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The Guardian書評 2024年度 秋学期



9月26日


記事:Swiss police make arrests over suspected death in ‘suicide capsule’

日本語タイトル:スイス警察は「自殺カプセル」での自殺幇助の疑いで逮捕

https://www.theguardian.com/society/2024/sep/24/several-detained-in-switzerland-over-suicide-capsule-death-police-say

要約: スイスの警察は、アメリカ人女性(64歳)が「自殺カプセル」サルコポッドを使用して亡くなった事件の犯罪捜査を開始し、自殺教唆・幇助の疑いで数人を逮捕した。この女性は自己免疫疾患に関連する深刻な健康問題を抱えていた。スイスでは一定の条件下で自殺幇助が合法であるが、今回の事件に関しては法律に反している可能性があるとして議論が起こっている。女性の死に立ち会ったドイツの科学者フローリアン・ウィレットは、彼女が「平和的で迅速かつ dignified(尊厳ある)」な死を迎えたと主張した。サルコポッドは窒素ガスを使用し、自己管理での安楽死を目的とした装置であり、倫理的な懸念が高まっている。女性は以前から死を望んでおり、家族の支持も受けていた。そして、彼女の精神的健康については弁護士によって確認されていた。この事件は、スイスにおける自殺幇助の法律と実践に関する議論をさらに深めるものとなっている。


感想:スイスは安楽死先進国であり、CAでも何度も取り扱ったことがある。それだけに、今回の記事は注目に足るものがあった。この記事において私が気になった点は、どのような点において違法性が議論されているのかについてである。スイスにおいて自殺幇助が「合法」とみなされるにはいくつかの条件がある。今回の事件は、スイスの自殺幇助において倫理的に行われている医師の介入や警察や検察の立ち入りというプロセスをサルコが排除していることに問題があったようだ。それらの「ハードル」を排除することは、不要不急の自死を促すことにもつながりかねないと指摘する声もある。なるほど、サルコによる自死によって生じる負担は4000円ほどであるようだし、今なら無料キャンペーン中とのことで、自死を強要する「デスハラ」という言葉が認知される時代も近いのかもしれない、と感じた。


https://www.swissinfo.ch/jpn/ライフ&高齢化/スイスで自殺ほう助がタブーではない理由/45810802を参考に

最終閲覧2024年9月25日

10月3日

記事:‘Life is pretty brutal’: concerns in India over high-pressure corporate jobs

日本語タイトル:「人生はかなり残酷だ」:高圧的な企業雇用に対するインドの問題

https://www.theguardian.com/world/2024/oct/02/life-is-pretty-brutal-concerns-in-india-over-high-pressure-corporate-jobs

要約:インドの労働環境に関する懸念が高まる中、26歳の公認会計士アナ・セバスティアン・ペヤリルの死が注目されている。彼女は、エルンスト・アンド・ヤングのインドオフィスに勤務しており、入社からわずか4か月で亡くなった。母親は、彼女の過酷な労働環境が健康に深刻な影響を与えたと訴え、その手記は国内ですぐに広まった。ペヤリルは、夜遅くまで働き、週末も休むことなく、持続可能でない高い期待に応えようとしていたと母親は述べている。インドの労働時間は週平均で47時間に達し、特に企業セクターでは労働条件が厳しいことが指摘されている。約90%のインド人労働者が非正規雇用で、規制が不十分である一方、正式な雇用でも労働環境は改善されていない。元エルンスト・アンド・ヤングの社員は、同社内での労働環境は恐怖的で、上司からの過剰なプレッシャーが常態化していると証言している。このような状況の背後には、競争の激しい雇用市場がある。多くの若者が会計などの資格を取得しても、企業の雇用はそれに見合って増加していないため、応募者は殺到している。企業は、労働条件を改善するインセンティブがなく、労働者は代わりがいるため、長時間労働を受け入れざるを得ないのが現状である。エルンスト・アンド・ヤングのインド責任者は、ペヤリルの死に対するコメントを発表し、高圧的な文化は同社のものではないと否定したが、他の業界でも同様の問題が報告されている。IT業界やメディア、エンターテイメント業界でも、長時間労働や職場の圧力が常態化していることが明らかになっている。

感想:私のインドに対するイメージは、「IT業界の台頭によって、スキルを身につければカーストに関係なく出世できる社会が実現されている」というものであった。しかし、圧倒的な人口の多さもあってか、現実はそう簡単ではないようだ。優秀な人材が飽和しているからこそ、そういった人材でさえ大切にしない・使い捨ててしまうというのはなかなかに不幸なことである。そして、国内の労働市場を見切った優秀な人材が海外に流出しているのも頷ける。

最終閲覧2024年10月2日

10月10日

記事:Anger and disgust in Mexico over beheading of newly sworn-in city mayor

日本語タイトル:新たに宣誓した市長の斬首に対するメキシコの怒りと嫌悪感

URL:https://www.theguardian.com/world/2024/oct/08/mexico-murder-beheading-city-mayor-alejandro-arcos-catalan-chilpancingo

