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洋楽バロンドール 2000~2009年編 part5
趣旨を知らない方はこちらをどうぞ↓
2000年
1位 エミネム
2位 レディオヘッド
3位 アウトキャスト
2000年代はジャンルの棲み分けがきっちり行われた時代であり、ジャンルの壁をまたいで天下を取った印象のあるアーティストはあまりいないイメージであります。
その中でもこの年のエミネムは二重人格「スリムシェイディー」を通しての辛辣な社会風刺が、若者を中心に幅広く支持され新たなスター像を形作りました。
どこまでも黒人文化であるHIPHOP界でも、認めざるを得ない圧倒的なスキルと、気の抜けたファンクさが魅力のビートで一気にスターダムへ駆け上がりました。
またこれまで何度もノミネートしてきたアウトキャストもついにアトランタのヒップホップサウンドからジャンルを縦横無尽に横断するイノベイターへと進化し、バロンドール3位に位置します。
さて2000年の顔といえばレディオヘッドも必ず名が挙がります。なにせ3年前に『Ok computer』でデジタルロックの神秘的な狂気を見せておきながら、とうとう『Kid A』でバンドサウンドそのものを解体し、ロックの進化の歴史の終着点を見出したわけですね。
『Kid A』は誰もたどりつけない領域へ進化を遂げてしまった絶望のアルバムであり、そしてその世界には未来も何も無いという絶望のアルバムというわけです。
ここの衝撃が、オルタナリスナーにとってはロックの最後のターニングポイントでは無かったのではないでしょうか。
だって未だにXでKid Aがロックかロックじゃないか論争をしてるくらいですからね。この作品以降、急激にエレクトロニカのファンが増えたり、ピッチフォークを中心とするインディロックの未知への旅路が開かれたりしていきます。
そんな空間も時間も歪めてしまうような強い磁場のある本作は、『商業的自殺』と危惧されながらも世界で700万枚以上売れる偉業を成し遂げました。
このように商業的成功すらも収めたレディオヘッドですが、その影響はアメリカには波及せず、むしろかつてのオルタナのラウドギターの側面をそのままにHIPHOP的要素を足したニューメタル勢が勢力を増し始め、特にリンキン・パークとリンプ・ビズキットの2組が躍進を遂げました。
両者のメッセージ性や信念は相反してるものの、「ラップメタル」の両翼として比べられがちなのは少し不可解ですが、どちらも絶大な人気を誇ってたのは間違いないでしょう。
一方で、レディヘ 一強のUKロックですが、新人バンドもきちんとデビューします。
それがコールドプレイです。今のポップスターからは想像もつかない青臭いギターロックを奏でてます。
さらにU2も時代に取り残されることなく、より立体的なデジタルサウンドとバンドの素材を活かしたアレンジでさらに舵を切ります。
また、2000年の名盤として『Kid A』と双璧を貼るのがディアンジェロ『Voodoo』であります。黒人のグルーヴが持つ快楽を究極まで突き詰めたR&Bの金字塔ですね。この作品の批評筋からの絶賛もあり、エリカ・バドゥと共にネオ・ソウルムーブメントが頂点を迎えます。
ポップス界は引き続きブリトニースピアーズが頂点として君臨し、R&Bシンガーのネリーも同じようにブレイクしました。
こうして見ると、業界への影響力のエミネム、ロック方面の革新性のレディオヘッド、HIPHOP方面の革新性のアウトキャストという、誰が頂点をとってもおかしくなさそうな三者ですね。
2001年
1位 ミッシーエリオット
2位 JayZ
3位 リンキン・パーク
2000年同様、こちらも意見が割れそうな順位となりました。
ティンバランドの登場によって起こったR&Bのエレクトロ路線は、この年のミッシーエリオットの諸作品によってついに極限の域に達します。
2位はJayZ。これまでの露骨な商業路線に懐疑的な目を向けられ、Nasからもビーフを吹っ掛られていたジェイZですが『The blueprint』にて本気のプロダクションを見せつけ、東の親玉としてさらに勢力を広げつつNasへのアンサーも返し業界を盛り上げます。
ストロークスとホワイトストライプスなどのクールな若手ガレージロックバンドが一気に注目を浴びます。
他にもレディオヘッドを始めウィーザー、ビョーク、system of a downなどもまだ元気に活躍してますね。
