「肛門記(作:朝井リョウ)」がやや他人事でなくなった話〜大腸内視鏡検査編〜

 これは序章の続きです。よろしければこちらを先にお読みくださいませ。

 さて、痔(内痔核)の治療の前段階として設定された大腸内視鏡検査がやってきた。そもそも前日から食事制限(おうどんやおかゆ)がありましての当日。ちょっとひもじい。
 下剤ですべてのものを出すために、いつもより1時間以上の早起き……。とてもつらい。そもそも下剤もどんな味がするんだろう。とてもこわい。『腸よ鼻よ(作:島袋全優)』で何かを「さわやかなゲロ」みたいな味って書いてらしたけど、これだったらどうしよう。とても憂鬱。(後で確認してみたら経腸栄養剤のことでした)
 そんな思いをぐるぐるめぐらしながら下剤とコップとお水を用意。ゴルゴタの丘を登るイエス・キリストもかくやという姿を寝起きの家人に見せつけます。説明時に渡されたパンフレットを参照しながら指定された時間ごとに指定された量を少しずつ飲んでゆきます。恐れていた味ですが、しょっぱにが!!って味でした。飲めます。少なくとも「さわやかなゲロ」ではなかったことにひと安心。かなりのしょっぱさと苦さがありますが、耐え難いというほどではない。ギリ飲める……うん……。製薬会社の皆さんありがとうございます……ほんとに……。
 そして座っているだけでは下剤の効果が十分発揮されないということで、家事をちまちましながら「その時」を待ちます。といってもはじめから便意が猛烈に来る種類のものではないため下剤とお水を飲みながら、時折お手洗いで座ってみてねと指示されていたので何度か挑戦するも、なかなか「その時」は来ません。マズイ。そもそも一昨日からお通じは無かった。パンフレットによると2本目まで飲めるこの下剤だけど、1本しかもらってない。もし私が2本必要なタイプだったらどうしよう。このまま何の成果も得られずに病院に行くことになったらどうしよう。大腸を捧げればいいのだろうか。頭の中で静かにパニクりつつちまちま家事をしていたら、来ました。
 そこからは怒涛のよう。下剤を飲み、お水を飲み、お手洗いにゆき、記録をつけ、お水を飲み、下剤を飲み、お手洗いにゆき、記録をつけ、お水の途中でお手洗いにゆき……。途中でパジャマのズボンを履くのをやめました。下着姿でお水を飲み、お手洗いにゆき、記録をつけ、お水を飲み、下剤の途中でお手洗いにゆき……(以下略)。治まったか……と思ったらまたお手洗いから(大腸から?)の呼び出しがかかります。家人との二人暮らしで助かった。義理の父母には娘同様によくしてもらってはいるけれども、だからこそこんな姿見せたくない。(仮に同居してたとしても、気を利かせて席を外してくれているだろうけれども)。なんだかんだで、試しに体重を測ってみたら昨晩から1.2kgも減少していました。そりゃ身体計測前に下剤飲もうとする乙女がいるわけだなと。(やめてね、肛門に不要な負担は無用だよ!)
 ヘロヘロになりながら家人の運転で病院に到着。待合室で、先週の私のように看護師さんに渡された下剤におののきながら味の心配をされている方のやりとりが耳に入る。「しょっぱにがいって感じでした!大丈夫です、飲めますよ!」と元気な私だったらその方にお声がけできたんですが、体内から1.2kg人工的に排出させられた私にはそんなことできませんでした。あの方は今どうされているだろうか……(勝手に同志にしています)。
 さて、順調に検査に向かえたら良かったのですが、なんと前日にやってきてしまった困ったアイツ。そう、生理です。なんでこんなに来てほしくないタイミングで……。病院に問い合わせるか迷ったのですが(ご迷惑かなと思って電話しなかったんですが、問い合わせればよかったと今になって後悔)そしてタンポンを使えばよかったんですが、タンポンがどうにも苦手でうまく使えないんです。体内に異物を入れることへの抵抗感が強くて。大腸内視鏡検査でただでさえ負担が大きいところにさらにタンポンを加える勇気がなく。慌ててドラックストアで買ってきた、股間に挟んで使用するシンクロフィット(これもそんなに得意ではない)とナプキンで乗り越えられることを祈りながら検査に向かいました。
