『本を読んだことがない32歳がはじめて本を読む』を本を読むのが趣味の三十代が読みました
本が読めないことをコンプレックスにされている方は意外と多い。そもそも読書は(読めたほうが良いとは思うけど)絶対ではないと思っています。昨今はありとあらゆる多種多様なエンタメがありますから……。それでも読書に挑戦してみようかなという素晴らしい方がおられたら、私はとっても嬉しいです。
何でこんなこと書き始めたのかと言えば、最近『本を読んだことがない32歳がはじめて本を読む 走れメロス・一房の葡萄・杜子春・本棚』を読んだからです。WEBライターをされている「みくのしん」さんと「かまど」さんが対話形式で、かまどさんの助けを借りながらみくのしんさんの読書に挑戦する様子を実況している、そんな本。詳しくはこちら。(出版社のサイトです。)
本を読んだことがない32歳がはじめて本を読む - 株式会社 大和書房 生活実用書を中心に発行。
本を読めないと語るみくのしんさん。彼の語る本が読めない理由を引用するとこんな感じ。
あー、こりゃ大変だったろうなあ。文章をおおまかにでも映像化したうえでないと先に進めないタイプの方のようです。これ、彼はめちゃくちゃ丁寧というか誠実に文章と向き合おうとされているんですよね。彼は「精読」というやり方で常に読書されようとしています。私はこんなに誠実に一冊一冊というか一文一文を読めていなかったので、むしろ反省したくなる。
学校の国語の授業ではざっと全体を「通読」したうえで、意味調べなどの準備をしてから、「精読」をしていく方式にせざるを得ないので、彼のテンポとはさぞや合わなかっただろうなあと思いました。一斉授業ではどうしても彼みたいなタイプの生徒がこぼれてしまいます。難しいところです。個別指導にも限界があるし。どうしたらいいのか、答えは出ませんしそれを考えてここに書いていたら〇科省への不満ぶちまけ文章になってしまって誰も幸せにならないので今回は割愛します……。えー、さて。
みくのしんさんは読書の才能があり余っておられる方なので、32歳で読書の楽しさに気づいてもらえてうれしい限り。これからもたくさん読んでほしいですね!
かまどさんのフォローも的確です。なにより選書も素晴らしかったと思います!無理のない難易度(語彙にしろ長さにしろ)の上げ方だったと思います。オモコロの記事で読んだあいまいな記憶ですが「メロス」の次に読者たちの期待に応えた結果『山月記』に挑戦されて、難易度のあまりの差にひどい挫折をされたようで心配してました。ダメですよいきなり『山月記』は!家庭の中辛カレーの次にいきなり専門店の激辛カレー食べさせるようなことしやがって!!冒頭の難解語彙ラッシュがあまりに初心者に優しくない仕様なんですよねあの作品は。当然名作ですけどさ!!でも最近ついに『山月記』も読破されていて他人事ながらとっても嬉しかったですし、みくのしんさんのあまりの光属性に私のなかの李徴がおいおい泣いてました。
読書なんて飽きたら途中で本を放り投げ(比喩)ても全然かまわないんですよね。また読みたくなったらそのときまた新鮮な気持ちで読んだらいい。むしろ映画や音楽ライブ、観劇などは途中で逃げられないしやり直せないので、むしろ読書の方が自由かもしれない。トイレも行き放題ですし。
視線がチラチラして同じ行を行ったり来たりする問題ですが、これは結構あるあるなんですよね。対策用の便利グッズもあります。リーディングトラッカーというものです。私のよく行く図書館には貸出用もありました。私自身も小さい字が詰まったタイプの本だとよく視線が迷子になって困ります。めんどくさがりの私は、しおりを読んでいる行に沿わせながら読んで対策しています。これでもけっこう快適に読めるようになりますよ。
本書のなかで、上記の他にみくのしんさんが読書に対して抱えていたハードルでいくつか印象に残ったものについて、勝手ながらQ&A方式で答えてみたいと思います。かまどさんも答えてらしたんですけど、私もちょっとだけ。
Q音読していいの?
A声を大にして主張したいのですが、むしろ「音読」の方が正統な読み方です。黙読がメインになったのは明治以降だったはず。音読の方が口を動かしつつ視覚聴覚も刺激するので頭に入ってきやすいんです。勉強するときも音読するだけで黙読の何倍も効果があるはずです。
ただ、どうしても音読は時間がかかるし体力も(黙読に比べて)消費するので、黙読がメインになっているというただそれだけです。ちなみに私もここぞ!ってときは声に出して読んでます。名文は声に出しても耳で聞いても名文ですよね。うっとりします。
Qはじめから終わりまで読み通さないといけないのでは?