そしてこの年はダフト・パンクが名盤『Discovery』を発売した年でもあります。当時はミレニアムの解放感を祝福するかのような捉えられ方をされてたそうですが、80年代のシンセポップ~AORのリバイバルが起こることを世界で一番最初に予言したアルバムでもあると思います。そういう意味でどんどん重要性と普遍性は増していってると思います。
ネオ・ソウルからはアリシア・キーズがブレイクしましたね。
2002年
1位 エミネム
2位 コールドプレイ
3位 ストロークス
この年はエミネムがさらに飛躍する年となりました。自伝映画『8 mile』の公開です。「Lose yourself」はHIPHOPの枠を超えたファイトソングとして未だに親しまれており、エミネムの代名詞になりましたね。
ポップスは、マルーン5がデビューし、アヴリル・ラヴィーン, ジャスティン・ティンバーレイクなどが活躍しましたが、いまいちパッとしない印象です。(アヴリルは未だに日本でも人気ですが)
9.11の影響で、呑気な音楽を奏でてる場合じゃなくなったのも影響してると思います。前年に比べて明らかに勢いが削がれてますもん。
ロックバンドに関していうと、当時のアメリカのインディーシーンの中でも屈指のバンドであるwilcoなんかが批評筋から絶賛されましたが、チャートアクションは弱いです。
ストロークスはもちろん、リバティーンズがブレイクしたものの、ガレージロックリバイバルが如何せん、メインカルチャーを侵食するほどには支持されず、ロックがサブカルの範疇を超えないのが辛い状況です。
となると頼みの綱がイギリスではコールドプレイ、アメリカではレッチリとかになってくるわけで、彼らはどんどんスタジアム級のバンドとして風格を増し出してますね。
2003年
1位 アウトキャスト
2位 ビヨンセ
3位 ホワイトストライプス
もうこの年の目玉はビヨンセの『Crazy in love』vsアウトキャストの『Hey ya!』という二大アンセム対決ですね。
21世紀のポップスの中でもここまで請求力のあるナンバーは中々ないですし、女帝の誕生と偉大なるイノベイターの終着点とのふたつの対比としても面白いです。
引き続きポップス枠はクリスティーナ・アギレラ,ブリトニースピアーズ辺りがスタイルチェンジしつつ活躍していて、HIPHOPでは50セントのデビューとジェイZの活動休止という1つの転換点を迎えました。
ロック側もホワイトストライプス、ストロークスのガレージロック勢を始め、リンキン・パーク、レディオヘッドも活躍。
特にホワイトストライプスは『Seven nation army』という一大アンセムをリリースし、リンキン・パークはニューメタルのブームが過ぎ去っても残る「ホンモノ」であることを証明しました。
期待の新人枠としてはニューメタルとゴス要素を組み合わせたエヴァネッセンスですかね。
2004年
1位 グリーン・デイ
2位 カニエ・ウェスト
3位 マルーン5
この年に出てきた新人はかなり豊作で、ガレージ味のあるフランツ・フェルディナント、シンセポップの雄 ザ・キラーズ、インディロックの理想を体現し新人ながら一気にブレイクしたアーケイド・ファイアなどがいました。
ですが、この年シーンを制したのはベテランとしての意地を見せたグリーン・デイ。
イラク戦争の批判を織り込みながら、夢を見て故郷を飛び出した主人公が自己の人格に向き合うというコンセプトで1時間弱のロック・オペラを作り上げ、翌年のグラミー賞を受賞しました。
HIPHOPはもうカニエ・ウェストのデビュー。これに尽きますね。JayZのプロダクションに参加した時点で、そのトラックメーカーの才能はずば抜けてたことが分かりますが、もうソロデビューしてからは「爆速」ですね。
この頃のR&Bはもはやヒップホップと同等のものとなってますが、アッシャーのような歌モノ寄りの人もしっかり活躍してます。
また、ジョン・メイヤーのような名ギタリスト兼シンガーソングライターもデビュー。
さらに2002年のマルーン5のデビューアルバムがロングヒットを続け、グラミー賞新人賞まで獲得するに至りました。
2005年
1位 カニエ・ウェスト
2位 グリーン・デイ
3位 マライア・キャリー
最悪やー‼️
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/173334205/picture_pc_3c0281dd69d422008050d084c7b7e074.png)
私の心の中の屋敷が出てしまいました。
そりゃまあ受賞したカニエ・ウェスト、及びそれに準ずるアーケイドファイアやマライア・キャリーには文句ないですよ?
ですが、最初の2000年の時と比べてもだいぶ盛り下がってません?
