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「大乙嫁語り展」担当学芸員さんによるギャラリーツアーレポート③

こんにちは。
前回と前々回は以下のリンクからどうぞ。
「大乙嫁語り展」担当学芸員さんによるギャラリーツアーレポート①|三河珊瑚 (note.com)
「大乙嫁語り展」担当学芸員さんによるギャラリーツアーレポート②|三河珊瑚 (note.com)

 かなり間が開いてしまいました。徐々に春の気配を感じ始める時期ですが、同時に花粉の主張も感じてしまって困ってしまう今日この頃ですね。さて、前回の続きを書いていきます。

 『乙嫁語り』に欠かせない「乙嫁」たちについてのお話からです。今回はアニスさん、パリヤさんと紙面に余裕があればジャハン・ビケ様についてのお話もレポートしたい所存。(ネタバレ:紙面に余裕がありませんでした。)
 ではまずはアニスさんから。
 民族の違いをペンのタッチや背景で変化させて読み取らせるということをされていたのがアニス編。言われてみれば……なのですが、確かにここだけ明らかに文化圏が異なっているのを言葉での説明抜きで感じ取れていました。先生すごい。ではどのようにしてそれが実現されていたのか。以下、学芸員さんからの説明です。
 普段アミルさんたちを描く際に先生が使用されるのはカブラペン。かたいけれども強弱がつけやすいのが特徴です。そのため、アミルさんの力強さや凹凸のある感じをうまく表現できる。ちなみに手塚治虫も使っていたペン先だそう。
 一方でアニス編で使用されているのは丸ペンです。これは少女漫画などでよく使用される細い線が引けるペン。アニスさんが上流階級なのもあって、白とびしそうな白さかつ主線が細いので、アミルさんとは対照的なんです。なんなら70年代くらいの少女漫画を意識して描かれているとのことで、背景に薔薇を足していたりするのはそういうことだそう。言われてみれば確かにアニスさんよくお花背負ってる。シーリーンも、なんなら旦那様もお花背負ってるな。学芸員さんからこの話されるまで明確に意識してなかった……違和感なく繋げられるのがプロの技量なんでしょうね。
 もちろん森薫先生だけではないでしょうけれど、したい表現に合わせて画材を変えるという工夫がはっきりと見えたのがここでした。「大乙嫁語り展」では作画などに使用されている道具一覧も展示されていました。ちなみにインクは製図用のもので、先生曰く効率を求めるうえでも「早く乾く」のが重要だそう。

 さて、みんな大好きパリヤさんについてです。
 先生にとってご本人と一番近いキャラクターは誰ですか?という質問に対して、先生はパリヤさんを挙げられたそうですよ。いじっぱりで素直になれないところが似ているんだそうです。そうなんだ……なんだか先生を身近に感じられますね。先生もパリヤさんみたいにお布団ダンゴムシになったりされるんでしょうか。あの場面はかわいくて親近感わきますよね。
 少し話がずれるようですが、森先生は食べ物にあまり興味がない方だそうです。漫画を描くために生活を効率化して、代わりに漫画は効率化させないぞ!ということなんだそうで。確かに先生の一日の過ごし方が一問一答のなかで提示されていましたが、ひたすらストイックに見えました。
 だからこそ、食事シーンはなんとか美味しそうに見えるように苦労して描かれているのだそう。その成果ははっきり作品で見ることができますね!パリヤさんの作るパン、とっても美味しそうですもの。というかそもそもいつもの食事シーンもおいしそうだし。食べ物に対する興味が薄い方だというのがにわかには信じられない。

 ここで一旦閑話休題。漫画家の先生個々人でいろいろやり方があるけれど、森先生の場合はネームよりも前段階で話の展開を考えるそう。いろいろ描きながら考えるから、その量も膨大なんだとか。(その辺のお話が展示されていたライブドローイング兼インタビュー映像もありました。詳しくはまた次回以降に持ち越させてください。)
 今回の展示では外務省提供の写真もたくさんありました。日本と中央アジア五か国外交関係樹立30周年の記念の公式ロゴマークを森先生が描かれた関係でのことのようです。パンフレットもいただきました。中央アジア諸国の様々な写真パネルを見学でき、乙嫁語りの世界をじっくり味わえます。ちなみにカザフスタンの首都は現在はアスタナ(旧ヌルスルタン)というそうで。連載中における現実世界の変化を感じるのもまた一つ作品の魅力ですよね。
 傍らには海外版の『乙嫁語り』単行本も展示されていました。翻訳された『乙嫁語り』を手に取るのも各国の出版や文化の事情を垣間見ることができて楽しいものです。そもそも版型や紙の素材がいろいろ異なっていたり、東南アジア系の国だと規制があるので修正されることがあったり。とくに森先生の場合は女体が最高(学芸員さんがおっしゃいましたよ!私も完全に同意しますけど!!)な分、修正がかかる箇所があるそう。まぁね、あの魅力的な美しさの女体はね、永久保存すべきものだとも思うのですけれどね、刺激的でもありますからね……。アニス編のお風呂屋さんの場面なんか、初見で本当に度肝を抜かれましたからね。最高ですよね……うふふ……。

 さて、気を取り直して。
 北九州市漫画ミュージアムでは森先生によるライブドローイングもあったそうです。(知らなかった……行きたかった……。この情報過多の時代、一番欲しい情報の収集が一番難しいと思うのは私だけでしょうか。)そこで実際に描かれた四つの作品も展示されていました。

こんな感じでケースに入って展示されていました。


所要時間15分


同じく所要時間15分


同じく所要時間15分


こちらは所要時間30分

 短時間でこれだけの質と量を描かれていることにびっくり。ちなみに会場では動画で別の機会にあったライブドローイング兼インタビューの映像も展示されていました。(先程も申し上げましたがその内容はまた次の機会に……。)
 では、先生の作画姿を間近に見ていた学芸員さんの感想です。
 線に迷いがない。これは修正が少ないということにつながります。プロとしての効率を求めるうえで、マイナスの作業である修正をギリギリまで減らすことができるわけです。
 これを聞いていて夏目漱石の『夢十夜』「第六夜」の仏像を彫る運慶の話を思い出しました。夏目先生、現代にもこういう形で芸術は息づいておりますよ!

 さて、長いことダラダラと書いていたツケが回ってきました……。自分のメモが言葉足らずでよくわからなかったのです。すみません。でも念のため記録としてメモの文そのままを残しておきます。
スミスとアリ
スミスは物語をつなぐストーリーテラーの役割と『エマ』的世界観の描写
これまでのつみかさね(としか書いてない。多分これまでの制作活動の積み重ねが作品に反映されているってことをお話しされていたのではなかったかと思われますが記憶が定かでありませんごめんなさい!)

 ジャハン・ビケ様についても今回で書いていくつもりでしたが、もう字数がかなりかかってしまいましたので、次回に回します!次回はなるべく早めにしたいですね、姫路での展覧会には間に合わせたいので……。もしよかったら次回もご覧ください。
それでは。

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