要約:メキシコのチルパシンゴ市で、就任したばかりの市長であるアレハンドロ・アルコス・カタランが襲撃され、首を切断されて殺害されるという衝撃的な事件が発生した。彼は9月30日に市長に就任したばかりで、新大統領クラウディア・シェインバウムの就任直後の出来事だった。シェインバウムは、事件について「必要な調査が行われている」と報道陣に述べている。アルコス市長の殺害は、彼の短い在任期間中に近しい盟友が射殺されるという一連の事件の中で起こった。特に、彼の秘書や警察幹部候補が相次いで殺害されており、暴力の蔓延が顕著になっている。アルコス市長は、自身を「平和のチャンピオン」として記憶されたいと語っていましたが、彼の悲劇的な死はメキシコにおける組織犯罪の深刻さを再確認させました。この事件に対して、アルコス市長が所属していた政党の代表や野党の議員が強い非難を示し、メキシコの治安の悪化を嘆いている。シェインバウム大統領は前政権の「ハグではなく銃弾」という安全政策を引き継ぐと表明しているが、実際には暴力の抑制が達成されていないとの見方が広がっている。最近のデータによると、メキシコでは2006年以降、45万人以上が暴力の犠牲になっており、治安問題は新政権にとって大きな課題となっている。シェインバウムは、安全政策の詳細を発表する予定であり、メキシコ国内の犯罪組織との戦いが今後の重要な焦点となるだろう。

感想:就任まもない市長が斬首されるという非常にショッキングなニュース。メキシコという国に対して私はあまりに理解に乏しく、タコス・麻薬カルテルといったイメージしかない。これらはGTA5などといったアメリカ社会を取り扱ったゲームなどで触った程度である。今回の襲撃には麻薬カルテルが噛んでいるようだ。反社会勢力はどのようにして、メキシコ社会に斯くも強い影響力を及ぼしているのか。

メキシコーアメリカの麻薬の密輸は19世紀ごろから行われていたようで、当時から国境付近は重要な経済の場として機能していたようだ。メキシコはマリファナやメタンフェタミンの主要な生産地であり、アメリカを最大の消費国としている。密輸は常態化していたが、これらが急激に増加したのが1960年台である。ベトナム戦争におけるベトナム側の戦略として、麻薬が流通させられていたのに加え、ヒッピー文化が盛んであったことから、需要が高まっていたようだ。70-90年代にかけて、特にレーガン政権ごろから対策が打たれていた。それと時を同じくして、メキシコにおいて71年間もの間政権を持ち続けていた制度的革命党(PRI)の資金源はカルテルにあったことが明らかになっている。2000年代にPRIが倒されたものの、カルテルの主要メンバー梗塞などを背景に余計に治安は悪化した。

メキシコとコロンビアは、麻薬輸出という点で密接な関係にある。コカインを生産するコロンビアから、古くから麻薬密輸に定評があるメキシコが手を組み、アメリカに輸出されるコカインのほとんどがコロンビア経由である。

メキシコのカルテルはアメリカのストリートギャングとも協力し、流通を強化している。これらはGTA5といったゲームでもヒュチャーされることがある。カルテルは多くの犯罪組織との協力関係を築き上げ、その影響力を増しているようだ。

彼らは極めて政治的な存在であると考えることができる。メキシコという国では、彼らは政治に対して暴力という形で意思表示をする。背景にはアメリカの存在や、国内の政治腐敗がある。特に、政治資金をカルテルから調達し蜜月の関係を築いていたPRIには大きな責任がある。

10月16日

記事:The cannabis industry is awaiting a legal green light, but can businesses survive?

日本語タイトル:The cannabis industry is awaiting a legal green light, but can businesses survive?

URL:https://www.theguardian.com/society/2024/oct/16/legal-cannabis-industry-sustain-business

要約: マリファナ産業は法的な承認を待ちながらも、ビジネスの存続が危ぶまれています。先週シカゴで開催されたBenzinga Cannabis Capital Conferenceでは、業界が法的グレーゾーンにあるため、次のステップを計画するのが難しいと多くのCEOが語りました。特に、カンナビスの法的地位の変更が株価に大きな影響を与えることや、現在の税制がビジネス運営を困難にしていることが強調されました。DEAがマリファナの再分類に関する公聴会を選挙後に延期したことで、業界の不安は高まりました。法律が変わると、企業は経費の控除が可能になり、利益が向上する可能性があるが、それには長期的な安定が必要である。

また、業界の異なる州の規制により、企業は複雑な対応を迫られている。例えば、パッケージデザインやテストラボの運営には様々な制約があり、時には顧客からの理解を得られないことがある。最終的に、合法化が進めば新たな課題も生じると、業界関係者は懸念を示している。政府が合法化を進める場合、税金の増加が予想されるため、企業はさらに厳しい状況に直面する可能性がある。

感想:アメリカのガバナンスの特徴として、州ごとに大きな差が出るというものがある。これはイデオロギー的なものもそうだし、住んでいる属性から大きく異なっている。また、日本における政令や条例といった地方公共団体が制定する法令が、アメリカではより明確に出されている。中絶などがわかりやすい例である。マリファナにおいても、合法化されている州、されていない州があるが、いずれも仕方なく合法化した(合法化した方が流通を0コントロールしやすい)といった要因があるようだ。



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