と不安になって、インフレ度を計ってみますと「4.0」
1963年以来、史上最低の数値を叩き出してるわけですね。
そうです、ピッチフォークなどの批評媒体が活きのいいインディロックバンド探しに時間をかけている内に、いつの間にか洋楽は停滞していったわけですね。
その傾向は2002年頃から感じられたのですが、もうかなり無理が祟ってる状況です。
そりゃいい作品、いいバンドは沢山いますよ。
R&Bはカニエ・ウェストプロデュースによるコモンの「Be」が隠れ名作として評価を受けたり、ロックはアーケイド・ファイアだけでなく、コールドプレイ,ゴリラズ,Bloc partyなどが話題になったりですかね。
あと、ダフト・パンクが一応3作目を出してることとか。
それにしても弱い!
そしてなんで弱いのかも分かりません。なんかこの時代って平和だったんでしょうね。
邦楽もこの頃ってオレンジレンジがめちゃくちゃ流行ってましたし。
あと音楽ジャンルの多様化と、CDだけでなくダウンロードが主流になってきたのもあって、'天下'がそれぞれ分かれるようになったのが原因かもしれません。
そしてネタバレすると、この停滞状況はここから10年くらい続く羽目になります。
2006年
1位 アークティック・モンキーズ
2位 ジャスティン・ティンバーレイク
3位 マイ・ケミカル・ロマンス
もうこの年はアークティック・モンキーズでいいんじゃないですか。
インターネット上でたちまちデモ音源がバズり、そのままデビューシングル,デビューアルバムが全英1位を飾ります。付いたあだ名は「オアシス以来の衝撃」。
ストロークス以降のガレージロックバンドの中でも、別格のエネルギーを放ってますね。しかも、1stだけの一発屋で終わらずに、この後も成長を遂げていくんですから凄いですよね。
そして、コールドプレイに続いてミューズも新たにスタジアムロックバンドの仲間入りを果たします。
大御所 レッチリも2枚組の大ボリュームアルバムを放っていて、まだまだ第一線に立ってますね。
そして何より忘れてはいけないのがマイ・ケミカル・ロマンスですね。
パニックアットザディスコやパラモアなども含めて、空前のエモブームを牽引します。
アルバム『The black palade』はクイーンに影響を受けた痛快なロック・オペラであり、まだまだ過小評価されてると感じます。
そしてこの年のイギリスは、アクモンと共に稀代の天才シンガーを送り出します。
それがエイミーワインハウスですね。
50~60年代のジャズやソウルの歌唱をそのまま現代に甦らせたような、ミッシング・リンク的人物です。
彼女がいなければアデルもいなかったと考えれば、その存在のデカさが分かるでしょう。
このように新たなニュースターが数多く生まれたものの、アメリカのポップス業界に関しては変わり映えしない印象です。
当たり前のようにプッシュされディーヴァとしての地位を確立していくビヨンセや、ティンバランド系列の刺激的なエレクトロポップへより舵を切ったジャスティン・ティンバーレイクは確かに注目しがいがありますが。
2007年
1位 エイミーワインハウス
2位 リアーナ
3位 カニエ・ウェスト
この年の1位は先程述べたエイミーワインハウス。昨年のアルバムが大ヒットし、彼女のドラッグ浸りの破天荒な生活というゴシップ的要素も話題になり、各地でエイミー現象が起こりました。
2位はDef Jamが引っ張りあげてきた秘蔵っ子 リアーナ。
エレクトロR&Bはこれまで何度もありましたが、この時期のリアーナの楽曲は、80年代のシンセポップや後のEDMの高揚感とも共鳴するようなサウンドを作り上げており、明らかに次世代に向けて妥協することない姿勢が見えてますね。
他のR&Bに関して言うと、ティンバランドもこの辺くらいまでネプチューンズと並んでヒットメイカーとして君臨してましたね。
HIPHOP業界は、ギャングスタの象徴 50セントとナードの象徴 カニエ・ウェストの両者が新作を同日にリリースするというセールス対決が注目を集めました。
結果は50セントが69万枚、カニエが95万枚で、見事カニエが勝利を収めました。
村上隆がジャケットを手がけたという話題性と、ロックやエレクトロの要素もふんだんに入れてきてビートがさらに多彩になったことがカニエを勝利に導いたのでしょうね。
アークティック・モンキーズも引き続き2作目を発表し、前作がマグレの代物でなかったことを証明しましたね。
レディオヘッドも『In rainbows』にてポストロックをさらに脱し、新たな境地に達しました。
他にもオルタナティブなアーティストは数多く現れており、例えばインディーフォークの雄 ボンイヴェール、エレクトロニカからロックに挑戦したLCDサウンドシステム、地域性の強いダンスビートで刺激的な音楽を届けるM.I.Aなどですね。
