は、大学生であった20年前の春のある日、37歳のフリーターの男性を殺害しました。日頃から持ち歩いていた包丁を使って何の面識もない男性をやたらに刺した通り魔殺人犯として、章子は合計18年の刑期を終え、現在は清掃員として働いています。
ひとり静かに暮らしていますが、「生きていることは無意味だ、と考えることにさえ倦み疲れるほど、無意味な日々だ」と感じている彼女のもとに、「たまゆら」と名乗る儚げな少女が現れます。幼い頃にねだったものの、母から「きっところしてしまうから」飼わせてもらえなかった小鳥を思わせる少女に続いて、司法修習生をしている20代後半の女性がやって来ます。章子が男性を刺したとき、その男性が襲っていた少女でした。血飛沫を浴びながら章子は、組み敷かれていた少女に「もう、大丈夫だよ」と言い、一切は「秘密だよ」と約束しました。章子も少女もその約束を守りましたが、司法修習生となったかつての少女はずっと謝りたかったと、章子を探し出したのです。
さらに、章子自身も思い出そうとすると「頭の中が(中略)真っ黒になってしまう」経験をしており、彼女の猟奇的な暴力には、幾層もの意味合いが折りたたまれています。そのことを語る物憂げながら意志の強い声に説得力があります。

『三田文学』同上
(評者・佐々木義登氏)

 宮内はと子「みわの光」(『カム』vol.20)の主人公は地元のスーパーに就職して二十年以上、ベテラン社員として店内のあらゆる業務をこなしています。ある日、中学までのクラスメイトで、生徒たちから恐れられていた苛めっ子の長井みわと再会します。主人公にとって最も会いたくなかった彼女は、現在では身を持ち崩し、苦しい生活を余儀なくされていました。自殺未遂のみわを助けたことから、彼女との関係を深めてしまう主人公なのでした。
距離を置きたいという思いと裏腹に、みわの人生に立ち入って彼女の社会復帰を助けてしまう主人公の機微が丁寧に描かれていました。

大阪文学学校・第35回小説同人誌評 2022年11月
(評者・細見和之氏)

 『カム』第20号掲載の、宮内はと子「みわの光」も類似した傾向の作品で、偶然ながらこちらの迷惑な幼馴染みの名は「長井みわ」。四十歳を過ぎて久々に出会っても「わたし」にとって不快な関係は変わらない。それでいてタイトルは「みわの光」。そこには「夕凪まで」(注・同人誌評において取り上げられていた別同人誌の作品名)と同様の作者の思いが感じられる気が私はする。

『神戸新聞』2023年1月27日付 同人誌評
 (評者・葉山ほずみ氏)

 カム20号から、宮内はと子「みわの光」。わたしの幼なじみのみわは、子どもの頃から要領が良く意地悪。誰もがその標的になりたくなくて、いじめられている子がいても見て見ぬふり。もちろん、わたしもだった。
 わたしは短大卒業後地元のスーパーに就職し、40代独身独り暮らし。コロナ禍で従業員不足が続く中、客はストレスのはけ口を求めるようにスーパーの店員に当たる。疲弊するわたしの前に4人の子どもを引き連れたみわが現れる。相変わらず目つきの悪いみわに恐怖を感じ、歳を重ねても自己保身に走った過去から何も変わっていない自分を思い知り、距離を置こうとする。だがある日、みわの長男が母の意識がないと助けを求めてきて……。
 過去に置き去りにした宿題に向き合うように、一歩踏み出し殻を破ろうともがく姿がすがすがしい。同誌では早高叶「鳥玉響」も面白く読んだ。


以上になります。
同人誌評では「みわの光」「鳥玉響」が取り上げられていましたが、ほかの作品ももちろん粒揃い。どれも面白いです!
vol.20はBOOTHにてお取り扱いしておりますので、ご興味をもたれた方はぜひどうぞ~。


vol.21も充実した内容で準備しておりますので、乞うご期待!
9月10日の文学フリマ大阪に合わせて発刊する予定です。
どうぞよろしくお願いいたします。
(了)

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