 結論、だめでした。検査着(お尻のところにスリットのようなものがある)に着替えたところでシンクロフィット君があえなく墜落事故を起こしました。看護師さんに余計なお仕事を増やさせてしまい、大反省……。待合室で待つ家人の元へ換えを取りに行こうかという話にもなりましたが、ベテランの方がガーゼを挟んでおくことを発案してくださり、それで乗り切ることになりました。ほんとに申し訳ない。検査台に乗っても申し訳なくて恥ずかしくて、ずっと恐縮していたら「大丈夫よ」「いいのよ」と看護師さんたちが優しく声かけしてくださいました。以後、気をつけます……!!
 術前検査なので、血液検査も同時に行います。が、恐縮しすぎたのと大腸内視鏡検査が怖いのと注射がそもそも怖いのの三点セットで、血が出ない出ない(なんなら生理でそもそも血が足りていない)。「こんなに良い血管なのに」「申し訳ない」と今度は看護師さんが恐縮してくださって、申し訳ないやら痛いやら。三度目の正直で無事に採血と麻酔の点滴が成功しました。
 さて、先生もいらして検査が始まりました。麻酔もあってよく覚えていませんが、お腹がとにかく痛くて張ってて苦しかった……!!麻酔かけててアレなんだもん、麻酔無かったらどうなっちゃうのアレ。「どうですか〜」という先生(あるいは看護師さん)の声かけに「イタイデス」「ウグゥ」しか鳴けない。おぼろげな記憶ですが「ほら、力抜いて〜」「もうすぐですよ〜」「頑張って〜」など大勢の方から励ましてもらったような気がします。「ウギュウ」。痛みと頑張らなきゃ!という気持ちとでこんがらがって半泣きになっていたのですが、看護師さんがそっと肩に手を添え、優しくさすってくださって、それがすごくありがたかったです。私が看護学校に志望理由書を書くなら確実にこのエピソード書くくらいに心の支えになってました。「手当て」ってほんとに手当てになるんですね。体感しました。
 検査後、麻酔がある程度切れるまで寝かせてもらいました。お布団もかけてもらってすやすや眠っていました。スッキリ目覚めて待合室に戻ったつもりでしたが、「麻酔切れきってないんだなぁ」と家人に思われるくらいにはぽや〜としていたそうです。ぽやぽや。
 さて、検査結果や手術をどうするかの説明を家人とともに受けます。人生初の内視鏡検査後の疲労困憊状態でまともに説明を聞いたり手術方法を選択したりできる自信が皆無だったので、冷静な人についてきてもらおう、記憶力と判断能力の予備として来てもらおうということで同席してもらいました。結果的に麻酔後のぽやぽや頭でもあったので助かりました。皆(先生、私、家人)で見ているピンク色のこれは私の大腸なんだなぁとかやっぱり憩室(ポコっとしたポケットのようなもの)はあったか中高時代便秘と下痢を繰り返してきたもんねとか、わぁ痔って白いんだぁなんでだろうとか、先生の説明を受けながらも今思えば頭のなかはちょうちょでも飛んでそうなぽやけ具合でした。ちなみに、不幸中の幸いで大腸には病気はみられませんでした。憩室はあるね〜ってだけなので別に大丈夫。憩室炎と虫垂炎はよく間違われるってお話を先生がちらっとされてたので、万が一どっかでお医者さんが困ってたら「私、憩室あります!」と元気よく言わないとなとだけ。元気いいなら帰りなさい。
 結論として、手術方法は一泊入院の注射による硬化療法となりました。しっかり切ったり縫ったりする手術(1週間コース)は、1か月くらい痛みがあるそうで、私の状態ならまずは硬化療法で様子を見たほうがいいそう。前回の説明から、何度も手術するのは嫌なのでいっそひと思いに一週間入院を覚悟していたのですが、先生の話しぶりからしてそれだとリスクとリターンが釣り合ってなさそうだったので、素直に硬化療法をお願いしました。
 看護師さんからの説明を聞き書類を受け取りながら、人生初の入院というものに少しだけわくわくしている自分もおりました。
 ……さすがに字数が多くなってきましたので今回はここまで。次回は入院編です。準備したモノやコトについても少しくらい書いてみようかなと思います。よろしければまたご覧ください。

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