最近読んだ本とその周辺
最近読んで、今回話題にする本
『婦人の新聞投稿欄「紅皿」集 戦争とおはぎとグリンピース』(編 西日本新聞社)
婦人の新聞投稿欄「紅皿」集 戦争とおはぎとグリンピース | 西日本新聞セレクトモール
私が図書館で読んだのは上記の単行本ですが、文庫版も出版されているようですね。角川から出ているようです。
「戦争とおはぎとグリンピース 婦人の新聞投稿欄「紅皿」集」西日本新聞社 [角川文庫] - KADOKAWA
図書館にて、面白い本を求めてそぞろ歩きをしていたとき、ふと目についたのがこの本。タイトルに並んだ単語の取り合わせに興味を惹かれて結構軽い気持ちで手に取りました。高度経済成長期の幕開けである昭和29年から10年間、西日本新聞の女性投稿欄「紅皿」にて「戦争」に関わる投稿のなかから42編が収録されています。(ちなみにですが児童文学作家村中李衣氏のコメント、それから語釈も併せて収録されていましたので、私はしおりを三枚使いました。)
面白かったです、と言ってしまうと不謹慎でしょうか。「戦後」の市井の女性たちの視点で語られる戦中戦後の記憶、家族への思い、未来への希望。
出征先で亡くした夫、息子の記憶を抱えながらがむしゃらに家族を支えて生きるひと、無事復員したものの、今でいうならPTSDであろう症状に苦しむ夫と共に生きるひと、親子のささやかな団欒の記憶、戦後の穏やかな日常の出来事からふと顔をのぞかせる戦争の記憶……。タイトルにもあるようにおはぎ、グリンピースだけでなく羊羹やじゃがいも、かぼちゃなど食べ物がキーワードとなっている投稿も数多く、どんなときでも人は食べねば生きてはゆけないことを思い知らされます。胸が暖かくなる投稿もありましたが、胸が苦しくなるような辛い心中をつづった投稿もあれば、現代のきな臭い国際情勢を連想させ、身を引き締めたくなるような投稿もありました。
個人的に特に印象に残った二編について少し触れます。
「平和への願い」と題された投稿。幻灯会(スクリーンに写真や風景を映写して弁士の解説付きで見る会)にて、激しい殺し合いの場面になったときのこと。その場で一緒に鑑賞していた男性陣の様子に投稿者は衝撃を受けます。身をもって戦争の苦しみを体験してきた男性たちが、無邪気に「戦争ごっこをたのしんでいる男の子の顔」をして興奮した声をあげていたのです。彼らは日頃、戦争反対や再軍備反対を叫んでいる人たち。筆者は「男の人たちの血の中にひそむ”何か”に慄然としたものを感ぜずにはおられませんでした。」と語ります。ショッキングな話です。無論、すべての男性がそうではないでしょう。けれどそういうことはおおいにあり得るだろうなあと私個人の経験を踏まえて思うことはあります。しかし、筆者はそれで終わらせません。だからこそ彼女は「『平和』のための女性の任務に思いをいたしたのです。」とつづって文章を締めます。責任感のある彼女の姿勢を見習いたい。※この段落の「」部分は本文より引用です。
まぁ、男性女性はいったん置いておくとして、闘争心がなければできないこともたくさんあると思います。外敵から仲間を守るためには闘う必要もありますし。お互いに手を取り合っていいバランスで高めあっていけるといいですよね。
もう一つ紹介するのは「祖父のヒゲソリ」。日露戦争で全盲となったおじいさまを持つ筆者。おじいさんとお孫さんのユーモアのある微笑ましいやり取りを読んでいると自然とこちらもにっこりしてしまいます。
筆者が帰省したときのひとこまを引用します。
なんだかいいなぁ。じいちゃんはうれしかったろうなあ。そんな気持ち。暖かく、仲のいい祖父と孫の関係性。
私は単にほっこりエピソードとしてにこにこ読んでいたのですが、この投稿に寄せられた村中李衣氏のコメントにハッとさせられました。「戦いで視力を失った祖父の肌に触れるものが(中略)人の命を救う仕事に従事する孫の手のぬくもりであることに心を温められます。」投稿者の職業は看護婦(原文ママ)さん。このコメントを踏まえて、改めてしみじみと思いました。じいちゃんはうれしかったろうなあ。
さて、戦時中の市井の人々に思いを馳せるのに最適な施設が福岡県北九州市にあります。
「北九州市平和のまちミュージアム」(北九州市平和のまちミュージアム)
これは偶然ですが、この本を借りた図書館のすぐそばに位置します。博物館としては小さい建造物ですが、北九州市に暮らしていた市井の人々の戦前戦後の様子が、実物資料や映像資料を中心に展示されており、わが身に置き換えて考え込むこともあります。プロジェクションマッピングなど最新の映像・音響技術が取り入れられていて、そこも興味深い博物館です。とはいっても過剰な演出や過度に恐怖をあおるような展示はありません。静かに、けれど力強く語りかけられる。そんな展示がなされています。
入場料も200円と博物館としては格安ですし、気が向いたらぜひ、足を向けてみてください。