Aマジでそんな事ないです。飽きたり読むのが辛ければ別の本に替えていいんです。別に悪いことじゃないですし、読書を趣味にしている人間でも皆そんなもんです。ちょっと負けた気はしますけど。
なんなら気になったページだけとか短編だけとかを読むのでも充分だと思います。時間が経ってまた読んでみたいと思えたら、そのときにぜひ。読み通さなくても敗北でも挫折でもありません!ただ、読み通せたときに味わう達成感は結構いいものですよ。「一編」だけでなく「一冊」を読み終える体験を、ぜひいつか。
Q言葉がわからないと読み進めてはいけないのでは?
Aノリで先に進めて大丈夫です。前後の文脈から大体こんな意味かな?と類推できることも多いです。わからなくて流してもなんとかなることも多いです。もちろん余裕があればスマホ等でぱっと検索してもいいですけど、読書が趣味という人間でも、言葉の意味を全部わかって読んでいるわけではありません。結構ノリでやってます。
Qページ数が少ない本なのに読めなかった!読書は向いてない!!
A落ち着いて!それは読書挫折あるあるです!!罠です!!
実は、ページ数が少ない=簡単な本ではありません!薄い本だから、短い本だからといって初心者がいきなり読みつけていないような夏目漱石など名だたる文豪の本や特殊な趣向を凝らした本を読んだらそりゃ挫折します。現代作家でも、あなたとの相性というのはあるはずです。本の厚みは基本的に参考になりません。文庫裏のあらすじを確認してみたり最初の何ページかを読んでみたりして、「いけそう」って思った本からぜひ読んでみてください。
Q序盤だとどれが大事な情報かわからないから覚えておけるか心配。
Aもし忘れていても、序盤にその情報が出ていたと思い出せるように小説家の方で気を配って書いてくれていますから大丈夫!たいてい「そういえばあのときAはBと言っていた」みたいな感じで分かるように書いてくれています。
メモを取りながら読書したっていいんです。綾辻行人『暗黒館の殺人』はあまりに長編だったのでメモを取らないと読み進めるのが不安でしたし、小野不由美『屍鬼』は登場人物が多すぎて、勧めてくれた人に最低限頭に入れておくべき情報の目安の確認をとって読み進めました。(偶然ですがこのおふたりはご夫婦ですね。)
あと、せっかくなので芥川龍之介だけに絞っておすすめの短編を紹介します。きっとみくのしんさんが読まれたら「映画化!」と言ってくれるんじゃないかな。『杜子春』と同じ文庫に掲載されていて、同様に少年少女向けの作品です。(ついでですが『杜子春』のお母さんのセリフ、そして「お母さん」で泣くの、めっちゃわかります。)
『アグニの神』
上海のとある町。占い師の婆さんは中国人の少女恵蓮に「アグニの神」を憑依させ怪しい呪術を使います。しかし恵蓮は浮かない様子。同じころ、日本人の若者が窓辺にいた恵蓮を見かけて驚きます。実は彼は行方不明になった日本人の令嬢妙子を探していました。
奇しくもその晩「アグニの神」を恵蓮に憑依させる儀式を執り行うことに。さて、「アグニの神」は誰に微笑むのか。
『白』
犬の白はお隣さんで大の仲良しの黒くんが「犬殺し」につかまってしまうのを、恐怖のあまり見殺しにしてしまいました。主人の坊ちゃんやお嬢さんのもとに逃げ帰りますが、彼らは「どこの犬だろう?」といぶかしげ。それもそのはず。白はいつの間にか真っ黒な体になっていたのです。やむを得ず逃げ出した白。彼はどうなってしまうのか。
谷崎潤一郎の何か『春琴抄』か『刺青』を読んで「本ってこんなこと書いていいの?」って困惑するみくのしんさんも見たいなぁ……。
それからこれは余談ですが、YOASOBIの「アイドル」の歌詞を詩として読んでいて、次のフレーズになったときのことです。
頭のなかに「そんな悲しいこと言うなよ!!俺がいるだろ!!」と叫ぶ光のみくのしんさんが現れて、ちょっと笑ってしまいました。彼、ほんとに善性に満ちた方ですよね。
そういえば、本書の最終ページでみくのしんさんから不意に褒めてもらって、なんだかすごく嬉しくなったなぁ。購入の決め手はあれだったかもしれない。
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