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労働組合だから出来ること
私たちファイブスター労働組合は、組合員のキャリア形成を支援し、健全な組織発展を実現するため、ジョブ・カードを活用したキャリアコンサルティングに力を入れています。飲食業界における労働環境の課題は深刻で、社員の長時間労働やメンタルヘルス問題、若手社員の定着率低下が大きな壁となっていました。特に、店長クラスの孤立感は組織の根幹を揺るがしかねない重大な問題であり、この課題を解決するためには、今までの労使関係を「対立」から「対話」へと変えていく必要があると痛感しています。
労働組合として、利害関係に縛られない独自の立場を生かし、組合員のキャリア支援を強化することができるのではないか。そう考えた私は、以前キャリアコンサルタントの資格を取得した際に学んだジョブ・カードの有効性を思い出し、「これだ!」と直感しました。このツールを活用すれば、組合員が自己理解を深め、将来へのビジョンを描けると確信し、ジョブ・カードを取り入れることを決意したのです。
ジョブ・カードの活用と具体的な取り組み
私たちは、まず組織の中心である店長層に焦点を当て、ジョブ・カード作成ワークを組み込んだ研修とキャリアコンサルティングを実施しました。特に、店長たちが感じていた孤立感や仕事へのプレッシャーを和らげ、彼らが自分の役割と未来に前向きな意識を持てるようサポートしました。15名の労働組合支部長が参加し、これまでの経験や仕事への思い、今後のキャリア目標を振り返るワークを行い、その後キャリアコンサルティングを通じて深い自己理解を促しました。
その結果、支部長たちからは「自分がこの仕事に情熱を持っていると改めて気づいた」「もっとスキルアップを目指していきたい」といった前向きな声が数多く寄せられました。これにより、組織内でのキャリア形成や人材育成への関心が高まり、店長たちが自信を持ってチームをリードする姿が見られるようになりました。
以下は、ジョブカードの活用ではありませんが、キャリアコンサルタント資格を持つ組合ならではの事例をご紹介します。
好事例1: 自分を犠牲にしてしまう副店長へのキャリアコンサルティング
ある日、オルグの際に支部長から深刻な相談がありました。彼の部下は、長時間労働や忙しい業務の中で体調が優れず、明らかに体調が悪そうなので、何度も病院に行くべきだと言っているにもかかわらず、なかなか足を運ばないとのこと。理由を聞くと、「自分がもし入院でもすることになったら、店長やお店の仲間に迷惑をかけてしまう。だから自分が我慢すればいいんだ」と、非常に自己犠牲的な思考が根付いていました。彼は、自分の体のことよりも仲間のことを優先し、責任感の強さが逆に健康を損なっている状態にあったのです。
そこで、私はキャリアコンサルティングを実施しました。まず、彼の気持ちをじっくりと聴き、「本当に大切にしたいことは何か」「長いスパンで見たとき、自分がどのような役割を果たしたいのか」を一緒に考える時間を持ちました。彼自身も話していくうちに、自分の健康がなければ誰も支えられないこと、そして未来の自分を守ることが仲間のためでもあると気づき始めました。キャリアコンサルティングの結果、彼はようやく自らの健康を優先することの重要性を理解し、病院へ行く決心をしたのです。
病院で診断を受けた結果は重度の糖尿病で、「来るのが遅ければ命に関わるところだった」と医師に告げられました。この相談をきっかけに、彼は自分の健康を守ることの大切さに目覚め、自分を犠牲にするのではなく、周囲に支えを求めることも仕事の一部だと考えるようになりました。キャリアコンサルティングを通じて、自分の価値を再確認した彼は、今ではより健康的に業務をこなしており、チームの雰囲気も改善されています。この一連の出来事は、彼の人生を変えるきっかけとなり、組合にとっても非常に大きな学びとなりました。
好事例2: 働く母親の「好きな仕事を続けたい」という思いを守ったキャリアコンサルティング
30代の女性組合員が抱えていた悩みは、子育てと仕事の両立に対する強い不安でした。彼女はココスの仕事が大好きで、「長く働き続けたい」という思いがありました。しかし、小学2年生の子供が小学4年生になると時短勤務や深夜勤務の免除が無くなる規定に対し、「このままではもう仕事を続けられない」と不安を抱え、「周りの主婦や先輩もこの制度で乗り切ってきたのだから、自分が悪いんだ」と自分を責めるようになっていました。
彼女もまた、「お店の仲間に迷惑をかけたくないから、自分が我慢するべきだ」と考え、心の負担を抱え込んでいました。そこで、私はキャリアコンサルティングを通じて、彼女の話を丁寧に聴き、自分自身の価値観や本当に大切にしたいことを再確認する時間を持ちました。彼女は相談を通して、自分の気持ちを整理し、「本当に好きな仕事を諦めたくない」「子育ても仕事も両方大切にしたい」という自身の思いに気づくことができました。
この気づきを得たことで、彼女の思いをサポートするため、私たち労働組合はすぐに会社に現状の問題提起を行いました。私たちが会社と対話し、「働く親が安心して子育てしながら働き続けられる環境の必要性」を訴えた結果、会社は小学6年生まで時短勤務や深夜勤務の免除を拡大することを決定しました。この改善策により、彼女は「好きな仕事を続けることができる」と安心し、笑顔で前向きに仕事と子育てを両立できるようになりました。
この事例は、労働組合がキャリア支援を通じて個人のニーズに耳を傾け、会社と協力してより良い働き方が実現した例です。キャリアコンサルティングを通じて組合員の声をしっかりと聞き、その声を会社に届けることで、労働環境を改善し、働く人たちが未来を安心して見つめることができるようサポートしています。私たちの役割は、「組合員が自分の夢や希望を諦めずに働ける職場を実現すること」だと強く感じさせられた出来事でした。
未来への決意
これらの成功事例は、キャリア支援を通じて組合員が自分の価値を再確認し、行動を起こす力を得る瞬間を象徴しています。サービス業では特に、自分を犠牲にしがちな強い責任感を持つ人が多く、話を聴いてもらう機会が少ないため、こうしたキャリアコンサルティングは非常に効果的です。労働組合として、組合員の声をしっかりと受け止め、会社と対話を重ねて現状を改善していくことが、私たちの使命です。今後は、店長層だけでなく、全組合員に向けて研修を広げ、組織全体の成長を目指していきます。
私たちは、組合員が自分の夢や希望を諦めずに働き続けられる職場を創り上げるため、情熱と責任を持って挑戦し続けます。誰もが安心して自分らしくキャリアを築ける未来を、共に実現していきましょう。