ネコのこと 虎太郎のこと 006
実は、実家にも猫がいた。飼い主は母と父。なのだけれど、母も父も自ら飼いたいと思って飼い始めた猫ではなかった。
その猫、名前を「チャペ」という。そこからして、実はなんだかなぁな話なのだ。
その土地その土地で方言があるけれど、僕の田舎では、猫のことを「チャペ」という。例えば「ワンコ」といえば一般的に犬という固有名詞の代わりになるもので、「ワンコ!」と呼べばそこら中の犬が振り向く(いや、実際には振り向かないんだけど)と同じように、僕の田舎では「チャペ」といえば、一般に猫なのである。
自分の愛犬に「ワンコ」という名前は付けないだろうぐらいに、僕の田舎では、猫に「チャペ」などという名前は付けないのが常識なのだ。「チャペ!」と呼んだらそこら中の猫が一斉に振り返る(実際には振り返らないんだけど)。
では、なんでそんなことになったのかと言えば、その猫は、もとは僕の弟が大学生のときに(たぶん酔った勢いで)拾って飼った猫なのだ。
弟は何かしら生き物が好きで、それは小さい頃から顕著だった。なんとなく生き物の世話からはちょっと身を引いている兄とは違い、手乗り文鳥とか縁日のヒヨコとか、何かと可愛がるやつだった。
その弟が猫を拾って飼い始める。名前を付ける。もしかしたら同じ東北でも弟の住む仙台では猫のことは「チャペ」とは言わないのかもしれないけれど、とにかく弟は、猫に「チャペ(猫)」という名前を付けた。
弟らしいと言えば弟らしい・・・
そして、弟は大学を卒業すると、一念発起して警察学校に入った。当然の寮生活。猫など飼えるはずがない。それで実家の両親に泣きついて預かってもらったのが、くだんの「チャペ」なのだ。(その後紆余曲折あって、結局弟は猫を引き取ることはなく、チャペは永久的に実家の猫となった。)
書き始めたら長くなったので、前編はここまで、ということで・・・