米澤穂信『冬期限定ボンボンショコラ事件』をとうとう読みました。

　高校時代から『氷菓』を筆頭とした「古典部」シリーズの愛読者であった私ですが、「小市民」シリーズには手が出せなかったんです。当時の私は「持って生まれた自分の能力は他者の幸福のために使うべき」という考えを持っていた女子高生でしたから、謎を解く能力は封印して「小市民」を目指すんだ！と息巻く小鳩君に一切の共感を持てず、むしろ腹が立ちまして……。なんというか、小鳩君からにおい立つ傲慢さに我慢ならず。文庫のかわいい表紙に惹かれ、「古典部」の米澤穂信だ！とワクワクしながら手に取り、ひっくり返してあらすじを読んだ当時の私は「無理！！！！！」としか思えなかったんですよね。
　何年も前ですが、たまたま夫が持っていたのでせっかくだからと『春期限定～』から読んだんです。何年も前の記憶ですが、げっそりしたのは覚えています。それから小鳩くんもヤバいけど、小佐内さんがその何倍も輪をかけてヤバい、と思ったことも覚えています。とにかく共感性羞恥というやつでしょうか。痛々しくてしんどい、でも米澤作品ですもの、面白かった記憶はあります。先生、これはどういう種類の拷問ですか？
　そして、なんと完結すると聞いて『冬期限定～』はほぼ発売日に購入したんです。（「古典部」も期待していいのでしょうか……。翼を与えられて以降イカロスのような気分です。私、気になります。）購入したんですが、やっぱり薄っすら残る読書中のとてもつらい記憶。そして他の本にどんどん抜かされてゆきました。
　それがとうとう手をつけることになったわけでして。きっかけはアニメでしょう。アニメそのものはまだ見ていませんが（名作だそうですね）その感想がTwitterのおすすめ欄に流れてくることがちょいちょいありました。そこで小佐内さんのヤバさを思い出すなど、読み返さなくともちょっとした復習（not復讐）ができたのと、なんとすぐに『秋期限定～』のみならず『冬期限定～』までアニメ化するとのこと。あっアニメ関連の方々は「工夫」がなくとも喜んで早期のアニメ化に尽力されたんですよね……？信じていいんですよね……？で、ミステリなのにアニメの感想として万が一ネタバレが流れてきたら悔やんでも悔やみきれないと思ったので今回読むことを決意したわけです。（あれ……「工夫」されてるのは私……？）

　もちろん帯にもあらすじにもありましたけれど、いきなり小鳩くんがひき逃げされてしまって「あんまりいきなりすぎるだろ！」と声に出してしまいました。あと撥ねられるまでのモノローグがやかましい。ちょっと笑ってしまいましたよ。あまりにモノローグからスムーズに撥ねられたので、フィギュアスケートでも見ているような気分になりました。わかってもらえるでしょうか……。
　入院中の描写は、つい最近一泊とはいえ入院したので、あーわかるわかると思いながら読んでました。ちなみにそのときの経験に照らし合わせると看護師さんがあまりに冷たすぎるだろ……名前もいつまでたっても出てこないし……と思って怪しんでいました。そしたらこんなことに。なんてことだ。

　探偵とは何者か。
　彼らは良くも悪くも秘密をあばく者です。隠された秘密が悪事で、それ相応に救われるものがあればともかく、ただただ隠したかっただけの秘密を暴いてしまうこともあります。それは最近の言葉で言えばアウティングと言うものでもありましょう。そのことに対する自覚の有無で探偵としての格というものが変わってくるんじゃないかな。
　代々の良心のある探偵たちがずっと思い悩んでいたことでもあります。探偵としての業とも言えるでしょう。「秘密」の取り扱いにはポアロも金田一耕助も慎重でした。『病院坂～』で、事件解決＝大団円としてしまう「成城の先生」に、事件解決が次の事件のきっかけになることもあると苦言を呈していたのは金田一耕助でした。
　中学生の小鳩くんはまだまだ思慮が浅かった。中学生ですから仕方のないところではありますが。でもやられた方はたまったもんじゃありませんよね。こんな過去があるからこその「目指せ！小市民！」だったのか。
　そうは言ってもこの子たちは世界全体をなめすぎですが。あんなに痛い目に遭ってあれなのか。いや、まあ、思春期特有の全能感ですものね……。遠い目になってしまうよ……。それこそ彼の今回の受難は金田一耕助が予言したようなものといってもいいのかもしれません。むしろ彼は日坂くんと話し合えただけ、幸せものと言えるでしょうね。

　あー小佐内さんですか……？私は、彼女とはちょっと……。大人として彼女と関わるのはぜひとも御免被りたい。きっと彼女もでしょうね。