こういった奇天烈なインディ楽曲がピッチフォークなどのネットメディアから支持を集めてる現象は、今ではよく見られる現象ですけど当時はそれがありのままに受け入れられてたのかもしれません。
2008年
1位 コールドプレイ
2位 ビヨンセ
3位 カニエ・ウェスト
レディオヘッドにもろ影響されたインディー青年達から、スタジアムでも演奏できる耐久力を身につけ、ついに「Viva La Vida」で壮大なサウンドスケープを提示したコールドプレイが受賞することになりました。
まあ今となってはキョロ充だの金満バンドだの散々な言われようのコールドプレイですが、ここまで作風をチェンジして成功してる時点で普通に凄いバンドですよね。
それにオーケストラのああいう使い方といい、洋楽のひとつのフォーマットを生み出した気がしますね。イマジンドラゴンズとかワンリパブリックとかあの辺ですね。
ただインディーロックバンドの系譜は廃れておらず、キングスオブレオンやヴァンパイアウィークエンドなんかもNMEのプッシュによってインディーファンから認知されます。
さて、サウスのHIPHOPシーンはアウトキャストやミッシーがいなくなってから、絶対王者が存在してない状況でT.IとかClipseとかYoung buckとかが新たなサウンドを開拓しつつ群雄割拠の状態だったのですが、その中でもリル・ウェインはラップスキルも高くスター性を兼ね備えており王者の座にあと一歩といった具合でした。
そしてカニエ・ウェストですよ。
もう2000年代の中なら最高のクリエイターに据えてもいい気がしてきましたが、この年さらにカニエはさらなる可能性を求めて足を踏み入れます。それは「オートチューン」。元々T-painがこのエフェクトを使用していましたが、カニエの4作目『808&heartbreak』にて母の死を悼むためにオートチューンを使い、内省的な世界観を表現することに成功します。この当時はまだカニエの異色作と捉えられてましたが、後にFutureやドレイクによってそのスタイルはより一層ラップシーンの基本フォーマットとして定着することになります。
2位のビヨンセはこの年フェミニズムを前面に出した『Single ladies』が大ヒット。ただのディーヴァではなく女性のエンパワメントの文脈としても歴史に名を刻むことになります。
そして、カントリーの才女としてテイラースウィフトも大ブレイク。まだ芋臭い印象です。
そして何より新たなポップスターとしてレディーガガがデビューしてます。
2009年
1位 レディーガガ
2位 デヴィットゲッタ
3位 テイラースウィフト
この年はEDM旋風、これに尽きますね。
もうこれまでのアメリカの業界に殴り込みをかけるとんでもないゲームチェンジャーですよ。
レディーガガが新時代のポップスターとして君臨し、デヴィットゲッタがBlack eyed peasを使ってヒットを飛ばしまくるという未曾有の現象が起こりました。KESHAとかも売れましたね。
ただこうしてダンスミュージックが覇権となったことによって、The xxのような内省的なクラブミュージックなども「カウンター」として注目されます。これが後にポストダブステップの流れとなり、DTM音楽の需要も増していくわけですね。
HIPHOPも一気にEDMに押され、JayZの復活とドレイクのデビューくらいしかニュースがありません。
なので3位の座には前年のヒットの余波からテイラースウィフトが座ることに。
○インフレ度
2000年 8.5
2001年 7.5
2002年 5.0
2003年 6.0
2004年 5.0
2005年 4.0
2006年 4.5
2007年 4.5
2008年 4.0
2009年 3.0
んー低い!過去の記事を参照したらわかると思うのですが、一気に冷え込む形となっております。データから各年代の平均値を取ってみると、60年代は6.15、70年代は11.75、80年代は9.65、90年代は9.2などと、まあ非常に高い数値を記録してるわけですが、00年代は5.2という一気に低い数値になってます。
高尚で文系ナードの要素を強めたロックバンドが多くなったことで、ロックスターが非常に出にくくなったというのと、一方でHIPHOP/R&Bは確かに商業的成功を収めてたのですが、90年代と10年代とを比べても思い返すようなアーティストが少ないんですよね。
しまいには、それらのスターもEDMの波によって一部を除いて喰われる始末で。
もちろん洋バロにノミネートしている方々は紛れもなく実力者ですよ?
しかしそういう人達の総数が圧倒的に足りないわけです。
それに辟易してた当時の人たちはネット上で刺激的なインディー音楽をdigってたんですかね。現にこの時代のピッチフォークが推してたアーティストは今でも刺激的です。
さてこっから先の10年代ではさらなる状況変化が訪れます。見ものですね。